プロメテウスの政治経済コラム

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急浮上のTPP   いま必要なのは、「食料主権」を保障する貿易ルール

2010-10-23 20:47:40 | 政治経済

経済のグローバル化が進んだとはいえ、現在は、主権をもった諸国家がそれぞれ分立している状態である。国際貿易をあてにして、持続可能な食料生産を放棄すればどうなるか。ことはレアアース禁輸の比ではない。深刻な食料不足・価格高騰が世界、とりわけ途上国の国民を苦しめている。その背景には、世界貿易機関(WTO)が進めてきた多国籍企業と輸出国にとって都合のいい貿易自由化が、国民への食料供給を保障すべき各国の国内農業を破壊してきたことにある。

日本農業と地域の経済・雇用に重大な打撃を与える環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement=TPP)の交渉参加問題が11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に急浮上してきた。例によって、米国と財界の要求を受けて、菅直人首相が11月のAPEC首脳会議への“土産”にしようとしているからだ。だれもが安全で栄養のある食料を手に入れる権利、十分な食料を得る権利を実現するためにいま必要なのは、「食料主権」を保障する貿易ルールの確立である

 

7日に開かれた第47回日米財界人会議は、環太平洋経済連携協定(TPP)と日米EPA(経済連携協定)を、「遅くとも2015年までに実現」させるよう要求した。親米・親財界派の前原誠司外相はAPECまでに基本方針をまとめるように菅首相から指示があったとして、早速、「国内総生産における(農林水産業などの)第一次産業の割合は1・5%、1・5%を守るために98・5%のかなりが犠牲になっている」と農業切捨て論までぶち上げた(「しんぶん赤旗」20101023日)。

TPP協定の最大の特徴は、2015年までにあらゆる分野の自由化・関税撤廃を実施することである。一般的なFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)では、貿易額で1割程度は通常、協定の例外にとして認められる。それに比べても、TPPは際限のないものだ。例外を認めないTPPを締結すれば、日本の農業や酪農が壊滅することは火を見るより明らかだ。農水省が2007年に試算したところによると、主食の米の生産量が90%減少、さらに小麦は99%、牛肉も79%、豚肉は70%など、それぞれ生産量が激減する。国産農産物の大幅な減少によって食料自給率(カロリーベース)は現在の40%から12%という驚くべき低水準にまで低下する。国民の食料がほとんど輸入頼みということになる。農業生産額が3兆6000億円減少し、農業機械など関連産業を含めてGDPが約9兆円減少し、雇用にも影響を与え、現在の完全失業者(337万人)を上回る375万人が就業機会を失ってしまう

 

ところが、いまや支配階級の世論操作の走狗となってしまった「朝日新聞」は、“関税撤廃などのTPPで「GDP3兆円増」 内閣府試算”などと大々的に報じている(「朝日」20101022日)。

経済産業省はTPPに参加することで輸出額が約8兆円増えるとの試算を明らかにしているが、日本の輸出は、一握りの大企業がその過半を占める。TPPがだれの利益になるのかは明らかだ。財界は民主党政権だけでなく、政界に広く圧力をかけている。自民党の農水族にも、「“農家には補助金で対応すればいい。これだけは反対するな”とクギを刺している」(財界ジャーナリスト)という。

世界ではいま、地球温暖化や貧困・飢餓など各国の協力が必要な分野が広がるもとで、各国の国民生活を脅かす自由化一辺倒が見直されようとしている


すでに日本の農産物の平均関税率は、12%まで下がっており、「日本は農業鎖国だ」というのは、まったくの事実歪曲である。対米従属のもと“農業がもっとも開かれた国”になってしまっているのが現状なのだ。諸外国の平均関税率は、EU(欧州連合)20%、アルゼンチン33%、ブラジル35%、メキシコ43%。世界の多くの国が、とりわけ自国にとって重要な品目については、しっかりした関税をかけ、国境措置で守っている。すでにここまで関税が下がっているのに、このうえ、関税ゼロというのは、「亡国の政治」以外のなにものでもない。地球的規模で食料不足が大問題になっているときに、豊かな発展の潜在力をもっている日本農業を無理やりつぶすことは絶対に認められない

 


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