プロメテウスの政治経済コラム

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日本占領の例を持ち出し、イラク占領継続を正当化するブッシュ演説 そのお粗末な歴史認識

2007-08-24 18:53:01 | 政治経済
朝鮮戦争やベトナム戦争などの退役軍人らを前に演説したブッシュ大統領は、米軍駐留がイラクを「不安定化させている」という批判があることを認めながらも、「イラクでの民主主義の実現は、米国民をテロリストの攻撃から守りつづけるために決定的な意味を持つ」などと改めて戦争継続を正当化した(「しんぶん赤旗」8月24日)。
冒頭は9・11テロかと思わせて、実は日本の真珠湾攻撃の話をする、という仕掛けだ。戦前の日本をアルカイダと同列に置き、米国の勝利があって初めて日本が民主化した、という構成をとっている。
「ある晴れた朝、何千人もの米国人が奇襲で殺され、世界規模の戦争へと駆り立てられた。その敵は自由を嫌い、米国や西欧諸国への怒りを心に抱き、大量殺人を生み出す自爆攻撃に走った。アルカイダや9・11テロではない。パールハーバーを攻撃した1940年代の大日本帝国の軍隊の話だ。最終的に米国は勝者となった。極東の戦争とテロとの戦いには多くの差異があるが、核心にはイデオロギーをめぐる争いがある。日本の軍国主義者、朝鮮やベトナムの共産主義者は、人類のあり方への無慈悲な考えに突き動かされていた。イデオロギーを他者に強いるのを防ごうと立ちはだかった米国民を殺害した。 ・・・国家宗教の神道が狂信的すぎ、天皇に根ざしていることから、民主化は成功しないという批判があった。だが、日本は宗教、文化的伝統を保ちつつ、世界最高の自由社会の一つとなった。日本は米国の敵から、最も強力な同盟国に変わった。我々は中東でも同じことができる。イラクで我々と戦う暴力的なイスラム過激派は、ナチスや大日本帝国や旧ソ連と同じように彼らの大義を確信している。彼らは同じ運命をたどることになる」(asahi.com 同上)

なぜ、第二次大戦後の日本占領によって民主化が進んだのか。なぜ、イラク占領は混乱に陥っているのか。これらの問題を解くためには、それぞれの国内体制の違いとともに、そもそも、二つの戦争の性格にはどのような違いがあるのかが、明らかにされなければならない。
連合国による対日占領(米国の単独占領)は、従来の帝国主義戦争の結果とは異なる世界史的にもまったく新しいタイプの占領であった。伝統的に占領とは、侵略的軍隊の解体、賠償金の取立てなどを行うのが通例であって、敵国の軍国主義体制の根元にまで手をつけることはなかった。ところが、米国は、連合国の代表としてポツダム宣言の規定に基づき、日本の政治・経済・社会構造の全面改造ともいうべき包括的な占領政策を実施した(中村政則『戦後史』岩波新書2005)。

なぜか。それは、第二次世界大戦が、単なる帝国主義戦争でなかったからである。第二次世界大戦も第一次世界大戦と同様に当初、帝国主義戦争として始まったが、独ソ戦の開始とともにファシズムに対する民主主義の戦い(反ファシズム戦争)という性格が強まった。すなわち、日独伊枢軸国陣営と英米、中国・ソ連などの反ファシズム陣営との戦争であった。後者の勝利によって、日本のファシズム的構造の解体と改造が、戦後の対日占領政策の基本となった。さらに、とくにアジアにおいて、ファシズムの侵略と支配に対する諸民族の抵抗と解放の戦いが反帝民族独立運動と重なった。こうして、戦後世界において民主主義的傾向が著しく発展することとなった

イラク戦争は、対テロ戦争という口実のもとでのアメリカ帝国の中東支配のための単なる侵略戦争である。フセインは独裁政権であったが、テロとは関係なかった。イラクの政治体制は、イラク人が決めることである。アメリカ軍の介入によって、諸宗派、諸民族間の均衡が一気に崩れてしまった。イスラム世界の民主化を外から強制しても混乱するだけである。罪のない住民の命を奪う行動は、憎しみを増幅するだけである。そして、憎しみの増幅は、テロ勢力に活力を与えるだけである
対日占領が成功したのは、占領政策が、歴史の進歩の方向に沿っていたこと、反動勢力の抵抗を天皇を利用して取り込むことができたためである。イラク占領と日本占領とはまったく異なるのだ今回のブッシュ氏の演説は日本を含めた諸外国の歴史や文化への無理解をさらしたお粗末なものであった。都合の悪い事実を捨象し、米国の「理想」と「善意」をキリスト教原理主義の言葉で強引に押し付けるものに過ぎない。

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