プロメテウスの政治経済コラム

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東電賠償スキーム  原子力村の面々の無責任体制を免罪  公正な破綻処理を!

2011-05-15 20:56:47 | 政治経済

東電福島第一原発事故の被災者に対する補償問題とそれに伴う東電の賠償支援スキームについて、救済策案の骨格が政府によって決定された。予想された通り、原発事故を引き起こした東電と原発マネーに群がる原子力村の面々の無責任体制を免罪するものとなった。原子力事業は原子力村の面々が、自らの利益のために推進してきた事業である。しかし、東電の経営者も、株主や社債権者などの各ステークホルダも、甘い汁を吸った政治家や御用学者も事実上免責され、東電は、破綻しないことが確約された上場企業となった。政府案では、東電が債務超過に陥って破綻しないように、特別法を策定して設立する「機構」が優先株を注入する。「援助には上限を設けず、機構は必要があれば何度でも支援し、電力会社の債務超過を防ぐ」と盛り込んだのだ。

被害者への全面賠償を確実に実行することと、原子力村の面々の責任を公正に追及することとを混同してはならない。人類史上最悪レベルの放射能放出事故を引き起こしながら、事故を引き起こした当事者に、適正に責任を求めないなら、これからも原子力村の無責任体制が続くことになる。東電のような大企業でも、ひとたび重大事故を引き起こせば、たちまち債務超過に陥り、会社が倒産する。それほどまでに、原子力事業には重大なリスクが内包されていることをわからせなければならない
巨額の賠償債務を抱えることになった東電は、通常ならまず株式が最初に毀損することになる。東電の株主資本は約2.5兆円ある一方で、賠償額の総額は現時点で判明していないものの、政府は5兆円のシミュレーションを作成している。少なくとも2.5兆円を超える賠償債務を負った時点で株式は100%減資となり、次に貸出金や社債が毀損していく順番をたどるのが、市場原理に基づいた通常の破綻処理のケースである(ロイター2011 05 13日)。


今回の原発事故被害補償については、原子力村の中で、東電に一義的賠償責任があることはいうまでもない。今回の地震と津波は、原子力損害賠償法第三条ただし書きの「異常に巨大な天災地変」に当たらない。津波の危険性、全電源喪失の際の危険性は早くから、特に、ここ数年は具体的に指摘されていた。しかし、今回の事故は、東電がすべて勝手にやったのかというとそうではない。東電とグルになって低い安全基準を設定した政府や御用学者の責任はどうなるのか。今回の地震と津波が「異常に巨大な天災地変」に当たらないとすれば、当然、そのような事態を想定した対応が政府にも要請されていたはずである。とりわけ津波の高さ5.7メートルを前提とした規制を行っていたことについては明らかな過失ではないのか。

今回の事故が原子力村の共同の責任とすれば、現在の原子力損害賠償法を直ちに改正し、原子力損害については、被災者との関係では、「政府と事業者(東電)の連帯債務」と定めるべきだ。つまり、被災者は政府と東電のいずれにも支払いを請求できることにするのである(古賀茂明「東電破綻処理と日本の電力産業の再生のシナリオ」“経済の死角”20110511日)。

 

東電は補償債務を東電だけで支払うことは難しいとしている。補償債務がいくらになるか決まっていない段階でこう表明するのだからずいぶんいい加減な話だが、民間企業の経営者が、債務の支払いができないというのは企業が破綻した時だけのはずだ。債権者或いは東電自らが速やかに会社更生や民事再生の申し立てをするべきだ。経営者が払えないと言っているのだから、早く財産の保全をしてもらわなければならない。政府の対応を急がせるために、今回の事故で被害者の立場に立つ自治体が損害賠償債権者として会社更生法の手続き開始の申し立てを行って、自らの債権及び住民の債権の保全のため、東電の財産の保全を確保することも真剣に検討するべきだろう(古賀 同上)。

 


会社更生法と一時的な資金繰りのために企業再生支援機構を使う場合は、管財人がその後の東電の経営管理も行うことなる。特別な立法措置を採るのであれば、東電経営監視委員会のような独立の組織を設けて、そこが管財人のような役割を果たすことも考えられる。いずれにしても、早急に再生処理の専門家チームに今後の東電の経営を任せるスキームを構築するべきだ。これにより、勝手な取りつけ、社外流失を防止し、財産の保全がなされる。そして、経営陣、株主、債権者にはJAL再建のときのように、しかるべき責任をとってもらうことになる。
JALの場合は、100%減資して(もちろん上場廃止)、大幅な債権カットが社債も含めて実施されたが、金融市場に大きな混乱はなかった。投資家、債権者は資本市場のリスクを知らないで参加しているわけではないのだ。

自民党の政治家は全国の電力会社に古くから世話になっている議員が多い。民主党も電力会社の関連労働組合である電力総連の影響を強く受けている。東電再生期間中は会社はもちろん、役員・従業員も政治献金禁止である。 

省庁との関係では、内閣府の原子力委員会と経済産業省の資源エネルギー庁が原発推進機関、内閣府の原子力安全委員会と経産省の原子力・安全・保安院が安全規制実施機関であるが、いずれも事実上電力会社、東電の支配下にある。彼らが、今、東電の温存策策定に必死になっているが、事故の責任者に将来の対策の立案を任せていては、自分達の利権擁護と保身のために対策が歪んでしまう。彼らをまず対策立案チームからはずすことが正しい対策立案への近道になる。先日、東電に天下りした前資源エネルギー庁長官が顧問職を退任したが、他の電力会社の殆どに今も天下りの経産省OBがいる。全電力会社への天下り禁止と天下り役職員等の退任を求めるべきだ。

東電による学者等への資金拠出・原稿料・講演料などの支払いも管財人の責任で全面公開すべきだ。これにより御用学者があぶり出され、彼らによる東電寄り「専門家」情報の影響力を弱めることができるだろう。

 

賠償を支援する「枠組み」についての政府・民主党のスキームが、被害者を助けるためでなく、東電の負担を軽くし、経営者や株主、金融機関を助けるものとなっていることほど国民を馬鹿にした話はない。賠償についての東電の「上限」は設けられなかったが、内部留保をはき出す東電の努力も、株主や金融機関に負担を求めることも不十分で、国が東電救済に税金を投入する可能性を示したことは重大である。経営者や株主の負担を減らすために電気料金を値上するなど国民に負担を転嫁することは、許されることではない。




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1 コメント

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公正な破たん処理を! (Y・中村)
2011-06-23 18:44:33
上記論説は正しいと思いますが、誰が実現させてくれるのでしょうか?
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