夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

穴埋め和歌

2016-12-17 23:56:52 | 日記
後期の文学の授業では、百人一首講座を行うなかで、学生に和歌の穴埋め問題をやらせている。
短歌と違い、古典和歌で出題する場合は、現代語訳を添える必要があるし、古語や古典常識などの背景となる知識が学生側に不足しているので、なかなかいい解答が少ないのだが、時々(お、これは。)と思わせるような答えがある。

先日出した問題は、すべて『詞花和歌集』から選んだ。
風巻景次郎が言うように(『中世の文学伝統』)、『詞花集』には藤原俊成のいわゆる「ざれ歌ざま」の歌が多く、言葉の連想からくる興味を狙った駄洒落のような歌が目立つため、学生も答えやすいのではないかと思ったのだ。

解答例をいくつか紹介すると、

①■■■■の こたふる山の ほととぎす 一声鳴けば 二声ぞ聞く(夏・59)
  (■■■■の答える山のほととぎすは、一声鳴くと二声聞くことができる。)

元の歌「やまびこ」

これは、ほとんどの学生が正解していた。
「うぐいす」という答えは、ホトトギスがウグイスを托卵の相手として利用することを知っていて、解答にひねりを利かせたのであろうか。

②たなばたの 待ちつるほどの ■■■■と 飽かぬ別れと いづれまされり(秋・92)
  (織姫が彦星の訪れを待っている間の■■■■と、別れの時の飽き足りなさとはどちらが勝っているだろうか。)

元の歌「苦しさ」

学生の解答には、「喜び」「高揚」「期待値」「わくわく」など、プラスの感情を答えている者が多かった。しかし、私は、1年に1度しか会えない相手に、ワクワク感を維持し続ける自信がない。
「寂しさ」「悲しみ」といった答えが少数ながらあったのには、そうそう、その通りと思った。

③わが恋は ■■■にのみぞ 慰むる つれなき人も 逢ふと見ゆれば(恋・193)
  (私の恋は■■■でだけ慰められることだ。あの冷淡な人も逢うと見えるので。)

元の歌「夢路」

「夢見」「寝る間」など、きわめて正解に近い答えがあった。
「涙」「お酒」のようにやや安易な答えに混じって、「記憶」「チラ見」など、なるほどなと思わせる解答もあった。
「お金」は一見、安直に見えて、実は鋭い発想なのではないかと思った。キャバ嬢に本気で恋してしまい、大枚はたいて疑似恋愛にすがる哀れな男の姿が目に浮かぶ…。
「フィギュア」とか「2次元」といった、ディープヲタクな解答がなかったのにはほっとした。


こうした取り組みやすいところから和歌に親しんでもらい、この講座の最後の方では、一首まるごと詠めるようになってもらいたいと期待している。