プロメテウスの政治経済コラム

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イラン 保守派と改革派の対立の行方と国際政治

2009-06-21 19:15:17 | 政治経済
イランで12日に行われた大統領選挙で、保守派で現職のアハマディネジャド大統領が圧勝と発表された結果をめぐり、改革派支持者と保守派・大統領支持者との対立が深まっている。保守派と改革派の対立の行方は、イランの国内問題であるとともに、米オバマ大統領の中東外交、米英イスラレル主導世界体制から多極化体制への移行など国際政治の今後にも影響を与えそうだ。イラン周辺諸国も固唾を呑んで見守っている。

イランの第10回大統領選挙は、イスラム教シーア派聖職者による厳格な統治の枠内での民主主義と改革をめぐり、厳格なイスラム的規範に忠実な保守派陣営とイスラム教的規制の緩和と言論の自由などを訴える改革派の争いが焦点となった。保守派からは現職のアハマディネジャド大統領、レザイ元革命防衛隊司令官、改革派からはムサビ元首相、カルビ元国会議長が立候補した。
イランでは、ハタミ大統領の時代(05年まで)は、保守派と改革派が拮抗していた。改革派は、米国との関係改善を実現してイランの経済発展と自由化の追い風にしようとした。ところが、ブッシュの米国はイスラム敵視を強め、02年には、イランを政権転覆すべき「悪の枢軸」の中に含め、米イラン間の関係改善は不可能となった。その後、05年の選挙で保守強硬派のアハマディネジャドが大統領に当選し、ハメネイ師とアハマディネジャド大統領による反米保守派路線が強まった(田中宇の国際ニュース解説「イラン選挙騒動の本質」2009年6月20日)。

イランにおける最高権力者は大統領ではなく、その上に立つ宗教指導者(最高指導者)である。1979年のイスラム革命によってこの聖職者支配の体制を作って自ら初代の最高指導者となったホメイニが1989年に死去した後、アリ・ハメネイが大統領から最高指導者に昇格し、現在まで務めている。ハメネイ師は、今回の改革派による「選挙不正」の抗議行動の中止を要求しているように保守派である。
欧米政府やマスコミの改革派支持の表明に対しても、「街頭デモが起きた後、一部の外国勢力が投票結果に疑義を唱え、イランの国内問題に介入し始めた。彼らはイランという国を知らない。私はそのような介入を強く非難する」と述べた(「ロイター」2009年 06月 19日)。
改革派は、最高指導者ハメネイ師の発言を受け、テヘラン市内で予定していた大規模なデモ行進を中止したようだが、市内各地ではなおデモが続いており、警官隊との衝突で多数の負傷者が出ている模様である。

今回の騒動の直接のきっかけとなったのは、現職大統領の「地すべり的勝利」の結果が、“主要都市では改革派のムサビ氏が優位”とも伝えられた事前の予測とはあまりにも異なり、「選挙不正」があったと騒ぎ出したことである。実際に不正があったかどうかは、不正の具体的な事実が報道されておらず、よく分からない。抗議行動が大規模に広がった背景には、アハマディネジャド大統領の4年間の失政への根強い不満があると指摘されている。政府批判派は、石油価格の高騰で莫大な石油収入が流れ込んだのに、これらの資金は国内産業の振興や雇用対策に使われず、地方の貧困層だけを対象とした公共事業やばらまき的な金銭支給に使用されたと批判。こうした政府の政策は、年率20%以上のインフレ、10%以上の失業率の要因ともなり、現政権の政策の恩恵を受けた貧困層と、そうでない都市中間層などとの対立を広げた。外交でも核開発や中東問題をめぐって国際的孤立を深めたと批判の声があがっていた。

イランのアハマディネジャド大統領体制がどうなるかは、イラン国内の保守派と改革派、両派の対立問題にとどまらず、中東情勢や国際政治の動向にも大きな影響を与えそうだ。
中東では、イランはヒズボラやハマス、イスラム同胞団などを支援し、イスラエルと、エジプトやヨルダンなど親米アラブ諸国にとって脅威になっている。イランが内紛に陥って国際政治力を減退させれば、中東での米英イスラエルの影響力を保持しやすくなる(田中宇 同上)。
「核開発は、あくまで平和利用が目的」として、ウラン濃縮停止を求めた国連安保理決議も無視し、「イスラエル抹殺」を叫ぶ、アハマディネジャド大統領の“過激発言”は、米英イスラエル側には厄介な相手にちがいない。といって、ムサビ元首相ら改革派があっさり勝ったら、「イランは改革派政権になったのだから、敵視をやめて協調支援してやるべきだ」ということになるのだろうか。オバマ米大統領の対中東宥和策、イラン対話路線はどうなるのだろうか。
今回のイランの内紛で米国が対イラン宥和策を引っ込めたら、イランは、もっと中露の側に傾き、世界の多極化が加速するだろう。アハマディネジャド氏は、テヘランで反政府運動が起きている最中の6月16日、ロシアのエカテリンブルグで開かれた上海協力機構の年次総会に参加し、ロシアや中国の首脳と会談した。中露は、アハマディネジャド氏の再選を認知し、支持を表明した。米欧中心の世界構造が大きく崩れ始めている。
日米同盟以外に頭が巡らない日本政府は、国際政治の変化からドンドンとり残される一方である。

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