プロメテウスの政治経済コラム

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田母神前航空幕僚長の「啓蒙」活動  8・6広島講演は図に乗り過ぎだ!

2009-07-27 21:00:18 | 政治経済
日本が侵略国家だったというのは「濡衣(ぬれぎぬ)」だと、戦前の日本のアジア侵略を否定する論文を発表して更迭された前航空幕僚長田母神(たもがみ)俊雄氏。空自トップの職は解かれたが、空自の最高階級となる空将の身分は保たれたまま、定年退職扱いとなって退職金を受け取り、いまや、意気軒昂と全国各地で「啓蒙」活動を続けている。「日本会議」の動員にも助けられて、どこも満員の盛況らしい。図に乗った本人は、原水爆禁止2009年世界大会が開かれる広島で、選りによって8月6日、「ヒロシマの平和を疑う」と題した講演をすると息巻いているという。「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の岡本三夫氏らは、「広島市民が喪に服している日に、その原因をつくった原爆を賛美する核武装論をぶつことは、看過できない」、「田母神氏が『言論の自由』を言うなら、自由の裏には『言論の責任』があると指摘したい。被爆者の心を傷つけ、歴史の事実をわい曲する責任を、どう取るのか」と怒っている(「しんぶん赤旗」2009年7月24日)。

田母神論文の背景には、政府が自衛隊の増強を続け、90年代以降海外派兵などの任務を与え、自衛隊がいよいよ米軍と一緒に実際の戦闘に参加する日が近づいているという自衛隊上層部の高揚感とある種の危機意識がある。「これからは自衛隊を張子の虎にしておくことでは済まされない。行動する自衛隊は士気が高くなければ任務を遂行することはできない」(自衛隊内誌『鵬友』04年7月号)。そのとき、自衛隊は元気でなくてはならない。「我が国の歴史に対する贖罪意識を持っているようでは部隊を元気にすることは出来ない」、「精神的に萎縮していては戦いに勝つことはできない」。そしてさらに、海外で武力行使をする自衛隊を国民が白い眼で見ているようなことでは話にならない。「国民が正しい歴史観をもつために自衛隊がやれることがあるのではないか」、「国防意識を高揚するのも自衛隊の任務だと考えた方がいい」、「(とくに幹部指揮官は)月刊誌に論文を投稿したり、講演でも国民を啓蒙する気構えをもって頑張ってほしい」(『鵬友』04年3、7月号)。「啓蒙」、つまり正しい考えを国民に教える、その役割を自衛隊が負う必要がある。そのためには幹部もしっかり勉強しろ、というわけだ

軍隊というものは、有形要素と無形要素によって成り立つものである(内藤 功「日米同盟下の自衛隊の危険な実態と野望」『月刊憲法運動』09年1月 377号)。
有形要素は、兵器、戦術、編成、補給等であり、無形要素は兵員の士気、戦闘意欲、任務意識等精神的思想的な強さからなる。自衛隊の海外派兵が増え、兵器は進歩し、共同演習で戦術は高度化したが、肝心の精神思想教育はこれに伴っていない、というのが自衛隊上層部の認識である。とくにイラク、インド洋派兵以降、精神疾患、自殺、任務離脱、行方不明、いじめなど精神的脆さが目立っている。米軍と一体の戦闘、米軍なみの戦場での戦争に耐えられる隊員の育成は、自衛隊にとって喫緊の課題である。しかし自衛隊は、生まれながらに特定の支配層を除いて、日本国民に広く受け容れられ難い不幸な宿命をもっている。この暗い陰が隊員の士気にも影響している

自衛隊は、アメリカの戦略に組み込まれた軍隊として誕生し、その枠のなかで、海外への攻撃戦力として強化・変貌させられてきた。アメリカ帝国主義の目下の同盟軍であるから、どうしても日本国民及び外国の人民を敵視し、監視するという本質を持つことにならざるを得ない。然るがゆえにわが日本国憲法に真っ向から違反する。アメリカの戦略に組み込まれた軍隊だからといって、自衛隊員をアメリカ流ヤンキー魂で精神教育するわけにはいかない。結局、「日本はよい国だ」「日本は侵略していない。自衛の戦争をやってきたのだ」ということを基本とする旧日本帝国の軍隊の精神教育をとりいれる、そのためにはまず何よりも、贖罪意識を払拭しなければならないということになってしまっている。「日本の国は悪い国だと教えて立派な日本人が育つだろうか。誰が悪い国を命をかけて守ろうとするだろうか」「侵略どころかむしろ日本は戦争に引きずり込まれた被害者なのである」(田母神独占手記『Will』2009年1月号)
田母神氏の目的は、自衛隊を米軍ととともに海外で戦闘して敵に勝てる、精神的にも強い軍隊にしたいということである。そのためには当然、憲法の改正が必要であり、国民を「啓蒙」するのもそのためである。

田母神氏は、自衛隊員の精神的弱点を払拭し、国民の国防意識の高揚を目指して「啓蒙」活動に精を出している。しかし、自衛隊員の精神的弱点は、対米従属の、憲法違反の軍隊をつくった本質に根ざすものである。しかも今度はその弱点をなくすために侵略戦争美化の思想でのぞもうとする。彼らには二重に決定的な弱点がある。何も知らない若者には、非常にかっこいい話だと思われるかも知れないが、少し歴史を知ったなら、荒唐無稽な話であることは、すぐわかる。広島市内で「ヒロシマの平和を疑う」と叫んでも国際的に笑い者になるだけだ

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1 コメント

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Unknown (孤高の皇戦士)
2009-08-05 00:51:23
言論は自由ね。
いつどこで言論を公表しようと他人に阻止される謂れなし。
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