プロメテウスの政治経済コラム

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イラク日本大使一行襲撃事件 米軍に警護を依頼する無神経 政府・メディアは完全沈黙

2009-06-20 19:14:42 | 政治経済
『DAYS JAPAN』(2009年7月号)が、イラク日本大使一行襲撃事件を伝えている。5月中旬、首都バグダット西方100キロの位置にあるラマディの病院で、駐イラク日本大使・小川正二氏一行が銃撃され、警護の米兵が一人死亡する事件が起きた。NHKニュースは、小川大使がアンバール県庁を訪れ、州知事と会見し、テロを生む原因にもなっている失業問題について話し合ったとは伝えたが、ラマディ市の名前は一切なかった。日本のメディアも外務省も完全な沈黙を守っている(森住卓「イラク日本大使一行襲撃」『DAYS JAPAN』2009年7月号)。調査報道を敬遠し、発表ジャーナリズムに堕落した日本のメディアの危機を象徴しているようだ。

ラマディは、「スンニ派三角地帯」、「アルカイダの拠点」などと呼ばれたかつての最激戦地である。03年以降、米軍による大量殺戮が繰り返された悲劇の地でもある。拘束から5年ぶりに今年の4月、アンバール県を訪れた高遠菜穂子さんは、「ラマディ市内を歩けば、どこに行っても『知られざる虐殺』を思わざるにいられなかった。集団墓地となった市内の公園にはざっと2000の墓標があった。ほとんどが2006年の日付で、墓標には『殉教者』の文字があった。それはつまり、米軍の攻撃で命を落としたことを意味する。一角には小さな土饅頭がいくつもあり、身元不明だったのだろう、どれも『赤ちゃん』とだけ書かれてあった」とリポートしている(『週刊金曜日』2009/5/29 752号)。

イラク西部のかつての激戦地アンバール県は、この2年間で治安が劇的に改善された。2006年9月に地元部族長が結成した治安維持組織「覚醒評議会」と米軍との間で合意が成立し、①米軍の市内からの撤退、②掃討作戦の中止、③市民の不当逮捕の禁止、④治安権限の「覚醒評議会」への委譲にまでこぎつけたからである。2007年には町から米兵の姿は消え、街中に陣取っていた米軍基地も撤退した。以来、町の平穏が現在も保たれているのだ。

森住さんに、「ラマディを訪問中の日本大使の車列が病院の敷地に入ったところ銃撃され、警護の米兵が死亡」の一報が入ったのは、同氏がラマディから帰ってきた2週間後の5月14日のことだった
森住さんが、外務省の担当者に問い合わせたところ、「(小川)大使は5月13日ラマディ総合病院にODAの視察に行きました。そういう(銃撃事件の)情報が流されていることは存じていますが、銃撃された事実はありません」と否定したという。

しかし、イラクのアル・シャルキーヤTV(5月14日)は、「イラク治安当局によると、イラク西部アンバール県訪問中の駐イラク日本大使を狙った攻撃があった」と報じた。ラマディ総合病院訪問中に同大使を警護していた米軍に対し、武装集団が発砲し、ボディガードが撃たれ1人が死亡した。
さらにイラクの独立系有力紙アザマンは「小川大使は難を逃れたが、イラク人のボディガード1人が殺された。しかしアンバール警察署長は警備の要請を受けていなかった」と伝えた。

事件発生後、ラマディ総合病院で取材した現地記者のアリ・マシュハダニ氏は、森住さんに次のように伝えている。小川日本大使はアメリカの軍用車の警護のもとにラマディを訪れた。警護の軍用車輌は数台。大使が車を降りて、歩いて病院の中に入った後、外で警戒に当たっていた米軍に対してイラクの抵抗勢力が発砲し、米兵1人が死亡した。・・・大使は病院の敷地から外に止まっていた米軍用車輌に乗せられて、ラマディの米軍基地に避難した。大使はその後、米軍のヘリコプターでバグダットへ送られた模様だ。攻撃を受けた米軍は、同大使の避難を優先して、抵抗勢力に対する応戦はしなかった。

森住さんは、現地からの情報を総合して、殺されたのがイラク人か米兵か民間軍事会社の傭兵なのか、通信状態の悪い現地からの情報なので、少し食い違いがあるものの、日本大使一行に対する銃撃事件が起こったことは間違いないだろうと結論づける。
治安が改善され、米軍が町から消えたとはいえ、肉親が殺された市民の怒りや憎しみが癒されたわけではない。アリ記者は「もし大使が米軍用車で来ていなければ、襲撃されなかったのではないか」と指摘している。大使の病院訪問のスケジュールが事前に抵抗勢力に漏れていた可能性があり、攻撃の対象が米兵なのか、日本大使だったのかよくわからない

日本が協力したイラク戦争の後遺症はまだまだ癒えない。日本のメディアは、事件発生から一ヶ月以上たって何の反応もなしである。アメリカのイラク攻撃とは何だったのか、それに無条件に協力した小泉・日本政府は、本当にそれでよかったのか、自分で調査し、検証し、真実を報道するのがジャーナリズムの責任であろう。発表ジャーナリズムに堕落した日本のメディアの危機を象徴しているようだ。

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