プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

補正予算案を閣議決定  円高・デフレの根本原因に手を付けない「円高・デフレ対応のための緊急対策」

2010-10-27 21:39:30 | 政治経済

菅内閣は26日、「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を盛り込んだ2010年度補正予算案を閣議決定した。29日に国会に提出の予定である。しかし、円高・デフレの根本原因に手を付けない「円高・デフレ対応のための緊急対策」は、当然のことながら、円高・デフレ対応に効果がない。本当に円高、デフレを是正しようと思ったら、家計を直接応援する、内需を活発にする政策が必要だが、資本家的イデオロギーに取り込まれた諸政党に、そのような革新的発想を期待するのは無理な話である。公明党はすでに補正予算案への賛成方針を固めたという。社民党も民主党・国民新党との連立は解消したが、補正予算案の規模についての合意文書には社民党も名を連ねており、補正予算案に賛成する方向である。自民党は若干の政治的パフォーマンスをやるかもしれないが、自民党流を踏襲する菅民主党に基本的に反対する理由がない。こうして、政治を抜本的に変革しない限り、社会の閉塞、国民の苦難は続く。

 

円高・デフレに対応するための緊急総合経済対策の規模は、補正予算として計上する4兆8513億円と、公共事業を前倒して契約する2388億円分の「国庫債務負担行為」を合わせ、約5兆900億円である。焦点の財源については、税収見積もりの上方修正2兆2470億円、国債費や予備費などの減額1兆4313億円、決算剰余金からの繰り入れ8124億円を充て、新規の国債発行を回避した。財務省の財政再建原理主義が貫かれた形であり、マクロ的にみても補正予算案の景気浮揚効果は限定的である
閣議決定された補正予算案には、新卒者・若年支援の強化や中小企業の資金繰り支援など、一定の緊急対策も盛り込まれているが、三大都市圏の環状道路や国際空港・港湾など、不要不急の大型公共事業やアジア経済戦略の推進、レアアースの確保など、「新成長戦略」の推進・加速といった大企業支援策が目立つ。全体としてこれまでの自民党流対策の域をでない。

 

今回の円高は、世界の経済情勢と日本経済の独自のゆがみが絡み合っている。直接的な原因は、アメリカ経済の減速と先行き不安、ユーロ圏の不安定化によって、相対的に値下がりリスクの少ない円を投機資金が買っていることである。同時に、繰り返される円高の根っこには、労働者、中小企業を犠牲にして輸出で稼ぐ大企業が日本の経済・政治を牛耳っているという日本独特のゆがみがある。労働者、中小企業を犠牲にするから、国内の需要不足から物価が下がり、大企業はますます海外依存を強め、円高体質を強める。物価が下がるということは、見かけ上の通貨の価値が上がり、これがまた円高を促進する。そして強欲輸出大企業は「円高の悪影響」を声高に叫び、労働者・中小企業への搾取・収奪をますます強化するとともに、政府・日銀に対して、いっそうの大企業支援策をとらせる。だから円高、デフレから脱却する道の処方せんは同じである。労働者、中小企業を犠牲することをやめさせ、働く人の収入を引き上げ、内需を活発にする。そのことによって、デフレや円高から脱却していく、ということだ。これには、企業行動を本格的に変えていく政治のイニシアチブが必要である。

 

いま政府がやるべきことは、労働者派遣法の抜本改正や最低賃金の大幅引き上げ、長時間・超過密労働の規制強化、中小企業と大企業との公正な取引ルールの確立など、労働者と中小企業への犠牲の転嫁をやめさせることによって大企業の利益とため込み金を国民に還流させ、日本経済のゆがみを正すことである。

円高・デフレの根本原因に手を付けない「円高・デフレ対応のための緊急対策」は、所得低迷と不安定雇用にあえぐ庶民や経営悪化に悩む中小企業にはあまりにも冷たい補正予算案である。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。