李兆華氏医案 脾腎両虚案
(腎と腎病的証治より)
Key words: ステロイド抵抗性成人ネフローゼ症候群
患者:張某某 21歳 男性
病歴:
ネフローゼ症候群にて何度も治療を受けたが治らず、入院治療となった。ステロイド治療1月余で、効果が無く、患者は中薬治療を要求した。
(治療内容についての記載はありません。李兆華氏医案の特徴です。)
初診時所見:
患者面色紅潤、精神状態は良好で、食欲可、ただし口干、煩熱感があり、夜間の睡眠が不寧、手足心熱、水腫は顕著で腹水を伴う。
血清総蛋白3.45g/dL、総コレステロール412mg/dL、尿蛋白(3+)。
舌質紅、少苔、脈象細数。
弁証:陰虚火旺 水湿貯留
治則:滋腎降火 益気健脾
処方:
生地15g 玄参30g 知母15g 鼈甲15g 山茱萸15g 黄耆30g 紅人参3g 澤瀉15g 阿膠10g 石葦30g 寸冬(麦門冬)30g
経過:
上方を連続服用7剤後、面紅、煩熱、夜寝不寧、手足心熱が消退、浮腫及び腹水も明らかに減軽した。総蛋白4.6g/dLに上昇、総コレステロールは386mg/dLに低下、尿蛋白は2+に減少。舌淡苔薄白、脈象沈細、陰虚火旺証は既に解除され、脾腎両虚の証が見られ、益気健脾、補腎養血を以って治療した。
処方:
紅人参6g 黄耆25g 白朮15g 茯苓15g 山薬30g 山茱萸15g 阿膠10g 当帰15g 黄精30g 甘草10g 車前子30g
経過:
上方服用後、水腫は次第に消退し、尿蛋白は漸減(2+~1+)、1ヵ月後には水腫、腹水は全消し、血清総蛋白はさらに上昇し5.8g/dLとなった。総コレステロールは減少し191mg/dLと正常化し、尿蛋白は陰転した。
評析
脾腎両虚証は、長期に大量のステロイドを投与すると、腎陽を扶助してしまい、陽盛に至り、臨床的には、面紅、煩熱、口干、脈細数などの陰虚火旺の症候が出現する。滋陰降火の剤を使用した後でも、陰虚火旺が再発し、病はまだ其の本にあり、脾腎両虚の症候が始まる。最終的には培補脾腎にて効果を収めることが出来る。
ドクター康仁の印象
ステロイドの大量長期投与による陰虚火旺は標であり、本は脾腎両虚であるという考え方には納得します。生地15g 玄参30g 知母15g 鼈甲15g 寸冬(麦門冬)30gで十分に養陰清熱涼血をおこない、治標としたのです。紅人参は一般には陰虚火旺には使用しませんが、治本の意味があるのです。
次の処方には生地 玄参 知母 鼈甲 寸冬(麦門冬)は除かれています。黄精30gが加味されていますが、黄精は脾気を脾陰とともに補うことができ、滋陰薬でありながら補脾益気に作用し枸杞子と併用すると補腎填精の作用も強化されます。見事な組み合わせですね。
2013年6月4日(火) 記