高輝運氏医案 正虚陽微案 キイワード:難治性ネフローゼ症候群 肝臓心臓合併症
(高輝運臨床経験精選より)
コメントを交えながら進めて行きます。
患者:陳某 33歳 男性 (職業不記載 中医案では珍しいです)
病歴:随分古い症例です。
1972年8月11日 顔面下肢の浮腫、少気乏力、腰腿酸軟、小便不利で入院。
検査:尿蛋白(4+)血清総蛋白3.5g/dl、総コレステロール4.08mmol/L(158mg/dL)(当時の栄養状態が悪いためか、ネフローゼ症候群にしては総コレステロールの上昇がありません。評析にもコメント有りません。)
臨床診断:ネフローゼ症候群。プレドニゾン、地塞米松(dexamethasone)、消炎痛(indomethacin: 当時はインドメタシンを使用すると腎血流量が減少し、腎機能が悪化するという認識がなかったようです。現在なら禁忌でしょう。)、免疫抑制剤である?磷?胺(シクロフォスファミド)や氮芥(mechlorethamine hydrochloride:nitrogen mustard第一次大戦中の毒ガス由来の免疫抑制剤、シクロフォスファミドもnitrogen mustard系のその後の薬剤です)や中薬の腎炎丸(組成不明:中医医案なら組成ぐらいは記載して欲しいですね。評析にもコメント無しです)などの治療を受けた。
年を越して、効果が明らかでなく、1973年9月20日、患者は退院治療を要求した。退院時検査:尿蛋白(4+)24時間尿蛋白定量20.2g、総コレステロール、血清総蛋白は同程度であった。
一旦は退院したものの、2ヵ月後(1973年11月25日)に再入院。検査所見:顔面双下肢の浮腫加重、面色皓白、神疲乏力、尿蛋白(4+)、24時間尿蛋白定量13.35g、総コレステロール3.55mmol/L(137mg/dL)、そこで再び、プレドニゾン、地塞米松(dexamethasone)、シクロフォスファミド、mechlorethamine hydrochloride、indomethacin、抗血小板剤であるジピリダモール及び、ペニシリンと腎炎片による治療が始まった。一時期、煎じ薬による中薬治療(これも内容不記載)も加えられたが効果は不明瞭であった。
特に免疫抑制剤とindomethacinによる副作用が出現することが予想されます。
1974年3月に患者に黄疸、悪心嘔吐、腹張、腹水と尿量減少が出現した。
肝機能検査;総ビリルビン値15.5μmol/L(0.9mg/dL)(黄疸がでるような高値ではありません)、谷丙?氨?(GPT)92.5U/L、尿ビリルビン陽性(急性の肝機能障害が疑われます)、尿蛋白4+、
血中非蛋白窒素NPN 51mmol/Lであった。NPN値とは、血清蛋白以外の窒素成分である尿素、尿酸、クレアチニン、アミノ酸、インジカン、クレアチン、アンモニアなどの合計値です。NPNの約50%は尿素窒素BUNです。特異性が小さいので現在では測定されていません。本案ではBUNは推定、約153mg/dLと高値になり、腎不全が強く疑われます。急性の肝機能障害も存在するようです。薬剤性の肝と腎の障害でしょう。免疫抑制剤による肝機能障害、インドメタシンによる腎機能障害が考えられます。評析には何のコメントも有りません。腎不全の用語すら出現してきません。
経過:
中薬(内容不記載)とアルブミンの点滴などの対症療法、一ヵ月半で、腹水は消退した。悪心嘔吐は止まり、肝機能とGPT等は正常になったが、腎病の症状は更に加重し、尿蛋白の変化は全く無く、感冒に罹りやすくなり、日増しに衰弱し、腰腿酸痛、浮腫が顕著で、睡眠は極度に悪化し、食欲減退軟便となり、尿量減少、血圧も上昇し(数値記載無し)、不整脈(不整脈の種類の記載無し)などの心症状が出現し、寝たきり状態になった。
1975年2月17日 高氏の会診を請うた。
ステロイド、免疫抑制剤、インドメタシンの投与量、期間がどのようになったのか?そのまま継続したのか、漸減したのか?中止したのか?医案の最後まで、一切の記載は有りません。大物中医が登場して、病情が改善すれば、他の不都合な情報は記載しないのが医案であるかの如き編集姿勢には、到底、承服不可能ですが、乗りかかった船とやらで、最後まで読んでみましょう。
高氏会診時所見:
舌質淡、苔は地図状、色白微膩、脈象両方の寸と尺が共に弱く、両方の関のみが弦、明らかに不整脈である。病情を分析するに、既に腎損より肝、心臓に及び、正虚陽微である。(脈診で関脈のみ弦とは、弦脈の定義、如按琴弦からも、説明困難です)
治則:益腎温陽、扶正固本
方薬:まず桂附八味丸加味を与える
処方:
生熟地各10g 懐山薬10g 山茱萸10g 雲南茯苓10g 建澤瀉10g 炒牡丹皮8g 川附子8g 桂枝6g 金狗脊15g 川萆薢10g 炒酸棗仁10g
経過:
連続服用45剤で、患者の精神好転、浮腫減退。腰腿酸痛も減軽、食欲改善、大便は軟便ではなくなり、尿量は毎日600~800ml。睡眠はまだ不良、脈は沈細だが、関脈は既に弦でなく、脈の不整は無く、地図状舌は収まり、苔薄白。尿蛋白(3+)、24時間尿蛋白定量4.95g、患者はベッドから降りられるようになり、すでに491日間の長き入院であるので、退院を要求した。退院外来治療を許可し、脈証では心肝の症候は既に明らかでなく、腎病が主体であると考察し、新加春澤湯を用いた。
処方:
猪苓10g 雲南茯苓15g 建澤瀉10g 炒白朮10g 桂枝8g 党参10g 生熟地各10g
生黄耆10g 川附子8g 懐山薬10g 生薏苡仁10g 車前子10g
経過:
毎日Ⅰ剤、1977年7月13日まで服用した。患者体力増強、活動増加、精神状態は比較的良好、面色栄潤、食欲良好、二便通利、睡眠中の多夢の他には、特に自覚症状は無い。尿蛋白陰性、定量でも全て陰性、NPNと腎機能、肝機能全て正常。ヘモグロビン15.4g/dl、血小板15.9万(比較する前のデータが無いのに突然出現しました)、血清総蛋白6.8g/dl、舌質色正、舌苔薄白、脈象沈緩、不整脈無し。ネフローゼ症候群は治癒した。随訪10年間、再発無し。
評析
本例は頑固な難治性ネフローゼ症候群であり、病情発展の段階で、肝臓、心臓に波及し、黄疸と不整脈が出現し、より複雑な病情に発展した。ステロイドと免疫抑制剤を用いたが効果は明らかではなく、高氏は病勢に詳しく、その病機の縄目を解き、故に、病情重症の時に、桂附八味湯加味にて益気温陽、化気行水、滋肝養心、扶正固本した。そして病に転機あり、新加春澤湯を主に使用し効能を成し遂げた。医師が有効な主要方剤を探求する上で、綿密な弁証論治をきっちりと掌握する必要があるということになる。
ドクター康仁の印象
評析は子供向けのオマケ程度ですね。このような医案は信憑性に欠けるでしょう。出来すぎの感が否めません。素人(一般人)は騙されるかもしれませんが、玄人(くろうと)の目からすれば、記載は誠に不備が多く、とても医学症例のレポートとは言い難い代物です。文化大革命(1966~1977年)の真っ最中の症例です。後に起稿する際に、古いカルテに記載不備、あるいはカルテそのものの脱落、紛失があったのでしょう。私が最も知りたい西洋薬の経時的投与量の変化とその評価についての評析は何も無かったのです。それにしても、ステロイド(プレドニゾン、デキサメサゾン)抗癌剤(シクロフォスファミド等の二剤)NSAID(非ステロイド系抗炎症剤)のインドメタシンなどは当然中国の国産品とされるものです。その製造のノーハウは何処から来たのでしょうね。
こういう医案を読んだ後は、失望感と疲労に襲われます。
漢字と数字だけのだらだらした実のない長文でした。虚実弁証を下せば、
虚多実少です。つまり空虚ということです。
ドクター康仁爺 疲れたね
黒生でも一気飲みして、早々と寝るに限ります。
皆さん おやすみなさい。
2013年6月18日(火) 記