金曜日、妻が還暦を迎えた。私とは1年違いだ。結婚して33年、私と共に暮らした歳月のほうが長くなっている。仕事を理由に家庭を顧みなかった私の代わりに、長男の嫁として良くしてくれたと感謝しているが、口下手なのと恥ずかしがり屋なのでそれを伝えることができない。態度で示したくとも、根が横着なのでそれもできない。(涙)
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家族でのお祝いは来月に旅行すると決めていたので、その日は身内だけのささやかな祝いだけだった。私は出張帰りにケーキを買い、娘二人は寄せ書き付きのバラの花束に、夫婦茶碗と夫婦湯呑も添えられていた。
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娘たちからは、家族全員が集まって食事でも、と提案されたが、和音君の入院騒ぎ以降、ゆっくりとしていなかったので、夫婦二人だけの静かな時をもちたい、と断ったらしい。60年間の想いを喧騒な中に埋没させたくなかったようだ。私としても嬉しい想いだった。
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結局その日の夕食は、私の誕生日に娘からプレゼントされていたフランス産の赤ワインと、薄肉ステーキだった。娘たちが孫を連れて帰った後の慌ただしい余韻が残ってはいたが、これから始まる新たな二人だけの旅立ちを祝うには、充分な時間だった。
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<o:p>ケーキに手が届かなくて、悔し涙を出している奏汰君。</o:p>