Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

Rapid response system(RRS)は有効か

2013年10月12日 | ICU・システム
Karpman C, Keegan MT, Jensen JB, et al.
The Impact of Rapid Response Team on Outcome of Patients Transferred From the Ward to the ICU: A Single-Center Study.
Crit Care Med. 2013 Oct;41(10):2284-91. PMID: 23921274.


アメリカのある病院で、rapid response team(RRT)が導入された前後で、病棟からICUに入室した患者の予後について検討。この病院にはICUがたくさんあるけど、medical ICUとsurgical ICUだけが研究に参加。RRTの導入が2006年9月から2007年3月にかけて行われたので、Pre-RRT期間を2003年8月から2006年9月、Post-RRT期間を2007年3月から2009年9月までとした。その結果、

・病院に入院した症例数は、Pre-RRTが162.7、Post-RRTが157.3例/日(p<0.001)
・病院全体の死亡率は、Pre-RRTが1.61%、Post-RRTが1.75%(p=0.002)
・ICU入室症例数は、9.5 vs. 10.8/日(p<0.001)
・病棟からICUに入室した症例数は、2.19 vs. 2.61/日(p<0.001)
・病棟からICUに入室した症例のAPACHE IIIによる予測死亡率の中央値は、16.1% vs. 14.9%(p=0.015)
・病棟からICUに入室した症例の実際の病院死亡率は、19.4% vs. 20.9%(p=0.182)
・多変量解析すると、Post-RRT期間の病院死亡率に対するオッズ比は1.273(p=0.002)
・RRTのコール数は、10.44/1000退院症例
・病棟からICUに入室した症例のうち、34.8%がRRTコール後

さて(お、久しぶりだ)。
もちろん、RRSなんか無意味だ、と言いたいのではないのですよ。
読んでいて、いろいろなことを考えた文献だったなー、と思って。

・Before-after研究の難しさ
まず、対象期間が違うんだよね。単純に期間が異なる(38ヶ月と31ヶ月)だけじゃなく、季節の違いがある。それが、入院患者数の違いに影響しているのかも。季節が違うと、どこの病院でも症例数や疾患分布や重症度は異なるはず。だから、そこは合わせてほしかった。導入前後2年間にすればよかったのに。データが得られる期間全部を使った方が症例数が増えるから、その誘惑にはなかなか勝てないのかな。
入院患者数そのものに違いが出たのは、もちろん他にも理由があるのでしょう。6年もあれば、いろいろ変わるに違いない。この辺は、before-after研究では避けて通れない。

・集中治療医の配置
この病院では、どうもRRSの導入と時を同じくして、集中治療専門医が夜勤をするようになったらしい。つまり、この研究結果を簡単に言えば、RRSを導入して、かつ集中治療医が夜勤するようになったら、死亡率が上がった、ということになる。
さすがに寂しい話。でも可能性は否定できないけどね。
一つ、思うことがある。これはあまり一般的には記載されていないのだけど、自分で過去の複数の施設で確認してきたこと。それは、初期診療を行う医師の経験年数と、入室後24時間の重症度スコアには、ネガティブな相関関係がある、ということ。つまり、経験豊富な医師はさっさと患者さんを安定化させるけど、経験が乏しい医師はそうは行かないので、その差が入室後24時間で算出される重症度スコアに反映される。
これって、困るんだよね。重症度スコアが低い=軽症=予測死亡率が低いと判断されてしまう。なので多変量解析に予測死亡率を導入すると、初期診療のレベルに関係するような因子には悪影響がある。今回の研究もこういう要素が無かったとは言いきれない。

・RRSは有効か
この研究の単純な解釈は、RRSを導入するとICU入室症例数が増え、ICU患者の重症度が低くなり、死亡率は高くなる。
理由として、入室症例数の増加とRRSに裂かれるマンパワーのせいで、診療レベルが落ちた可能性がある。
もちろん、どんな研究でもそうだけど、突っ込みどころはいろいろある。詳しくは、この研究の<a href="http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24060772">エディトリアルに記載あり(リンクがうまく貼れない)。この研究結果をもって、RRSは無効である、ということにはならない。
でもね。
RRSが有効である、という根拠も同様に乏しいんですよ。
そこは忘れちゃいけないな、と思います。
もしかしたら、諸刃の剣なのかもね。ちゃんと導入されれば有効、間違った導入がされれば有害。
言えることは、みんなやっているし、うちでもやってみようかな、程度の気持ちで導入してもダメ、ということ。
やるからには真剣に、本気で。かつ、有効性についての評価をちゃんと行うこと。
そうする気がないなら、初めから導入しない方がいいと思います。

・病棟からICUに患者さんをつれて来るということ
つい先日、敗血症性ショックの患者さんのコンサルトを受けた。低血圧、でも会話は可能。ICU入室および緊急手術の適応と判断し、そう対応した。でも夜に心停止(原因ははっきりしない)、蘇生されたけど、、、の状態になった。
果たして、この患者さんはICUに入室するべきだったのか。もちろん、病棟にいたらもっと具合が悪くなったかもしれない。でも、ICUの医者が患者予後を悪くするというデータもあることは事実。今回の研究も、RRSで患者さんを病棟からICUにたくさん入れるようにしたら病院死亡率が増えた、というのが単純な結果。
考えちゃいますよ。自分たちは患者さんのために良いことをしているのか。

日本には集中治療医のいないICUがたくさんある。もっと集中治療医の数を増やして、集中治療という専門分野を世間に認知させて、ICUには集中治療医がいるのが当たり前になるようにする、というのが多くの集中治療医の願い/目標のはず。
僕も同じ。
でもそれは、簡単なことじゃない。単に、ICUには集中治療医がいるのを当たり前にするのが難しい、という意味ではなく、ICUに集中治療医がいることが患者予後の改善につながることを担保しない、と言う点で簡単じゃない。
重症患者管理についての知識/経験が、
集中治療医の平均 > 病棟医の平均
であることは当然でしょう。でも、
ランダムに選ばれた集中治療医 > ランダムに選ばれた病棟医
とは、現状では言えない。集中治療医でなくても、重症の患者さんをみるために一生懸命勉強している医者はたくさんいるもの。

とはいえ(有名人の真似じゃないよ)。
ランダムに選ばれた集中治療医 > ランダムに選ばれた病棟医
と自信を持って言えるようになればいいんだよ。
信念を揺るがしちゃ、ダメ。

あ。
久しぶりに長くなった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする