プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

「生きづらさ」を打破する「共同」の回路をいかに構築するか―現代の変革主体形成論の活発化を―

2008-12-18 20:48:20 | 政治経済
現代の若者を中心に「生きづらさ」が暗雲のように覆いはじめている。ところが、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さんは、「日本の若者が怒りを忘れているように見える。私が活動のなかで出会う若者の多くも『やさしい』人たちで、傷つきやすく繊細である。『怒り』の感情をストレートに表出することなどめったにない」という(「しんぶん赤旗」2008年12月17日)。横浜市立大学教授の中西新太郎さんも1995年以後、若者の困難が増大したにもかかわらず「困難の徹底した私秘化」、「内面への封じ込め」が進んだという(「しんぶん赤旗」2008年12月8日)。しかし、私は「怒りの感情をストレートに表出することなどめったにない」のは、若者に限ったことではないと思う。資本の横暴に対する義憤を「内面に封じ込め」、会社への忠節を尽くしてきたのは、高度経済成長以来いまに続く、まさに大人たちの生き様であった。
自公政権が行き詰まるなか、政治革新が焦眉の課題となっているとき、そして先進国中最悪ともいわれる日本の労働条件の劣悪さを先進国並みの国際標準に引き上げることが焦眉の課題となっているとき、かつての変革主体形成論をいまこそ現代的に活性化することが求められている

私は、かつての変革主体形成論は、左翼陣営にひろく影響を与えていた資本主義の全般的危機論と深くかかわっていたように思う。全般的危機論によれば、帝国主義が支配する資本主義世界体制は、その内包する政治的・経済的諸矛盾の激化によって根底から揺り動かされ、その一角からつぎつぎと崩壊が進行することになっていた。資本の蓄積とともに労働者をはじめとした農民、都市自営業者の状態は悪化し、貧困化が進むから、各国独占資本と各国の広範な人民との矛盾はますますするどくなり、資本主義の体制的危機はますます深まる。資本主義の墓堀人という歴史的使命をもつプロレタリアートの反逆も増大する。
ところが、日本型企業社会のもと、日本のプロレタリアートは、会社と運命共同を誓い一向に反逆しない。一億総中流化といわれ、「日本には階級がない」とまで言われて、変革主体は、一体どうなってしまったのか、それはどのように形成されるのかが“真面目に”議論された。
資本主義は直面する矛盾を克服し、その内部で成長し、発展するダイナミズムをもつ、懐の深いものであるということをまったく理解しない議論であった。独占資本主義を帝国主義と結びつけ、死滅しつつある資本主義としたレーニン理論の一面化が招いた議論であった

資本主義の限界にたどりつくには段階的な発展の手順が必要で、資本主義の枠内での改革をつうじてその手順をしっかり踏むことによってのみその先が展望できる。ルールなき資本主義をルールある資本主義に変質させて、市場の暴力を穏和にし、社会に奉仕する手段として使う経験と能力の蓄積を経由することなくして、いきなり社会主義的計画経済に到達できるものではない。
いま必要なことは、さまざまな職場で、仕事内容・人間関係に即座に対応できる「器用さ」を強制され、自分の「生きづらさ」は、「自分が不器用だから悪いのだ」と思い込まされて、自分自身の感情を押し殺している若者を「自己責任論」から解放し、怒りを社会的に表出する「共同」の回路を構築することである。そのための変革主体をどう形成するかの議論を活発化することである。そしてルールなき資本主義を民主的に制御するために大人がどう立ち上がるかである

北欧を含むEU諸国は、資本主義の枠の中にありながら、日本とは比べものにならない労働条件や福祉の充実をすでに実現している。EU諸国との社会のあり方の相違をみるとき、アメリカや日本の社会が抱える問題の根底に、資本の論理に対抗する社会の力の未熟さがあることは明らかである。
変革主体の形成を考えたとき、日本国民の意志の未熟さ、政治的教養の不十分さがやはり問題とされなければならない。日本型企業社会の中で、なんとか健康で会社やお上に逆らわなければ、生活が維持できるということに長い間慣れてしまって、日本における新自由主義的政策の強まりを許しているうちに若い労働者階級の状態が急激に悪化し、それが中高年層にも及んでいるというのが現在の状況である。

『蟹工船』ブームの一端には、そこに登場する闘う労働者たちに魅力を感ずる若い世代の心情があるのだろう。いまの自分のつらい境遇を抜け出すための何かがそこにあるのではないか、そういう切実な思いがブームの背景にあるのだろう
どういう政治家が、どういう政党が、労働者派遣の原則自由化に賛成し、社会保障予算の削減に賛成し、税の控除の廃止に賛成し、社会保険料の引き上げに賛成し、その一方で法人税や高額所得者の減税に賛成してきたのか、そしてどういう人たちがそういう流れに抗する闘いに努力してきたのか、その事実を知ることが変革主体形成の最初の第一歩であろう。

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