慢性腎不全の一部の患者群に、次のような症候、即ち面色蒼白、腰膝酸痛、下腹部冷痛、腹瀉が止まらない、畏寒肢冷、夜尿頻多、尿の切れが悪く排尿が完全に終わるまでぽたぽたと尿が出る、嘔吐、腹張、顔面及び四肢の浮腫、舌淡胖大にて歯痕がある、苔白滑、脈沈細遅弱などである。これらの症候は、多くは脾陽虚損及び腎陽虚衰によるものです。中医学的には古くから、腎中の命火は脾土の母といわれ、明代の張景岳は次のように認識していました。「命火は釜底(かまどの下)の薪(たきぎ)のようなもので、腎陽が不足すると温化が不能となり、泄瀉 水腫等を起こす。命門火衰は脾の運化も不能にさせ、釜底(かまどの下)の薪(たきぎ)が無ければ、消化(腐熟)も失う。」<o:p></o:p>
清代の医家沈金?は、脾腎双補が治療上宜しく、「雑病源流犀?」の中で「脾腎は兼補が宜しい。腎虚には補が宜しく、更に扶脾を当てる、壮脾には養腎を忘れてはならない。」<o:p></o:p>
脾と腎の関係は極めて密接であり、先天(腎)と後天(脾)は相互滋生、相互促進の関係にあり、脾腎には協調の保持が必須なのです。<o:p></o:p>
「腎は薪(たきぎ)と水の如く、脾は鼎(かなえ)と釜(かまど)の如し」とは脾腎の相互滋生、相互促進の関係の喩えであり、脾の運化作用には必ず腎陽の温煦蒸化を得てこそ、気血精微の生化が可能になり、(付言すれば)腎精も後天の脾の運化精微に滋養されなければなりません。脾腎の正常な相互滋生の生理機能により、生命体には生機と活力が充満するのです。張琪氏の常用方剤は脾腎双補方、加味参耆地黄湯です。<o:p></o:p>
方用: 加味参耆地黄湯(かみじんぎじおうとう):黄耆30g 党参20g 白朮20g 当帰20g 遠志15g 何首烏20g 五味子15g 熟地黄20g 莵絲子20g 女貞子20g 山茱萸20g 淫羊藿15g 仙茅15g 枸杞子20g 丹参15g 山楂15g 益母草30g 山薬20g 水煎服用<o:p></o:p>
方中、参耆の人参 黄耆 白朮 山薬は益気健脾に、何首烏 淫羊藿 仙茅 莵絲子は補腎陽に働き剛燥に非ず、枸杞子 山茱萸 熟地黄 五味子は腎陰を滋助し、人参 白朮の合用で、脾の運化作用の障害を防止し、温補腎陽を配伍し陰陽を調和させ腎気を助け、腎機能を回復させ、益気補血に働きます。慢性腎不全の病の本質は脾腎両虚にあります。<o:p></o:p>
配伍の妙は、丹参 当帰(尾) 益母草 山楂の活血の品です。腎血流量を改善させ、補と消の合用といえます。<o:p></o:p>
注意すべきは苦寒大黄の瀉下傷脾です。腎不全においては既に高窒素血症の改善などの要薬ですが、苦寒傷脾を知らずして、漫然と投与した結果、病情が悪化する症例もありますので、適時適用を心がけなくてはいけません。<o:p></o:p>
加味参耆地黄湯の臨床例は過去の記事をご参照ください。<o:p></o:p>
IgA腎炎:http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20140110<o:p></o:p>
慢性腎不全:http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20131212<o:p></o:p>
糖尿病性腎症:http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20140321<o:p></o:p>
まだまだ沢山ありますが、消化不良を怖れて、上記の三例にしました。<o:p></o:p>
<o:p> </o:p>
2014年6月22日(日)<o:p></o:p>