プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

拡大する双子の赤字と帝国循環のゆくえ

2006-03-27 20:43:43 | 政治経済
ブッシュ政権のもとでアメリカの「双子の赤字」が、悪化し続けています。「双子」の一方である「財政赤字」に関しては3月16日、米連邦議会の下院が、米政府の財政赤字の上限(連邦債の発行限度枠)を、これまでの8兆1800億ドルから、8兆9700億ドルへと引き上げました。財政赤字と並ぶ「双子の赤字」のもう一方の経常収支(貿易収支プラス貿易外収支)の赤字は、昨年10-12月期に2249億ドルに増え、史上最悪の赤字増大(GDP比7%)となりました(その前の7-9月期は1854億ドルの赤字)。そして赤字を補填する連邦債消化の80%近くが海外資金に依存する構造となっています。その結果、「帝国循環」(二宮厚美・神戸大学教授)とよばれる悪循環が新たな弾みをもって作動し始めました。

中国や日本などからの輸入でアメリカの貿易収支が悪化するとドル暴落の危険があります。これを避けるためには対米貿易黒字国の中日等が対米投資(外為市場でのドル買い=連邦債等で運用)を続けることになります。中日等の対米投資は、これらの国の保有する米国内ドル資産の増大(=アメリカのドル対外債務の増大)を意味します。在外資産が増大することは、為替相場がドル安にふれた場合に発生する評価損(米国にとっては債務の帳消し)のリスクがそれだけ高まります。
ここではシーソーゲームのような事態が進行します。まず一方では、アメリカが「双子の赤字」を増やして、海外へドルを流し続け(=日本を含むアジア等に対して外需を提供し、世界経済をけん引することでもある)、ドル安圧力を強めます。他方で、日本等の通貨当局は、ドルを買い続け、対外ドル資産を増やし、為替相場を維持して、ドル下落にもとづく為替差損の発生を防止しょうとします。

帝国循環とは、直接的にはアメリカが貿易収支の赤字を資本収支の黒字で補填するかたちの資金循環として表れるが、実態はドルの減価分をドル資産を保有する日本等に転嫁する循環のことさらにいえば「双子の赤字」のツケを日本等の国民に転嫁する装置(輸出企業が稼いだドル資産を保有するのは外為特別会計)のことです。アメリカ一国だけに与えられた赤字垂れ流しの特権がそれを可能にするのです。

ブッシュ政権のもとで、財政赤字が増え続けている一因は、911事件、アフガンとイラクの戦争、昨年秋のハリケーン・カトリーナの大被害など、財政支出増大の要因が並んだためですが、赤字増の元凶はそれだけではありません。もう一つの元凶として、911後のアメリカがずっと「戦争」の状態にあり、行政府(ホワイトハウス)や議会がお手盛りの予算の大盤振る舞いをしても、監督抑制するマスコミや世論のメカニズムが働かなくなっていることがあります。今秋の中間選挙を控えこの傾向に拍車がかかっています(田中宇の国際ニュース解説 2006年3月23日 )。

双子の赤字の拡大に関して「アメリカは赤字が増えても、当局がドル札を印刷するだけで良いのだから、双子の赤字は何ら問題ではない」という見方は、「帝国循環」が問題なく循環するという前提にたっての話です。世界はいまアメリカの単独覇権主義(=ドル支配の維持はその主要目的のひとつ)にたいして、米国抜きで平和を築く動きを強めています。長期的にみて、中国を中心としたアジア諸国がドル支配圏からどのように抜け出していくか注目されます。アジア開発銀行によれば、東南アジア(ASEAN)10カ国と、日本・中国・韓国・台湾・香港の合計15種類の通貨を加重平均した新通貨「アジア通貨単位」(ACU)の為替レートのウェブ上での発表を今年6月までに開始するとのことです。

日本経済にとって、対米輸出の維持・拡大や金融市場への資金供給に果たしている「帝国循環」の役割を直ちに停止はできないでしょう。しかし、サステナビリティ(持続可能性)をもたない構造に立脚した「帝国循環」がやがて破綻の時を迎えることも確かです。靖国参拝でアジアから孤立する小泉首相はその戦犯性とともに売国性においても批判されなければなりません。





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