夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

「マーガレット・サッチャー」観ました。

2012-04-13 22:57:13 | 映画
昔から、毀誉褒貶の激しい人物に興味がある。

英国のサッチャー元首相も、論じる人によって評価がまるで違う。

アカデミー賞主演女優賞を受賞したメリル・ストリープの演技も気になって、観に行った。


映画を観ていて、同じ議会制民主主義とはいっても、かの国とわが国と、まるで政治文化が違うことに衝撃を受けた。

議会での討論の場面で、与野党の議員同士が真っ向から対決し、至近距離で激しく応酬するところが印象に残った。

こういう討論は、並の日本人の神経なら、とうてい耐えられないだろう。


反政府ゲリラに盟友の議員を殺されたり、激昂する市民達に車を取り囲まれ罵声を浴びせられるシーンも、現代の日本ではまず考えられない状況である。それでも、彼女が自分の誇りをかけて信念を貫く姿に、「鉄の女」と呼ばれるにふさわしいタフさを感じた。

この映画を観て、一番感じたのは、「結局、人は自分の信念に従って行動するしかない」ということである。

世の中には様々な考え、様々な立場があり、指導的な地位にある者は、どういう決断を下し、実行したとしても、全ての人々を満足させることはできない。自分が正しいと信じて実行した政策の結果も、その是非というよりはむしろ、時勢や時運に左右される部分が大きい。


この映画自体は決してわかりやすくも面白おかしくもない。連想や回想で現在と過去を行ったり来たりし、現在の場面でも亡き夫の幻影が出入りする構成は、一見してスムーズに理解できるわけではない。しかし、見終わる頃には彼女の生きてきた人生の重みがどっしりと伝わってくるし、彼女の若い頃よりも(若い頃のマーガレットを演じたアレクサンドラ・ローチもとてもよかったが)、むしろ老いた彼女の姿にチャーミングなものを感じた。これは、メリル・ストリープの演技がすごいのだろう。

重厚で見応えのある映画でよかった。