プロメテウスの政治経済コラム

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オバマ米政権の「核態勢見直し」 核兵器の役割を小さくするというが依然として核保有に固執

2010-04-09 21:28:11 | 政治経済
オバマ米大統領がチェコの首都プラハで「核のない世界を目指す」と唱えた演説をしたのは、昨年の4月5日のことだった。オバマ米大統領とロシアのメドベージェフ大統領は8日、チェコの首都プラハで両国の戦略核をそれぞれ1550発以下に削減する新たな核軍縮条約に署名した。12、13両日には核テロ対策を話し合う首脳級会合をワシントンで開く。5月のNPT再検討会議へ向かって核軍縮の機運が高まることは結構なことだが、核大国が、核兵器の脅威で世界を脅しつけるという不平等な体制は基本的に変わらない。核大国が、核兵器保有に固執しながら、NPT(核不拡散)体制強化をいうのは、矛盾である
「破滅的な核の恐怖にさらされた世界から核兵器のない平和で安全な世界へ」進むのが、人類史の必然である。なぜなら、その方向こそが、人間の理性にかなっているからである。オバマ大統領は、「生きているうちには達成されないでしょう」といったが、日本を先頭とした、世界諸国民の世論と運動の力で「生きているうちに」歴史的な転換点をつくり出さねばならない。

 オバマ米政権は6日、今後5~10年の米国の核政策の基本指針となる「核態勢見直し(NPR)」報告を同政権として初めて発表した。報告は核戦略の「五つの重要な目標」として、(1)核拡散と核テロを防止する(2)国防戦略における核兵器の役割を縮小する(3)縮小した核戦力レベルで戦略的な抑止と安定を維持する(4)地域における抑止力を強化し、同盟諸国を安心させる(5)安全で確実、有効な核兵器備蓄を維持する―ことを提示する(「しんぶん赤旗」2010年4月8日)。
米国は、核不拡散条約(NPT)に加盟し、不拡散の義務を順守している非核国に対し、核兵器を使用しないし、核使用の脅しもしない。米国や同盟国の死活的な国益を守るための極限の状況においてのみ、核使用を考慮する。米国は、核以外の兵器による攻撃を抑止する目的では、通常兵器能力を強化し、核の役割を縮小するとする。また、米国が生物・化学兵器による攻撃を受けた場合は核兵器による報復を排除しないとする「戦略的あいまい性」の方針をとらず、これらの攻撃やサイバー攻撃を受けた場合は、核兵器でなく通常兵器で対抗措置を取るとの方針を明確にし、通常戦力による抑止力強化を目指すとする。
ただ、報告は、NPTを順守せず、核開発を進める北朝鮮やイランに対する核攻撃の余地は残した。ホワイトハウス周辺が主張していたとされる、「核兵器の先制不使用」も宣言しなかったのだ。

 オバマ政権の「核態勢見直し(NPR)」報告から読み取れる核戦略の力点は、一つは、NPTを軸とした「核不拡散体制」の強化である。先にロシアとの間で合意した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約について、オバマ氏は軍縮努力を「世界に明確に示す」ものだと強調。それによって非核保有国の拡散防止努力を促そうとの意図を示した。二つは、米ソ冷戦時代のような核対決よりも、核開発を進める北朝鮮・イランのような「孤立した国家」や、テロリストによる核保有を脅威と位置づけていることである。そのため一定の核軍縮措置をとりながらも、核兵器を「抑止力」として引き続き活用する点は変わらず、「核兵器先制不使用」(敵国が核兵器で攻撃してこないかぎり、アメリカは核兵器を使用しない)の宣言もしなかった。
非核保有国からの攻撃の抑止のために核兵器の抑止力に依存しながら、NPT(核不拡散)体制強化をいうのは矛盾である。

そもそもオバマ大統領のプラハ演説の直接の呼び水となったのは、2007年と2008年の1月に提起されたヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツら米国政府元高官4氏による「核兵器のない世界」への2度にわたる呼びかけであった。この呼びかけで、キッシンジャー氏らは、「核兵器がますます広範囲に入手可能となるなかで、抑止力の有効性はますます低下する一方で危険性は増加している」と述べていた。アメリカ支配層は、ニューヨークWTC攻撃の飛行機にもしも核兵器が積まれていたときのことを想像し、身震いしたという。
「孤立した国家」からテロリストの手に核が渡ったら、「核抑止力」の有効性はまったく意味をなさない。彼らは、「核拡散」や「核テロ」と対抗するには、「核抑止力」はもはや有効ではなく、むしろ核兵器廃絶こそが有効なオルタナティブなのだと考え始めたということだ。

 核兵器のない世界は、その実現そのものを共通の目標とし、法的な枠組みに合意し、誠実に実行してこそ達成できる。これを実現する具体的措置としては、そのための「法的な枠組み」を形成しなければならない。この「法的な枠組み」こそ、核兵器全面禁止・廃絶条約―核兵器(禁止)条約であろうと、包括的核兵器禁止条約であろうと、その名称にこだわる必要はない―にほかならない。いま必要なことは、日本を先頭とした、世界諸国民の世論と運動の力でその締結のための交渉をすみやかに開始させることである。

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