Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

無題。

2013年11月02日 | ひとりごと
昨日、ICUに、別の病院の呼吸器内科医から電話がかかってきた。自分が見ている患者さんの人工呼吸器の設定について、教えてほしいと。
珍しい電話があるもんだと、話を聞いた。
そして、ビックリした。
呼吸器の設定も、鎮静剤の使い方も、自分のやっていることに対する理解も、無茶苦茶だった。
できる限りのコメントはしたが、果たして通じただろうか。

多分こんなこと、日本中で行われているに違いない。
この問題の根本は、そんな医者が存在すること、じゃない。
そもそも、重症患者を重症患者管理を専門としていない医者がみてしまう、もしくはみなければいけないという日本の医療システムの問題だ。

呼吸器内科医が、”呼吸器”疾患を、人工”呼吸”器を使って診療して何がいけないのか。
きっと、日本中でそう思っているに違いない。

たしかに、呼吸器内科医が人工呼吸器を使うことは、国際的にもまれなことではない。
少なくともアメリカにはそんな医者はたくさんいる(らしい)。
ただし、その人達は集中治療のトレーニングを受け、資格を持って臨床をしているので、同じ土俵では語れない。

何が間違っているのか。
それは、人工呼吸器を必要とする呼吸器疾患患者は、呼吸器疾患の治療と人工呼吸器の設定さえしていれば良い、ということではないからだ。
今回の件でも、ちょっと電話で話をしただけで、その医者が鎮静について充分な知識が無いことはすぐに分かった。
鎮静は、患者さんの予後に明らかに影響を与える医療行為であって、付け焼刃で行っていいものではない。
”人工呼吸を必要とする患者に対する鎮静について述べよ”という質問に対して、A3の紙が1枚配られ、好きなだけ書くという課題が与えられたとしよう。
何も見ずに紙1枚を埋められない人は、鎮静を行ってはいけない。
知識が無いことについて診療を行ってはいけないのは、当然のことだ。

鎮静だけじゃない。
重症患者を管理するうえで、絶対に知っていなければいけないことはたくさんある。
ショックの対応、挿管/抜管の適応と方法、ライン管理、潰瘍予防、血糖管理、などなど、数えればキリがない。
これらすべてにおいて、A3の紙1枚くらい埋められない人に、重症患者管理を行う権利があるとは思えない。

自分は、自分の行っている医療行為について、充分な知識があるだろうか。
そう自問すれば、自分がやってはいけないことをやっていることに容易に気がつくだろうに。
そうしない医者が日本中にいる。
日本の医療システムはそんな医者の存在を許容している。

いつまで続くのか。
どうすれば変わるのか。
あと何年、日本中の重症患者がこの状況に曝され続けるのか。

電話を切ってから、しばらくため息しか出なかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする