叶景華氏医案 風熱犯肺 湿熱内阻案
(叶景華医技精華より)
患者:徐某 32歳 女性 農民
病歴と検査所見:
患者は8歳の時に腎炎を患ったことがある。ここ1月来、鼻閉、咽痛、咳嗽が遷延し治らず、入院5日前、顔面から下肢に浮腫が出現、小便短少、納呆が生じたが、大便はまだ異常なかった。入院してから診察してみると、顔面にやや浮腫があり、咽頭は紅く、舌質紅苔薄黄膩、脈細、血圧18.4/12kPa(138/90mmHg)、心肺異常なく、腹転飽満(体位変換して側臥位になると腹水が重力で下部に集まり其の部分の腹部が膨隆する意味でしょう)、肝脾触れず、下肢に陥没する浮腫あり。
検査:尿蛋白(4+)RBC,WBCを伴う。24時間尿蛋白定量7.8g、BUN12.14mmol/L(73mg/dL)、Cre123.8μmol/L(2.22mg/dL)、総コレステロール8.4mmol/L(325mg/dL)、トリグリセリド2.86mmol/L(243mg/dL)、血清アルブミン2.05g/dL、グロブリン2.9g/dL。
診断:ネフローゼ症候群
治則:先ずは宣肺清利する
処方:牛蒡子10g 前胡10g 桔梗6g 金銀花15g 連翹10g 白茅根30g 車前子30g 板藍根10g 澤瀉15g 生甘草4g 陳皮10g
経過:
服薬1週で小便漸多、浮腫漸退、鼻閉咳嗽咽痛漸好転、但し尿蛋白とRBCまだ多く、益腎清利、活血祛風の剤に改める。
処方:鹿蹄草30g 牛膝10g 金雀根30g 徐長卿30g 菝葜BáQiā 30g 半枝蓮30g 黄柏10g 白茅根30g ?菜花30g 小薊30g 陳皮10g
腫節風片を一回4錠1日4回併用し、1月後、浮腫は完全消退、一般状況良好、尿蛋白は著明に減少し、24時間尿蛋白定量は減少し1.0gとなり、RBC8.15/HP、血清総コレステロール6.76mmol/L(261.6mg/dL)、トリグリセリド1.232mmol/L(105mg/dL)、血清アルブミン値は上昇し3.3g/dL、グロブリン値3.3g/dL、BUNは減少し6.78mmol/L(40.7mg/dL)となった。
そこで退院、外来治療となったが、2ヵ月後、油断して感冒に罹り尿少、下肢の浮腫が出現したが、疏解清利の剤で、尿蛋白とRBCは消失し、一般状況良好であり、随訪7年間再発は無い。
補遺:
菝葜BáQiā(バッカツ)
別名、土茯苓 あるいは山帰来です。といえば知っている方も多いでしょう。漢名がバーチア菝葜になるそうですが、倭寇が日本に持ち込んだと言われている梅毒の治療薬として、山帰来(サンキライ)[別名:土茯苓(ドブクリョウ)]が広く用いられました。中国から江戸時代、梅毒治療の目的で長崎に大量に輸入されていたといいます。清熱解毒薬ですが珍しく薬性が平です。
腫節風(???Zhǒn? Jié Fēn? 別名が九節茶、接骨蓮です。)
以前紹介した、??活(qiān qiān huó)別名 接骨木 接骨草 七葉黄荊 七葉金 透骨草とは異なります。接骨蓮が腫節風で、接骨木が??活とは紛らわしいですね。
腫節風は辛苦微温、或いは辛苦平と清書によって異なります。効能は清熱凉血,活血消斑,祛風通絡。主治は血熱紫斑、紫癜,風湿痹痛,跌打損傷などですが、最近では消化器系の抗癌生薬として用いられることが多く、特に錠剤である腫節風片(中成薬)が発売されてからは多量に使用されました。その後、肝障害の副作用が問題となり、現在は投与量が減少したようです。
評析
本案では益腎清利、活血祛風の剤を主として用い、其の中で、腫節風も長期服用した。この類は尿蛋白、尿中赤血球の消除に一定の効能があるようだ。益腎には鹿蹄草、牛膝、清利には黄柏 白茅根 半枝蓮、活血には金雀根、祛風には徐長卿、菝葜、腫節風を用いた。現代の研究では祛風薬には、抗炎症、鎮痛、解熱、降圧作用とともに、病的抗原の抑制或いは清除に働く可能性があり、腎病治療に対する効用は総合的なものである。臨床観察により有効な効果が確認されている。
ドクター康仁の印象
昔の上海では上海中医―薬科大学付属の曙光病院は上海市の中心に、龍華病院は上海市の郊外にありました。そのために、龍華病院には農民の患者さんが多く、曙光病院には市街地の住人や公務員の患者さんが多かったのです。叶氏の医案の殆どが農民であるのはそのためでしょう。
かつて龍華病院に勤務し、現在当院(すずき康仁クリニック)の趙博士のお話を聞くと、農民は最後の最後まで治療を受けないで、病態が悪化してから担ぎ込まれてくることが多く、いわゆる典型例が多いとのことです。趙博士が救急担当医時代には、十分に水で戻さない堅いきくらげを食べ過ぎて、あとで、きくらげが腸管で水分を吸って膨張したことによる急性腸閉塞の話や、回虫の塊を嘔吐させた方法や、心筋梗塞で救急病棟に担ぎこまれた患者の胃カテーテルから野山人参を注入して蘇生させた話とか興味深い話を聞くことができます。私は曙光病院で主に研修していましたので、制服を着たいわゆる幹部を多く見ました。
2013年6月8日(土) 記