プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

教育基本法改悪案 どこが問題か

2006-04-29 18:29:41 | 政治経済
政府は28日、今国会での成立をねらって、教育基本法改悪案を国会に提出しまし。教育基本法は、「日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示」(教育基本法の前文)したものです。こんな大事な問題を、国会会期の残り三分の一という短い期間で一気に通すというやり方はあまりにも乱暴というほかありません。

政府の改悪案でまず重大なのは、いまの教育基本法が厳しく禁じている教育への国家権力の介入を、公然と進めるものになっている点です。
現行法は第10条で「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」と定めています。政府案は、この後半部分を削り、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」と書き換えています。

現行の条文に込められていたのは、戦前の教育への反省です。教育が国家権力の強い支配のもとに置かれていた当時、教師は「お国のために死ぬことこそ栄誉だ」と教え、教え子を戦場に送る役割を担わされました。この痛苦の経験から、今後教育に携わる者は、上からの命令に強制されるのではなく、目の前の子どもや保護者に対して直接に責任を負うという立場で教育にあたるべきだというのが、教育基本法の第10条の精神です
改悪案は“今後は法律に従って教育をしろ”というのです。教育基本法の精神を180度転換させ、「国民のための教育」ではなく「お国のための教育」を支える法律へと、変質させてしまうものです(「赤旗」坂井希記者06.4.29)。

改悪案は、前文と十八条で構成されています。
前文では、現行法の「(憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつ」とした部分を削り、「真理と平和を希求」を「真理と正義を希求」に書き換え、「公共の精神」、「伝統を継承し」などを新たに盛り込んでいます【平和と民主主義の憲法理念は教育とは無縁、ブッシュの正義を教えることもできる】。
「教育の目標」に「我が国と郷土を愛する…態度」など多数の“徳目”を列挙し、その「達成」を求めています【「教育の方針」は達成度を評価する「教育の目標」へ。「国を愛する態度」の達成度を評価すということは「国への忠誠度」をチェックするということ】。

その他、「9年」という義務教育の期間を削除し(第5条)、子どもたちのふるい分けと学校の格差化、エリート養成のスピードアップを図っています。先端科学技術の開発のための大学教育(第7条)、学校設置の多様化をめざす私立学校(第8条)を新たな項目を設けて規定しています。これらを効率よく進めるために、教員の国策への忠誠と動員を義務付ける(第9条)とともに、子どもたちへの基本の徹底、しつけや道徳教育の強化のため家庭教育の重視が強調されています(第10条)。
改革実施のための財政的裏付けとして「教育振興基本計画」の策定が明記されました(第17条)


教育基本法の改悪は、憲法の改悪と連動しています。主権者として一人ひとりの子どもの「人格の完成」を目的とする教育から、憲法改悪がめざす「海外で戦争する国」や「新自由主義国家」にふさわしい人間を育て上げる教育への変質をはかろうとしているのです。
こんな大事な問題を国会会期が残り二カ月を切ったところで、いきなり出してきて成立を図るとは、あまりに拙速ではないか。教育基本法改悪を許さない世論を急速に広げていきましょう。



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