貴重図書の閲覧で、宮内庁書陵部に行った。
竹橋駅で降り、代官町通りから北桔橋(はねばし)で皇居のお濠(ほり)を渡る。
皇居内へ入ることなどそうそうないので緊張してしまう。
東御苑(ぎょえん)の桜は満開だが、あいにくの雨で、すでに散り始めている。
書陵部の受付で手続きを済ませ、予約しておいた貴重図書(江戸時代中期の写本)の貸出を受ける。本を開くと、さっと墨の匂いが漂ってきた。ノートをとりながら本文の調査などを行っていくが、機械的な作業ではなく、昔の人の筆づかいや墨つぎの様子などを実際に感じられて楽しい。
書写段階での写し間違いなどを見つけたときは、閲覧室にいながら、思わずクスッと笑いそうになってしまった。写本は、書写者によって書体や用字に特有の癖があるが、それに慣れてくると、文字を介して昔の、顔を見たこともない人と交流しているような気持ちになってくる。その人柄まで伝わってくるように思われる。古筆はまさに「見ぬ世の友」であり、今日は古人との対話を楽しんだように思った。