プロメテウスの政治経済コラム

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鳩山首相退陣  支配階級が民主党の跳ね上がりを許さなかったことが鳩山退陣を招いた

2010-06-02 20:59:47 | 政治経済
鳩山由紀夫首相は2日午前、国会内で開かれた緊急の民主党両院議員総会で、沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題を巡る迷走で社民党の連立政権離脱を招いたことや自らの資金管理団体を巡る「政治とカネ」の問題の責任を取り、退陣する意向を表明した。民主党は緊急の役員会と常任幹事会を開き小沢幹事長を含む執行部が総退陣した(「読売」2010年6月2日14時26分 )。
鳩山政権が国民の高い支持と期待のもとで登場して8ヶ月、期待は急速な失望に変わり、期待が大きかった分、落差も大きく遂に退陣に追い込まれた

 民主党は、「選挙プロフェショナル政党」として、自公政権に対抗するために支配階級の思惑を超えた選挙公約(マニフェスト)を掲げ、総選挙で大勝した。ところが、政権に就いた民主党を待っていたのは、その反構造改革政策、とくに福祉への財政出動に不信を募らせていた財界や、同じくその安全保障政策に懐疑の念を高めていたアメリカという支配階級からの陶冶、揺さぶりであった。鳩山首相は、個人的には「頑張ろう」としたのだろうが、財界やアメリカの圧力に屈し変節、期待はずれの裏切りでとうとう退陣するほかなくなった。支配階級が民主党の跳ね上がりを許さなかったことが鳩山退陣を招いたのだ。確かに、鳩山、小沢の「政治とカネ」の問題は無視できないが、個人的資質の問題を超えて、支配階級の要求を通そうとすれば、国民大衆の利害と衝突せざるを得ない。日本の階級矛盾はそこまで深刻化しているということだ。

 民主党に対する支配階級からの陶冶、揺さぶりは、総選挙直後から鮮明になった。「朝日」は8月31日の社説で次のようにいう。「賢く豹変する勇気も」として、「マニフェスト」は場合によって「見直してもよい」「間違った点や足りない点が見つかったら豹変の勇気を持つべきだ」というのだ。そのうえで、小沢との「二重権力」にならないようにと、注意を喚起した。
「朝日」が言いたいことは、二つである(渡辺治「政権交代と民主党政権の行方」『新自由主義か新福祉国家か』旬報社2009所収)。
1つは、民主党は確かに構造改革政治に対する国民の怒りを受けて躍進したが、政権を取ったらそれは忘れてもよいということである。マニフェストに書かれた福祉の政策の実行に手を縛られて、財界の思惑を逸脱しないように、とりわけ、福祉実行に走りすぎて、財政赤字をふくらませ構造改革を後退させてはならない。これが「賢く豹変する勇気」の中身であった。
もう1つは党内で勢力を強大化させた小沢の力を抑えろということである。これは民主党に、間違っても旧自民党型の利益誘導政治に戻るなという警告である。福祉の政治も開発型政治への復帰もだめだ、脱開発型、新自由主義の政治をもう一度立て直せという財界からの陶冶、揺さぶりを「朝日」が代弁したのだ。

 アメリカからの陶冶、揺さぶりは、9月6日付の「読売」に登場したマイケル・グリーンの忠告である(渡辺治 同上)。
グリーンは、選挙期間中のマニフェストにとらわれるなと強調した。「民主党は、オバマ政権が選挙運動用の美辞麗句を捨て去り、『政権を握ったら話は別』と割り切った先例に学ぶべきだ」とし、普天間基地「移設」も、日米地位協定見直しも「野党の立場から、不満を持つグループと一緒に批判する」のではなく「政権に入ったら現実的な解決策をまとめよ」と断言した。
もともと日米同盟を見直す気のない民主党は、オバマ政権の強い圧力を受けて、まず岡田外相、北沢防衛相が早々と転向してしまった。しかし、民主党の大勝が、構造改革の転換と平和を望む国民の声に押されて達成されたことを党代表として強く自覚していた鳩山首相は他の閣僚のように簡単に屈服するわけにいかなかった。さりとて、アメリカにモノ申すだけの勇気もない。とうとう圧倒的な沖縄県民を敵に回し、福島瑞穂にまでいい格好をされて辞任に追い込まれてしまったのだ

 なぜ、日本では首相が次々と変わるのか。国民は個人の資質に目がいって深く自覚していないが(マスコミもそれを煽っている)、結局、共通しているのは、自民党にも民主党にも「端的にいって二つの致命的な欠陥がある」ということだ。いま、自民党の分解が進み、新党が乱立しているが、これらすべての党にも共通している。それは、米国にも財界・大企業にもモノをいえないということだ。
「日本の政党は二つのメジャー(ものさし)ではかられます。一つは米国に正面からモノがいえる党か、それとも米国からいわれて唯々諾々と従う党か。もう一つは財界・大企業に正面から社会的責任を果たせといえる党か、それとも財界・大企業の要求に従う党か。これこそ参院選の大きな争点です」(5月19日外国特派員協会での日本共産党志位和夫委員長の講演)。
福祉でも日米同盟でも、国民の要求を実現しようとすれば、財界・大企業や米国にモノを言わないわけにはいかないのである。日本の階級矛盾はそこまで深いということだ

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