プロメテウスの政治経済コラム

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日本の領土問題の正解は?  最後の切り札を持ち出した中国、韓国   ポツダム宣言第8項

2012-10-06 18:48:04 | 政治経済

野田政権が尖閣国有化を決定した9月10日、中国外交部は即日、「釣魚島問題における日本の立場は、世界反ファシズム戦争の勝利の成果に対する公然たる否定であり、戦後の国際秩序に対する重大な挑戦である」とする長文の声明を発表した。9月28日の国連総会でも、 楊 潔篪 外相は、尖閣諸島は戦後、連合国による「カイロ宣言」や「ポツダム宣言」に基づいて中国側に返還されたと主張。その上で、日本政府による国有化は「世界の反ファシズム戦争の勝利に対する公然たる否定であり、戦後の国際秩序と国連憲章に対する重大な挑戦だ」との主張を展開した。
日本国内において、尖閣問題にしても、竹島問題にしてもまたいわゆる「北方領土」問題にしても、歴史的にまた国際法上も日本の固有の領土であるから日本のものである、という主張が日本共産党も含めてほぼ自明なこととして議論が行われていることに対して、「ポツダム宣言を受諾して無条件降伏をした歴史的事実を忘れたのか!」という最後の切り札を持ち出したのだ

 

ポツダム宣言第8項は「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、四国及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」と規定する。つまり、主要4島以外は、「吾等(連合国)ノ決定スル諸小島ニ局限」されるということである。ポツダム宣言及びそこで引用されたカイロ宣言などの国際的な文書において示されている国際的な了解からすると、諸小島の帰属を決定するに当たっては、「日本の固有の領土であったか否か」は国際的には考慮される事項ではなく、連合国間の合意によって決められることになっていた、ということだ。簡単に言えば、「仮に過去においては日本の固有の領土であったとしても、これらの島々の領土的帰属先を決定するのは連合国であって日本ではない」というのがポツダム宣言第8項である。

 

ところが、戦後の中国革命、米ソの対立などの経過のなかで、沖縄の単独占領を欲し、日本の属国化を望んだアメリカは、自己の主導のもとに、サンフランシスコ平和条約(以下「平和条約」)第2条を決定した。
平和条約第2条は、

(a) 日本国は、朝鮮の独立を承認して、済洲島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(b) 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(c) 日本国は、千島列島並びに日本国が1905年9月5日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
と規定する。この規定は、建前上は、カイロ宣言及びポツダム宣言の枠組みのもとで決められたということであるが、連合国間の合意によって決められたものではない。ソ連は条約に署名せず、中国は、本土、台湾どちらの政府も講和会議に招待されなかった。ロシアや中国の立場からすれば、平和条約の当事国ではないわけだから、この規定があるかどうかはまったくあずかり知らぬということになる。北方領土問題にしても尖閣問題にしても、ロシア及び中国としては、平和条約は一切関係なく、彼らの主張の根拠はカイロ宣言とポツダム宣言(及びロシアに関してはヤルタ協定)のみということだ。

いま、日本は、口角泡を飛ばして、アメリカが、(a)竹島(独島)、(b)尖閣(釣魚島)、(c)千島の範囲を曖昧にしてくれたことのおかげで、日本の固有の領土だと主張しているのである。連合国間の合意が成立していれば、そもそも領土問題で争うこともなかった。アメリカがソ連及び中国を抜きにして条約作成を主導した対日平和条約とカイロ宣言及びポツダム宣言(そしてヤルタ協定)の間では、アメリカが前者に意図的に曖昧さを忍び込ませたために整合性がとれていない。そこにこそ、日本の領土問題が起こった根源があるのだ。つまり、領土問題というと、2国間の問題と考えがちであるが、日本の場合、米国を含めた3国間の問題なのだ。

 

尖閣、竹島、北方4島という領土問題を考える上では、第二次大戦で敗北した日本に対する処理方針を扱ったカイロ宣言(1943年12月)、ヤルタ協定(1945年2月)及びポツダム宣言(1945年7月)、そしてサンフランシスコ対日平和条約(1952年4月発効)を抜きにしては語れない。4条約すべての当事国はアメリカだけだ。カイロ宣言及びポツダム宣言に関しては米中英3国及びポツダム宣言を受諾して無条件降伏した日本が当事国、秘密協定だったヤルタ協定については米英ソ(ロシア)、対日平和条約については主に米英日が当事国だ。米国はアジア戦略のために、領土問題が解決しないで、日本が隣国と軍事的衝突に至らない程度の相互不信と対立のうちにあることが好都合である。もし領土問題が円満解決し、日中韓台の相互理解・相互依存関係が深まると、米国抜きの「東アジア共同体」構想が現実味を帯びてくるかもしれない

 

中国も韓国もそこのところを百も承知で最後の切り札を持ち出した。「朝鮮日報」(9月12日)は、「『敗戦国である日本はアメリカから制裁を受ける必要がある』 アメリカは日本の妄言を完全否定して韓国へ正義を示せ」との論説を載せ、アメリカが日本を従属国とするために、甘やかしたことを痛烈に批判している。

アメリカは、尖閣には日米安保が適用されるというが、竹島及び北方4島への適用は口にしない。尖閣は日本の施政下にあるから(尖閣の2島は米軍の管轄下でもある)第5条が適用されるが、竹島及び北方4島は日本の施政下にないから適用を口にしないという理屈である。しかし、二国間の領有問題については、「中立」という無責任な態度をとっている。反ファシズム戦争の同盟国と相談なく勝手なことをしたのだから、曖昧にするほかないのであろう。


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