プロメテウスの政治経済コラム

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「海賊対処」法が成立 外国船護衛、船体射撃も自由  改憲派も「画期的」と大喜び 

2009-06-19 16:02:27 | 政治経済
「海賊対処」を名目にアフリカのソマリア沖に派遣している自衛隊に、日本以外の外国船舶の護衛と歯止めのない武器使用を認める「海賊対処」派兵法案が、午前の参院本会議で野党の反対多数で否決されたのを受け、与党は、衆院本会議で採決に踏み切り、3分の2以上の賛成で再可決した。これで、「対テロ」戦争をアメリカとともに戦うという支配階級の長年の宿願が実現に向かって大きく前進した。「海賊」がテロ容疑者に変われば、集団自衛権の行使でも、任務遂行のための武力行使でも、現憲法のままで、自由にやれるところまで来たからである。伊勢崎賢治・東京外国大教授らが憲法の核心が曲げられていいのかと早くから警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、護憲派の反対運動は、政府・与党の違憲立法をまたしても許す結果となった。改憲派は、「外国船も海賊の襲撃から守ることができるようになる。そのことは、武力行使に関する従来の憲法論議に『画期的』な変化をもたらす」と大喜びである。次の選挙で国会を変えて「廃案」にするほかない。

法案は自衛隊への攻撃がなくても、「他の船舶に著しく接近」し、「つきまとい」「進行を妨げる」「海賊」に発砲することを認めている。自衛隊による他国民殺傷や使用武器に制約がないということだ。「海賊」と「テロ」とをどう区別するのか。正当防衛でない以上、「憲法9条の禁ずる武力行使に該当することがないといいきれない」(2001年12月6日参院外交防衛委員会、津野修内閣法制局)と言っていたのに、どう言い繕おうと憲法違反の武力行使そのものだ。護衛艦には1分間に40発もの砲弾を撃てる速射砲や12・7ミリの機関銃、対艦ミサイル、魚雷などを装備している。ジブチを拠点に活動するP3C対潜哨戒機は爆弾投下も可能である。海賊船の大きさや装備から考えて余りにも非対称である。護衛艦やP3C対潜哨戒機は、対「海賊」だけではなく、別の目的をもってソマリア沖に派兵されていると考えるのが自然である
法案は「恒久法」であり、海賊の「危機がなくなるまで」活動を続けるという。「海賊対処」を口実に、なし崩し的に海外派兵恒久法の制定につなげて、あわよくばそのまま、本格的な海外での武力行使に道を開くことを狙っているのだ

国際武力紛争の解決に何度もかかわってきた伊勢崎教授は、いついかなるときも自衛隊の武力を否定する立場ではないが、「政府与党は自衛派兵先にありきという論理です。しかし、軍事行動には大きな外交的リスクが伴う。アメリカでさえ常に慎重に計算しています。それだけのリスクをあえてとり派兵する意味があるのか、日本政府がまじめに検証した形跡はありません」「ソマリアをどうするかは、国連の中でも意見が割れています。慎重派の人たちは、軍事介入は内戦状況のなかで火に油を注ぎ、問題を複雑化させるとして警告を発しています。日本では(国連での議論を)ソマリア沖派兵に都合のいい部分だけを引用して議論しており、現場のことをまったく考えていません」「海賊を避けてソマリア沖を迂回し遠回りすることと、軍隊を出すこととでコストに大差はあるのか。そういう計算や調査をきちんとしているのか。自衛隊を出し、殺し合いになることを何かで償えるのでしょうか」(「しんぶん赤旗」2009年6月17日)と批判する。

私は、自衛隊の海外派兵は、日本国憲法の「平和主義」からいって、理由のいかんにかかわらず憲法違反である、と考える。アジア・太平洋戦争が終わったとき、戦争のなかで「殺し、焼き、奪う」の血なまぐさい歴史を中国その他のアジアの人びとに押し付け、あげくのはてに今度は自分が「殺され、焼かれ、奪われる」ことになった私たち日本人はもう戦争はこりごりだ、戦争にはどんな正義もないという実感をもった。そして私たちは、戦争、軍隊の否定、どんなことがあっても問題の解決には、武力、暴力を用いないという「平和主義」の憲法を選択した。問題の解決に、武力、暴力を用いないとなると、他にどんな解決の道があるのか、それを研究し、実行することが、日本政府や日本国民の責務であり、これこそ他国には真似のできない誇り高い任務である。

ソマリア沖では多くの軍艦がでているにもかかわらず、「海賊」は逆に増えている。「海賊」は軍事だけではなくせないことを示すものだ。国連開発計画(UNDP)のデズモンド・ジョン・マロイ武装解除・動員解除・社会復帰担当シニア・アドバイザーも、参議院外交防衛委員会で、軍事は「効果がない」「アプローチを切り替えるべきだ」と陳述していた。ソマリアの復興をめざす国際協力を主導し、ソマリア周辺諸国の沿岸警備能力強化を支援するなど創意工夫を凝らして国際貢献することこそ、憲法9条をもつ日本の誇り高い役割なのだ。

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