セザンヌとフリークビート

2014-04-20 15:03:57 | Music Life
セザンヌは若い頃、クールベから影響を受けたせいなのか、パレットナイフを用いてキャンバスに分厚く絵の具を盛り上げていた。描く主題も「殺人」のような、暗く、異常なものが多いのだが、それは現実社会との接点を失った当時のサロンへの反抗であり、筆致の痕跡をなくし、ひたすらなめらかな画面にするアカデミックな絵画技法への抵抗でもあった。



この、絵の具を厚塗りする技法をセザンヌは「クイヤルド(Couillarde)」と呼んだ。クイヤルドとは「大きい睾丸」という意味らしく、日本語では「デカキン画法」などと訳されることが多いのだが、いずれにしてもこうしたネーミングは、高校生がバンド名を決める時にウケを狙って下品な名前にしてしまうというような若気の至りに近いものがある。

若気の至りと言えば、60年代のガレージロックやフリークビートも、よりラウドに、より凶暴にギターをかき鳴らし、ドラムを叩き、ヴォーカルが叫ぶことで、ビリビリ、ザラザラしたノイジーで耳障りなサウンドを作り出すのだから、セザンヌの「クイヤルド」みたいなものだと言えなくもない。いわば「クイヤルドビート」というわけだ。睾丸は言い換えれば「ふぐり」だから、フリークビートは「ふぐりビート」と言い換えてもいいはずだ。

ここにザ・カラバッシュという一つのバンドが存在する。このバンドはザ・パイロンズ解散後の流れで結成されたバンドで、フリークビートを標榜している。ザ・パイロンズはメンバーの出身地である広島を流れる太田川にちなみ「太田川ビート」を標榜していたが、そもそもパイロンズという名前の由来は「自然を円筒、球、円錐によって扱え」というセザンヌの言葉ではなかったか。

 

音楽を円錐によって扱うこと。我々はパイロンがカラーコーンという呼称でより一般的であることを知っている。このコーンはconeで、つまりは円錐という意味であるが、松ぼっくりという意味もある。ぼっくりとは何か、それは「ふぐり」が転訛したものだという説がある。

そしてザ・カラバッシュとなるわけだが、Calabashとはヒョウタンという意味である。ヒョウタンは楽器の素材とされることが多いが、そもそもカラバッシュという名前の由来は「自然を円筒、球、円錐によって扱え」というセザンヌの言葉ではなかったか。

 

音楽を球(タマ)によって扱うこと。我々はヒョウタンに似た実をつけるヒョウタングサがオオイヌノフグリと呼ばれることを知っている。このように、ザ・パイロンズからザ・カラバッシュに至る過程にも「ふぐり」が潜在するのである。

「桜の樹の下には屍体が埋まっている」ように、フリークビートには「ふぐり(睾丸)」が潜在していることを知っているザ・カラバッシュの演奏を聴いてみよう。ソニックスのカバーでThe Witch。ギターとベースがロングホーンという「だのじゃん」的にも嬉しい編成。しかし残念ながら、ザ・カラバッシュは現在活動休止中。


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