プロメテウスの政治経済コラム

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菅直人氏 第94代首相に  歴史の弁証法について

2010-06-04 21:51:45 | 政治経済
鳩山首相の退陣に伴い、民主党の新代表に選出された菅直人氏が4日午後、衆参両院の首相指名選挙でいずれも過半数の票を獲得し、第94代首相に選出された。これに先立ち、4日午前の閣議で鳩山内閣は総辞職した。鳩山首相は「このたび道半ばにして退くことにした。誠に残念で、国民との約束を全うできず大変申し訳ない」との談話を発表した。退陣に際しての記者会見は行わなかった。
鳩山首相が退陣に追い込まれたのは、談話にある通り国民との約束を果たさなかったからである。第94代菅直人首相も、現在の日本社会が求めている歴史的課題を読み誤れば、早晩行き詰ることが確実である。ある個人が社会発展の法則にしたがって時代が要求する役割を果たすとき、その個人は、歴史の発展に大きく寄与する。しかし、菅直人新代表の政見を聞く限り、歴史の発展に大きく寄与するとは思えない。菅新政権も鳩山政権同様、歴史の弁証法のなかで厳しい試練に立たされるだろう

 小泉政権以降の安倍、福田、麻生政権は、日本を目下の同盟者として米国の国益のために利用尽くすアメリカにも、自国の労働者と中小企業を自己の利益蓄積のために搾取しつくす日本の財界・大企業にもモノ申すことができず、国民の怒りのなかで次々と短命に終わらざるを得なかったった。そのようななかで、鳩山民主党政権は、小泉政権の構造改革と対米従属がもたらした国民要求との矛盾を、押し込まれていた国民の側から反転攻勢に出るという期待を担って誕生した。就任直後の鳩山首相個人は、国民の期待をひしひしと自覚していたのだろう。就任直後の「国連総会演説」の高揚振りにもそれは表れていた。
ところが、日本の支配階級はそれほど甘くない。「CO2排出量を25%削減」と明言した首相演説に対し、“(エネ効率)世界一の国がなぜペナルティを払うのか”と早速、噛みついた。

 労働者搾取を思いのままにするためには、財界・大企業は「使い捨て」にできる派遣労働者を手放すわけにはいかない。鳩山内閣が3月19日、閣議決定した労働者派遣法改定案は、まさに財界の思い通りの骨抜き法案となっていた。
多国籍企業が主人公の現代資本主義にあっては、多国籍企業に選んでもらえる国づくり、地域づくりこそが国家が生き残る道である。国民生活がどうなるかは知ったことではない。そのためには、多国籍企業にとってのコストである、賃金、法人税、社会保障負担等は低ければ低いほどよい。賃金破壊、消費税引き上げ、社会保障費の強制的抑制と本人負担増は多国籍企業の一致した要求である。
鳩山内閣が後期高齢者医療制度の廃止を先送りし、保険料値上げにも何ら手を打たなかったのは、この財界の要求に応えたものであった。日本経団連の御手洗冨士夫会長が今年1月に「税制改革、規制改革を断固として実行を」と発言したことに素早く反応して菅直人副総理・財務相(当時)は1月21日の衆院予算委で、「(消費税を)議論しないとは私も総理も言っていない」と発言。民主党の参院選のマニフェストには、消費税率引き上げと法人税引き下げが明記される予定である。

 日本型開発主義国家のもと、自民党政権が長期に続いたのには、それなりの根拠があった。大企業本位という点では昔も現在も変わらないが、大企業は昔、自己への忠誠心と引き換えに社員や下請中小企業の面倒をみる余裕があった。企業社会に包摂されない地方に対しては、自民党が補助金や公共事業で面倒見た
重厚長大の産業基盤整備と若年労働者を中心とした生活向上要求に応えて日本経済は高度経済成長を達成することができた。この時代、支配階級は自民党派閥の領袖を入れ替えるだけでその支配が揺らぐことはなかった。
しかし、社会の成熟とともに国内市場の需要の拡大が期待できなくなった多国籍大企業は、発展途上国の追い上げ、外国人株主の比重が無視できなくなったこととも相俟って、自国内の労働者や中小企業を見捨て、踏みつけることによって自己の生き残りと利益蓄積を図ろうとした。日本の多国籍大企業はこの十年間、内部留保を百億円近く溜め込みながら、労働者や中小企業に一切還元しようとしなかった
これは、支配階級の強さの反映のように見えるけれども、世の中そんなに甘くはない。昨年の総選挙で日本国民は、多国籍大企業とアメリカいいなりの自公政権にノーを突きつけた。

 そして、危機を感じた支配階級は今度は、鳩山政権を揺さぶり一定の巻き返しに成功したように見えた。しかし、一度自分たちの意思で政権交代を実現した国民は黙っていなかった。支配階級の揺さぶりに負けた鳩山政権を、国民の期待を裏切った政権として退場に追い込んだのだ。
支配階級は鳩山から菅に看板を挿げ替えることで、この危機を乗り越えようとしている。しかし、沖縄県民を先頭に一度目覚めた国民は簡単にはだまされない
日本外交の基軸は日米関係、日米共同声明を維持する、多国籍大企業本位の「新成長戦略」を実行に移し、抜本的な税制改革を行うという菅新首相は、遅かれ早かれ国民から見放されざるを得ない
階級社会では、歴史は階級闘争を通じて発展する。これが個々人の思いを超えた歴史の弁証法なのだ。

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