一般の方にも、腎臓内科医にも驚きかも知れませんが「蛋白尿」は、中医学の範疇にはまだ該当する「命名」が無いのです。西洋医学的には、一般的に、蛋白尿が加重(悪化)していく場合には、当初は尿中の分子量6万ほどのアルブミンが出現し、次第に分子量の大きなグロブリンが出てくることが確認されていますが、アルブミン尿、グロブリン尿の生成の基本的なメカニズムは残念ながら完全には解明されていません。糸球体基底膜(GBM)の透過性だけでは説明しきれないものがあるのです。<o:p></o:p>
例を挙げれば、血尿を病期の初期とするIgA腎炎では、尿中に多数の赤血球が出現しますが、(だからといって)糸球体係蹄壁のGBMをすり抜ける赤血球細胞を頻回に観察できるかと申しますと、そうではありません。赤血球ほどの大きな細胞がすり抜けるとなれば、蛋白分子などは(素直に考えて)容易にすり抜けて、ボウマン嚢に充ちているか(免疫蛍光法で確認しますが)、尿中にも蛋白が観察されるかと想像しますが蛋白尿の無い血尿のみのIgA腎炎があります。(それでは)赤血球がGBMをすり抜ける過程が観察されるかといえば、頻度は非常に少ないのです。私自身も電子顕微鏡でGBMを通過中の赤血球を確認したのは実験、人体例でも、数例にしか過ぎません。<o:p></o:p>
(糸球体係蹄壁には電化依存性とサイズ依存性の二重のバリアーが有ることは西洋医学的に証明されつつありますがまだ不十分です。詳しく説明すればキリがありませんので)、中医学での「蛋白尿」に対する「考え方」をお話します。<o:p></o:p>
糸球体腎炎での尿蛋白は「人体の精微物質」であり、「脾の化成」と「腎の収蔵」が関与し、蛋白尿の生成と脾腎両臓の虚損には密接な関係があると考えます。脾虚になり昇清が不能になると、穀気が下流し;(脾失固渋、精微下注)腎虚が封蔵をコントロールできなくなり(腎虚封蔵失司 腎気不固)精微が尿に漏れる(精微下泄)ことが蛋白尿の成因と考えます。この他に、湿毒内蘊、鬱して熱を生み、これが腎気不固をもたらし精気外泄になるとする考え方もあります。<o:p></o:p>
熱邪は陽邪であり、其の性質は開泄で、腎が湿熱を受け、燻灼されると腎の統摂が失職し水谷精微は尿に下ると中医学では考えます。<o:p></o:p>
気血は脾を来源とし、腎は陰陽の源であり、故に脾腎虚損は常に、気血陰陽に渡り、(正常でない)偏重な病態を惹き起こします。<o:p></o:p>
長期に蛋白尿が続くと、精微物質が尿中に失われ、五臓の正常な滋養が出来なくなり、(その結果)脾腎虚損はますます加重され:脾虚は同時に飲食低下或いは不能となり、正常な精微化生が減少、或いは不可能となり、水湿痰濁を生じ、臨床的に低蛋白血症、高脂血症をみることになります。(中医は高脂血症を痰濁として捉えます)<o:p></o:p>
さらに水湿の邪が滞留すると、濁陰が臓腑に瀰漫し、臓腑機能を損害し、この結果、循環障害、或いは高窒素血症の遠因ともなり、日増しに病情が加重していくと、収拾がつかない病態へと進展するのです。<o:p></o:p>
次回は具体的な生薬を交えて、「蛋白尿 気陰両虚」についてお話しします。<o:p></o:p>
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2014年6月25日(水)<o:p></o:p>