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ネフローゼ症候群の漢方治療 医案8 腎炎、腎不全の漢方治療136報

2013-06-03 00:15:00 | ネフローゼ症候群の漢方治療

李兆華氏医案 脾腎陽虚 水湿内停案

(腎と腎病的証治より)

Key words: 腹水 胸水 畏寒肢冷を訴える成人ネフローゼ症候群

患者?某某 22歳 女性

病歴

全身浮腫が次第に加重し、嘔吐するにおよび入院となった。診断:慢性腎炎、ネフローゼ症候群。ステロイド治療を開始したが、反応が良くなく、シクロフォスファミドを併用し、入院1が月余になったが、浮腫が未減のために、中薬治療に切り替えた。

初診時所見

患者は全身が蝋燭(ろうそく)のように白く、面色は蒼白で高度の水腫があり、腹部膨隆、腹水、胸腔にも大量の積液があり、呼吸困難で平臥出来なかった。悪心のために食べたくなく、尿量少、畏寒肢冷。

血清総蛋白3.5g/dL、総コレステロール325mg/dL、尿蛋白(3+)顆粒円柱(2+)RBCWBCは少数、舌淡苔薄白、脈象沈細。

弁証:脾腎陽虚 水湿内停

治則:益気健脾 温腎填精 通陽利水

処方

党参15g 黄蓍30g 白朮25g 防己15g 山茱萸15g 熟附子25g 茯苓15g 澤瀉20g 桂枝10g 車前子30g 赤芍30g 葶藶子25g

経過

上方加減、2週服用後、水腫は著明に消退し、胸腹水は大減、食欲も漸増、畏寒肢冷は消失した。

尿検査:蛋白(+)顆粒円柱(+)、血清総蛋白5.1g/dL、総コレステロール285mg/dL

舌質は紅潤に転じ、苔白、脈象はなおも沈。

原方より車前子 葶藶子を除き、茺蔚子25g 桑螵蛸15g 金桜子15gを加え、継続服用20剤で、水腫は基本的に消失、食欲可、精神佳となった。総コレステロールは正常化し206mg/dL、尿検査:蛋白(プラスマイナス)円柱(-)脈象和緩、原方加減を継続服用し、治療効果を固めた。

評析

脾腎陽虚、水湿泛濫の治療に当たっては、益気補脾、温腎扶陽に重きを置く。温補の薬は血清蛋白を増加させ、腎血流量を増加させる作用もあり、腎糸球体上皮細胞の機能改善、および糸球体基底膜の透過性の修復改善作用があると思われる。このような重症のネフローゼ症候群は、それらの機序により治癒を得たのであろう。

ドクター康仁の印象

李兆華氏の医案の特徴は西洋医学治療の治療薬の量や経時変化などを省き、中医学の治療手腕を前面に押し出すという形式が多いといえます。

慢性腎炎の漢方治療第39報 李兆華氏医案 脾腎陽虚 水湿内停案

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130208

慢性腎炎の漢方治療第38報 李兆華氏医案 脾腎両虚 復感外邪案

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130207

最後の、茺蔚子25g 桑螵蛸15g 金桜子15gについて若干補足しますと、

茺蔚子(じゅういし)は益母草の種子で活血化瘀薬であり、凉肝明目作用も有します。

金桜子(きんおうし)はバラ科のナニワイバラの成熟果実で、性味は酸渋平、帰経は腎、膀胱、大腸、功能は蓮子、芡実の固精、渋腸止瀉と類似しますが縮尿と表現される功能が加わります。遺精、滑精、遺尿、頻尿、白色帯下に用います。金桜子は酸渋収斂で、固渋の要薬です。最近は、金桜子が糖尿病によく使用されているようです。

水生の芡実と陸生の金桜子の2生薬を配伍した「水陸二仙丹(証治准縄)」:金子 芡実の丸剤、遺精、頻尿、混濁尿、白色帯下などに用います。

桑螵蛸(そうひょうしょう)は昆虫の蟷螂(カマキリ)の卵鞘で、帰経は肝腎、

補腎助陽、固精縮尿に作用します。治療対象は腎陽虚による遺精、滑精、遺尿、頻尿、白色帯下などです。

固摂腎気剤としての「桑螵蛸散(そうひょうしょうさん)」を紹介します。

桑螵蛸散(本草衍義):桑螵蛸 遠志 菖蒲 龍骨 人参 茯神 当帰 亀板

主要症状:頻尿、小便清長、残尿感、遺尿、或いは尿がポタポタと少ししか出ない。排尿に勢いがない。舌質は潤、舌苔は薄、脈は沈細。主に高齢者、慢性疾患、疲労による腎気虧虚、固摂不能、膀胱失約の場合に用いられます。


評析者泣かせの医案の部類です。結果よければ全てよしでは評析になりませんし、かといって、なぜ治ったのだろうと考えても、尤もらしいコメントが見付からないのですから。葶藶子は葶藶大棗瀉肺湯の発想であることは間違いありませんね。附子の使い方が上手なのでしょう。温腎填精の温腎については異論ありませんが、填精に相当する薬剤は山茱萸以外には無いようです。

もう一度眺めてみましょう

治則:益気健脾 温腎填精 通陽利水

党参15g 黄蓍30g 白朮25g 防己15g 山茱萸15g 熟附子25g 茯苓15g 澤瀉20g 桂枝10g 車前子30g 赤芍30g 葶藶子25g

よく中医腎病案で使用される参耆地黄湯の類の「参耆」は党参 黄耆です。益気養陰とまとめていいでしょう。山茱萸 附子は固渋温腎に、茯苓は健脾利水、さて赤芍は白芍にない涼血活血作用が有りますね。真武湯(炮附子 白朮 茯苓 生姜 白芍)の白芍を赤芍に変えて、生姜は除き、通陽利水の五苓散(猪苓 澤瀉 白朮 茯苓 桂枝)の猪苓を除き、防己、車前子、葶藶子を配伍した方剤構成になっていますね。見ようによっては、防己黄耆湯(防己 黄耆 甘草 白朮)から甘草を除いて考慮したとも思えます。

このあたりに、李兆華氏の処方の妙があるのでしょうね。一度診たら忘れられないような症例です。処方の流れは弟子であれば、一生忘れられないものになるでしょう。

2013年6月3日(月) 記