プロメテウスの政治経済コラム

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北方領土、「何を言おうが日本領土」  威勢がいいのはよいが、歴史を無視しては話にならない

2011-02-17 21:05:28 | 政治経済

枝野官房長官は16日の記者会見で、ロシアのラブロフ外相らが第2次世界大戦によって北方領土はロシア領と確定したとの見解を示していることについて、「ロシア高官が何を言おうが、(北方領土が)我が国の領土である歴史的、法的地位はなんら揺らがない」と反論してみせた。自滅過程に入った菅政権の官房長官がそれこそ何を言おうが、いちいち論評する必要もないかもしれない。しかし、日本の政治言説には、右翼、左翼を問わず歴史的経過を無視した教条的議論があまりにも多すぎる。とりわけ日本のアジア外交の入り口である領土問題は、ナショナリズムと結びついているだけに厄介である。ナショナリズムに訴えると、それ以上の理屈が要らないからである。

 

最近、ロシア政府の閣僚が相次いで「北方領土」を訪問する事態が続いている。歴史的事実と国際的道理に立って腹を据えて交渉するための“論立て”をまったくもちわせないのは、自民党政権に代わった民主党政権も同じである。政権が代わっても外務省官僚の言うがままだから、当然と言えば当然だが。

菅首相は7日、東京都内で開かれた「北方領土返還要求全国大会」に出席し、「昨年11月のメドベージェフ露大統領の北方領土、国後島訪問は許し難い暴挙」だと強い口調で非難した。これではこちらから喧嘩を売っているようなもので、前原外相が10日から北方領土問題の解決に「政治生命をかける」と意気込んでロシア訪問に臨んでも、始めから「考え方の違いは埋まらず、平行線だった」という結果は目に見えていた。

ロシア側の立場は、「日本が第2次世界大戦の結果を認めないかぎり、領土交渉の進展はありえない」ということだ。

 

 

私たちは、第2次世界大戦終結前後の歴史的経過をしっかりと踏まえることから出発しなければならない。これは、なにも歴史的結果をそのまま無批判に受容するということを意味しない。ただ、歴史的経過を無視したのでは、相手は端から、話合い、交渉の土俵に乗らないということだ。

日本国内では、「北方領土」問題にしても、尖閣問題にしても、また竹島問題にしても、日本の固有の領土であるから日本のものである、という主張が右翼、左翼をとわず、説明の違いがあるとしても、ほぼ自明なこととして受け入れられてきた。しかし、第2次世界大戦の結果からすると、ポツダム宣言及びそこで引用されたカイロ宣言などの国際的な文書において示されている国際的な了解が議論の大前提となる。つまり、これらの島々の帰属を決定するに当たっては、「日本の固有の領土であったか否か」は国際的には考慮される事項ではなく、連合国間の合意によって決められることになっていたのだ。誤解を恐れずに簡明直裁に言えば、「仮に過去においては日本の固有の領土であったとしても、これらの島々の領土的帰属先を決定するのは連合国であって日本ではない」ということがポツダム宣言第8項で明らかにされているということだ。そして、サンフランシスコ平和条約の規定は、カイロ宣言及びポツダム宣言の枠組みのもとで決められたということだ(浅井基文ブログ「日本の領土問題の歴史的・法的起源」)。

 

ポツダム宣言第8項は、<「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク、又日本国ノ主権ハ、本州、北海道、九州、四国、及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ。>ということで、日本の領土は、吾等(the United States, Great Britain and China)が決定すると言っている

無条件降伏した日本におけるソ連全権代表であるジェレビャンコに対する1945817日付のスターリン指令書(要旨)は次のようになっている。

「クリル列島及び釧路と留萌を含む両市を結ぶ線の北半部の北海道を、ソ連軍占領地区とするよう米国政府に要求した。また、東京におけるソ進軍の駐留地域をソ進に提供する問題をマッカーサー将軍に提起すること」

また、ソ連極東軍総司令官のワシレフスキイ元帥の隷下部隊に対する821日付の命令書(要旨)には、次のように書かれている。
「北海道とクリル南部における上陸作戦の開始は最高司令官(スターリン)から追って命令される。南サハリン占領後、第
9航空軍と太平洋艦隊をサハリンに移動させ、23日以降は北海道北部の占領態勢に入る。太平洋艦隊は大陸の2個師団を北海道に輸送することも考慮せよ」

 

第二次世界大戦は、独・伊・日のファシズム枢軸国陣営に対する、英、仏、米、ソ連、中華民国などの反ファッショ民主主義陣営との戦争であったが、その内実は、帝国主義国どうしの領土再分割をめぐる戦いでもあったスターリンのソ連も社会主義を標榜する社会帝国主義国であった。敗戦処理というものは戦勝国の身勝手な論理と駆け引きで、敗戦国の預かり知らぬところで決められていくものである。悔しいが、「領土不拡大の原則」に反して「ソ連が日ソ不可侵条約を破棄して対日参戦するならば、その代償として千島、南樺太の領有を認める」というヤルタ秘密協定におけるルーズベルトとスターリンとのヤミ取引は歴史的事実である。「北方領土」は千島でないなどと屁理屈をこねても戦勝国には通用しない


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