沈?法氏医案 脾腎陽虚 精関不固 水湿泛濫案
沈氏は上海岳陽医院教授
(中国当代名医医案医話選より)
患者:?某 26歳 女性 会社員
初診年月日:1977年5月26日
病歴:
1977年3月顔面下肢浮腫により病院で診察を受け、腎炎といわれ、太??病院入院25日。(入院中の治療については記載無し)退院後はまた昆山などの中草薬を服用、効果なく、遂に上海に来て外来診察を受けた。
検査:
血圧16/12kPa(120/90mmHg)、RBC300万 WBC6200 血清総蛋白4.0g/dl、アルブミン1.3g/dl、グロブリン2.7g/dl、A/G比0.58、総コレステロール5.71mmol/L(220mg/dL)、Cre1.5mg/dl、CO2CP20.2mmol/L、BUN 5.71mmol/L(34,2mg/dL)、尿蛋白(3+)、RBC(+)、WBC(+)円柱2~3、24時間尿蛋白定量10.1g、臨床診断:慢性腎炎、ネフローゼ症候群。患者は経済的負担を考慮して、外来治療を要求した。
診察時所見:
患者舌紅苔膩帯黄、舌辺歯痕あり、脈細滑。
診断:水腫(慢性腎炎、ネフローゼ症候群)、正虚湿盛。
治療:清利湿濁、益腎固精、益気健脾を補佐とする
処方:
?蹄筋(金銭草 甘淡平 利水滲湿)15g 益母草15g 帯皮茯苓15g 莵絲子12g 澤瀉15g 河白草(散微寒 清熱解毒 利水消腫)30g 山薬15g 白茅根30g 狗脊12g 赤小豆(打)30g 芡実15g 蝉衣6g 黄柏6g 玉米須30g 党参6g 山梔子9g 黄耆9g
経過:
中薬治療、低ナトリウム食、降圧治療3ヶ月余、症状は全部消失し、軽い労働にも参加し、後に出社して工場で労働するようになった。最後の検査:総蛋白6g/dl、アルブミン3.6g/dl、グロブリン2.4g/dl、AG比1,5、24時間尿蛋白定量0.06g、Cre1.5mg/dl、BUN 3.5mmol/L(21mg/dl)、尿ルーチン検査:蛋白少、RBC0~2、WBC(-)円柱(-)。
評析
中医は尿中の蛋白は精微物質の漏出と認識し、腎虚不蔵精、脾虚不斂精が精微物質の外泄由来とする。
これにより、沈氏は蛋白尿を治療するにあたり、益腎固渋、益気健脾にて、腎に蔵精を固めさせ、脾に斂精を強化させ、蛋白尿の消除の目的に到達するのである。
ドクター康仁の印象
この評析は「基礎理論から一歩も前に進んでいない(軽く流した)」ものです。
使用生薬については本稿では個別に説明はしません。というのは、既に過去の医案で殆どの生薬解説は申し上げているからです。
氏の処方は、涼寒薬と平薬が目立ちますね、温薬は狗脊と黄耆だけです。
検索する場合には「ドクター康仁 生薬名」をペーストしてグーグルなどで検索してください。
「患者舌紅苔膩帯黄、舌辺歯痕あり」これが若し「苔黄膩、舌辺歯痕」となれば、「湿熱」の弁証へ進むのです。 表現が微妙です。難しいですか?
減塩食に降圧治療とありますが、具体的な降圧治療についての記載は有りません。以前に入院していた病院から引き続いて西洋の降圧剤を服用していた可能性もあります。120/90mmHg程度の血圧であれば、減塩食程度だけで十分なはずで、降圧治療を付記するのは不自然です。
中医案ではどんな可能性も否定できないでしょう。記載しないのですから、勘ぐられても仕方ないですね。それにしても、先週の土曜日は、要注意の老中医に遭遇して、老舗(しにせ)の鰻が実は青大将だったような食あたりの気分でしたが、腹具合はどうやら大丈夫のようです。
2013年6月24日(月) 記