陳以平氏 医案 脾腎両虚 水湿内停案(腎病的弁証与弁病治療より)
患者:夏某 18歳 男性
初診年月日:1999年12月21日
病歴:
患者は1999年8月明らかな誘引なく双下肢に浮腫が出現、地元の病院受診、尿蛋白(3+)低蛋白血症と高トリグリセリド血症を伴い、ネフローゼ症候群と診断される。
腎生検所見:
巣状糸球体硬化症(局所的な増殖性変化も伴う)
治療経過:
合成副腎皮質ステロイドである、プレドミゾン60mg/日経口、甲強?(ソルメドロール)、地塞米松(デキサメタゾン)の療方、免疫抑制剤としては氮芥(mechlorethamine hydrochlorideクロラムブシール)の治療を受けたが効果は全て明らかでなく、感染誘発し胸水、腹水も出現したので、一時期(おそらくはメチルプレドニソロン;ソルメドロール)パルス療方も行ったステロイド、は減量になった。(氮芥については中止になったのでしょう。感染症を併発したために、これ以上の免疫抑制剤の継続は無理と判断されたのでしょう。)
陳女史初診時所見:
双下肢浮腫、腰酸乏力、腹張、納呆、二便調、プレドニゾン30mg/日。
満月様顔貌、心肺正常、腹は軟でやや隆起、移動性濁音(+)(おそらくは腹水と思われます)、双下肢を指で圧迫すると陥没する、舌質紅、苔薄白膩、脈弦細数。
検査所見:
ヘモグロビン6.1g/dl、尿蛋白半定量500mg/dl、その他陰性、血清アルブミン/グロブリン:14.9/16.2、Cre33.1μmol/L(0.38mg/dL)、BUN3.56mmol/L(21.3mg/dL)、24時間尿蛋白定量8.72g、トリグリセリド2.4mmol/L(204mg/dL)。
弁証立法;脾腎両虚、水湿内停
治療原則:培補脾腎 清熱利湿
(おや?と思われるかもしれません。脾腎両虚 水湿内停の弁証からは、字面上の治療原則は培補脾腎、利湿(水)消腫となるようなものの、何故、清熱なのか?この辺を注目していくことにしましょう)
処方:
柴胡9g 黄芩10g 白芍20g 炒白朮12g 蒼朮12g 猪苓12g 茯苓12g 枸杞子15g 黄耆12g 党参15g 丹参15g 杭白菊花12g 山薬15g 知母9g 黄柏9g 牡丹皮9g 白花蛇舌草30g この他に、同時に清熱膜腎冲剤(内容不記載)、活血通脈カプセル(内容不記載)、黒大豆丸を併用する。
コメント:
柴胡 黄芩の組み合わせは小柴胡湯の組み合わせを連想させますが、党参はあるものの、半夏 生姜 大棗 甘草などの生薬の配合が有りません。清熱剤としての組み合わせでしょうか。感冒に罹りやすいとか易感染性があるばあいに柴胡と黄芩を使用します。丹参 牡丹皮など涼血活血も目立ちますし、知母と黄柏の組み合わせには、ステロイド大量使用による陰虚火旺に対する意図も感じます。益気脾腎 清熱解毒 涼血活血 健脾利湿 燥湿健脾 疏散風熱(菊花)など、どこに焦点があるのか判然としません。弁証論を越えた女史の弁病認識はどのようなものでしょうか?
処方の流れや評析に期待しましょう。ともかく、浮腫があれば五苓散、脾腎両虚なら真武湯などという程度の低い日本の巷の漢方医と一緒にしては女史に失礼になります。
医案を作成するために日常診療をしているのではないのです。当日の患者から受ける直感も大いに処方に反映されます。勿論、使い慣れた生薬群もあることは事実ですが、ともかくマニュアル通りの治療にならないのが優れた中医の特徴です。
菊花配合の意味はおそらく柴胡、黄芩の意味と類似して、外感に対するものでしょう。
菊花と桑葉の共通点は共に疏散風熱、清肝明目作用があり、
菊花は肝陽上亢(めまい、血圧上昇、怒りっぽいなど)、肝風内動いずれにも使用されます。感冒薬としての辛涼軽剤の桑菊飲もありますし、杞菊地黄丸(補肝腎+枸杞+菊花)中にも使用されます。産地別の特徴は、
黄菊花:疏風清熱作用強い 杭州産が良い(目赤に良い)
白菊花:清肝明白作用が強い 安徽省産が良い 肝火-目の充血や(目のかすみに良い)
野菊花 解毒作用が強い 虫刺されに外用する
以上のようになりますが、杭州産の黄ではなく白菊花が医案には用いられています。
いずれにしても、中医である女史にとって、一時的な必要性を感じさせるものだった