プロメテウスの政治経済コラム

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米証取委、詐欺容疑でゴールドマンを提訴  「ガバメント・サックス」を規制できるか

2010-04-21 21:00:14 | 政治経済
米証券取引委員会(SEC)は16日、低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」関連の金融商品の販売で、米金融大手ゴールドマン・サックスが投資家に誤った情報を提供して巨額の損失を負わせたとして、ニューヨークの米連邦地裁に証券詐欺で提訴した。「ガバメント・サックス」と呼ばれるくらい政権と密接につながるゴールドマン・サックスを提訴したということは、人気凋落のオバマ政権がウォール街への規制強化で挽回しようとの決意の表れだろうか。ウォール街の大手金融資本は、2008年の金融危機に懲りるどころか、政府の緊急救済策に乗じてかえって“焼け太り”している。果たしてオバマ政権は、「金融帝国」アメリカの心臓部というべきウォール街の強欲資本家たちに規制のメスを入れることができるのだろうか

 アメリカを代表する投資銀行の二本柱、ゴールドマン・サックス・グループとモルガン・スタンレーは、2008年の金融恐慌の最中に、連邦準備制度理事会(FRB)の緊急救済資金供給措置の活用を狙って銀行持ち株会社に転換することにした。これで、米国大手証券投資銀行5社がすべて消滅し、「投資銀行のビジネスモデルの崩壊」、「ウォール街の終焉」などと言われた。公的資金の活用と同時にFRBの監督下に入ったので、ハイリスク・ハイリターン取引にも規制がかかるものと思われた。しかし、両行は、おとなしく商業銀行的事業を拡大・強化したわけではなかった。

 アメリカ経済の金融化が進むなかで、財務省・中央銀行などの金融テクノクラートは、ウォール街から送り込まれ、ウォール街と政権(財務省、連銀)は一体化した。そして、その金融テクノクラートには、ゴールドマン・サックス出身者が圧倒的多数を占める。ゴールドマン・サックスが「ガバメント・サックス」と呼ばれる所以である。クリントン政権のロバート・ルービン財務長官、ブッシュ政権のハンク・ポールソン財務長官、オバマ政権のニューヨーク連銀総裁ウィリアム・ダドリー、商品先物取引委員会委員長ゲーリー・ゲンスラーもみなゴールドマン・サックス出身である(山脇友宏「21世紀型金融恐慌と米国金融独占体(下)」(『経済』2010・4)。

 FRBが2008年9月リーマン・ブラザーズが破綻した翌日、米国最大の保険会社AIGに対する最大850億ドルの救済融資を決定したとき、ゴールドマン・サックスを救済すると同時に、金融危機をアドバンテージ(有利点)に変える舞台が準備された。AIGは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を通じて、巨額の貸し倒れ損失を保証しており、AIGを政府救済しなければ、致命的な金融連鎖恐慌が発生する恐れがあった。これによって、ゴールドマン・サックスは巨額の債権が不良化することを回避することができたのだ。当時のポールソン財務長官とゴールドマン・サックスの最高経営責任者とティモシー・ガイトナーニューヨーク連銀総裁(後にオバマ政権の財務長官に就任)との事前の綿密な打ち合わせがあったという。リーマン・ブラザーズを切り捨て、メリルリンチをバンク・オブ・アメリカに救済合併させるよう財務省-ウォール街複合体を誘導したのも、メリルの破綻が自分たちに波及することを恐れたゴールドマン・サックスだったという(山脇友宏 同上)。

 ゴールドマン・サックスの金融危機からの脱出と業績回復が急速に進んでいる。危機のなかにあって、政府の緊急政策を活用しつつ、高いリスクを取り、リターンを総取りできる蓄積のシステムを「ガバメント・サックス」として築いたのである。リスクテイキングなゴールドマン・サックスの企業体質と戦略には何の変化も見られない。危機対策を口実に大幅なリストラを敢行して残ったゴールドマン・サックスの幹部職員たちは、強欲の限りの高額報酬を復活させているという。ゴールドマン・サックスは、金融危機のなかで破綻寸前の大銀行間の救済合併のアドバイザー、オルガナイザーとして、また緊急増資や新株発行の引き受け者として、危機そのものを利用しつつ「焼け太り」して復活し、急成長しているのだ(山脇友宏 同上)。

 リスク・トレーディングが高収益の最大要因であることを公言し、法外な役員報酬を復活するゴールドマン・サックスに対する全米の批判をオバマ政権は無視できなくなっている。オバマ大統領が発表した金融規制強化案は、立案の立役者ポール・ボルカー氏の名をとって、「ボルカー・ルール」と呼ばれている。今年1月、民主党がとりわけ強いマサチューセッツの上院議員補欠選挙で、それも物故したテッド・ケネディ上院議員の弔いとなる選挙で民主党候補がまさかの敗北を喫した。こうしたなかでゴールドマン・サックスが、証券詐欺で提訴された。果たしてオバマ政権は、「金融帝国」アメリカの心臓部というべきウォール街の強欲資本家たちに規制のメスを入れることができるのだろうか。

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