プロメテウスの政治経済コラム

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海自ソマリア派兵決定  日本の外交戦略の原点に立ち戻るべきだ

2009-01-29 20:59:35 | 政治経済

何が何でもソマリア沖に派兵―。麻生内閣と自民・公明両党は現行自衛隊法を最大限拡大解釈し、「海賊対策」を口実とした海上自衛隊派兵を決定した。すでに同海域で警戒活動を展開している米国やEU諸国、ロシアなどに、とりわけ中国に遅れをとってはならじ、というわけだろう。
日本という国は、戦後米軍占領のせいとはいえ本当に不思議な国である。憲法で戦争放棄を定め、なおかつ「陸海軍その他の戦力は、これを保持しない」と明記しているのに、装備の水準でいえば、世界有数の軍隊である自衛隊を保持している。自衛隊は、米国によって押し付けられた軍隊とはいえ、明らかに憲法と矛盾している。自衛隊が現実に存在しているのだから、これを使わない手はない、というのも一つの考え方に違いない。しかし私は、自衛隊の存在という現実から外交戦略を考える発想方法と縁を切ることこそがいま切実に求められていると考える。

超左翼おじさんの松竹伸幸氏は、「自衛隊は、日本が侵略されたときは別にして、海外で人を殺す軍隊になってはならないということである。・・・だから、くり返すのだが、自衛隊を警察行動のために(ソマリアに)派遣してはならない。イギリスやインドのように、この海域で海賊を殺すことになるのだから。 でも、ということは、人を殺さない自衛隊派遣については、容認するということなのだろうか。がっかりする人がいるかもしれないが、私の考えは、そうなのである」という。
人を殺さない軍隊なんてあるのだろうか、という根本的な疑問はともかくとして、自衛隊を使えるときには使えばいいという。しかし、憲法はもともと、そのようなことを想定していないし、憲法の原点に立った外交こそが、21世紀の現在の世界で切実に求められていると思う。

日本人は、アジア太平洋戦争の被害・加害の体験を通じて、もう戦争はコリゴリだ、戦争にはどんな正義もないという実感をもった。そうして、戦争、軍隊の否定、どんなことがあっても問題の解決に武力、暴力を用いないという「平和主義」を選択し、この「平和主義」を基本にした新しい憲法―「平和憲法」を採択した。
この「平和主義」は第二次大戦後、一部の狂信的な人たちの思想ではなくふつう一般の、まともな思想として認知され、とりわけ現在も続く世界の武力紛争を見るにつけ、日本国憲法のすばらしさをいう人びとも多くなってきた。しかし、残念なことにそれは世界の常識とはまだなっていない。やはり、まともであるが特異な思想であり、「平和憲法」を国の基本にもち、「平和主義」を「国是」とする国は「ふつうの国」ではあり得ていないのである。
一部の例外を除いて、世界の他の国はすべて、特異な「平和憲法」をもたない、軍隊を当然のごとくもち、戦争も、それが正しい戦争なら、そう自らがみなすなら、やってのけてもよいという「ふつうの国」なのだ。

私は、日本の外交戦略はなによりも、日本国憲法の原点から、日本国が特異な国であるという原点から出発するべきだと考える。日本は、特異な国なのだから、米国やEU諸国、ロシア、中国などに遅れをとるのは、むしろ当たり前である。これは恥でもなんでもない。たまたま米国に押し付けられた軍隊が米軍の補完部隊として巨大に成育していても、日本国民からみれば、自衛隊という軍隊は存在していないのだから、ソマリア沖に自衛隊を派兵することは、もともと不可能なことのだ。
そうすると日本は、憲法に則ってソマリアの海賊対策としてなにができるかを考えることになる。

日本国憲法の基本認識は簡単なものである。誰がどう考えても、どのような理由があろうとも、殺し合わないようにしよう、そのような世界をつくろうということだ。だから日本国憲法は、単に九条だけではなく、それがよって来るゆえんを前文に書いている。世界各国の憲法のなかで、これほど人類全体、世界全体にかかわらせて自分の国のあり方を論じている憲法はない。そこから、世界のあり方、人類の未来を論じている――こういう憲法はほかに類がないのだ。
「日本国民は,恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」する―人類全体にかかわる問題として「平和」を捉えたうえで、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意」する。この「決意」は戦争と軍備を放棄する「第九条」に結びつく決意であるが、「われらの安全と生存を保持」した上で、何をするか。
「平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう」と努力すること。「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する」ことができるように努力すること―これこそが日本の外交戦略の原点なのだ。
その志は、「日本国民は,国家の名誉にかけ,全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」のである。世界の国ぐによ、自国のことのみ考えるな、他国と一緒に平和で安全な、そして、専制と隷従、圧迫と偏狭、恐怖と欠乏のない世界をつくる努力をせよ、私たちもその努力をするから、あなた方もやれと主張する憲法は、全世界広しといえども、日本だけのものであろう。

ソマリア沖の海賊問題は、20年にもわたるソマリアの内戦で国家が崩壊し、仕事を失った漁民が海賊化したことが背景になっているといわれている。「海賊対策」というなら、「専制と隷従、圧迫と偏狭、恐怖と欠乏のない世界をつくる」方向で努力する―内戦終結の努力と民生支援で日本のできることはないのかをまず検討すべきであろう。
緊急に日本船舶の警護がいるというなら、それこそ米軍に依頼するべきである。毎年6000億円もの血税を在日米軍のために注ぎ込んでいるのだから


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