プロメテウスの政治経済コラム

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年金改革 税方式試算  消費税増税への一大世論操作のはじまり

2008-05-20 19:03:07 | 政治経済

政府の社会保障国民会議は19日、基礎年金の財源をすべて消費税で賄った場合、09年度に国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げる財源(消費税1%分)を加えて、現行5%の消費税を9.5~18%まで引き上げる必要があるとの試算を公表した(「朝日」2008年05月19日23時46分)。「消えた年金」に対する不信、所得税や介護保険料、国民健康保険料(税)のほか、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の保険料や個人住民税まで天引きされ、少ない年金がさらに細る不安、滞納・未納の増加で空洞化する制度――たしかに、安心した老後の生活のためには、現在の年金制度の改革は不可欠である。しかし、政府の社会保障国民会議は、税方式の試算を示すことで、社会保障財源=消費税増税への一大世論操の先陣を切ったのだ。

基礎年金の全額税方式化に関して政府が行った初の試算は、2009年度に現行の保険方式から移行した場合、消費税に換算して最低でも9.5%(5%+1%+3.5%)への引き上げが必要になるという消費税増税へ議論を導くものだ。そもそも福田首相が国民会議を設置したのは、次期衆院選をにらんで民主党の会議参加を実現させ、消費税問題で「共同責任」を負わせることにあった(参院の“対立”で野党は参加していない)。 現在基礎年金の財源は、一般財源(税)7.4兆円+保険料負担(国年と厚生年金8.3兆円+厚生年金の企業負担3.7兆円)計19.4兆円である。基礎年金の財源をすべて消費税方式にするということは、保険料が消費税に置き換わり、結局、企業負担3.7兆円がまるまる全国民にかかってくるということだ。

19日の試算では、個々の家計からみて保険料負担が減る分と増税分の損得を試算している。
過去の保険料の納付実績に関係なく六十五歳以上に月額六万六千円を一律給付する案(消費税5%引き上げ案)では、月収三十万円程度のサラリーマン世帯で、保険料負担はなくなるものの、消費税増税分が上回り、差し引き五千―七千円の負担増。六十万円程度の世帯では六千―八千円の負担増となる。企業の負担分をかぶることで家計の負担は増え、消費税の逆累進性からして当然、低所得層の負担が相対的に大きくなる(「しんぶん赤旗」5月20日)。

私たちは、消費税増税・年金改革案の世論操作に騙されてはならない。
国民の年金への不安や不満、不信を解消し、老後の生活を安定化するためには、年金改革が必要だが、消費税増税(消費税の社会保障・年金目的税化)がないかぎり「年金改革」はありえないという方向に国民を追い込むのは間違いだ。軍事費や無駄な公共工事・税金支出の削減、大企業優遇税制の廃止などを頭から放棄しているからだ。消費税を負担しない企業が3.7兆円もの負担軽減になるのだから、別の形できちっと社会保障税を徴収しなければならないが、その議論は、隠したままである。さらに政局がらみでは、消費税方式は自民党の民主党抱き込み、揺さぶりの突破口である。
「年金や社会保障の改善になるなら少しぐらい消費税が上がってもまあいいか」と一度騙されると「税率引き上げか給付の削減か」という果てしない二者択一の最悪の道に引きずりこまれることになる。

年金改革を議論するとき、忘れてならないことは、医療や介護、住宅など社会保障の制度全体のなかで考えていくことである。医療や介護、住宅などでほとんど自己負担のないヨーロッパの老人と日本の老人とは、まったく違う。仮に10万円の最低保障年金が出ても、医療や介護で自己負担がどんどん増えたら、いくら年金があっても、なんにもならない。問題は高齢者の生活全体の安心、安定なのだ。

「高い」(負担)「低い」(最高で月6・6万円、平均4・8万円、最低保障なし)、「やばい」(制度空洞化)といわれる(公文昭夫氏の言)年金改革は、国民的課題である。これを消費税増税の世論操作に矮小化させてはならない。


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