陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

米国の変節と日米離間

2007-09-15 02:01:53 | 米国関係
 秋篠宮悠仁(ひさひと)親王殿下のご生誕1年を迎えたのが9月6日、既に「重陽の節句」(9月9日)も過ぎて、昨年はこのブログでもそれにまつわる「菊花の約」の話を思い出して述べたり、また9月10日の「川中島合戦」について触れた。あれから早くも1年経過したのだ。将に “Time flies like an arrow” である。

 そして、当時の政界は小泉後継の安倍晋三首相登場に沸いていた。総裁選では、日和見をしていた各派閥も雪崩を打って安倍候補支持にまわった。約1年後、参議院選敗北が契機となって、安倍首相は臨時国会での代表質問にも応答せずに辞意表明、予期しない形でテロ特措法延長や対北朝鮮問題は次期政権に委ねられた。結局のところ、年金問題は過去の政権の行政怠慢から来ているのに、国民は勘違いをして安倍政権を潰してしまったのだ。

 さて、今年は6回目の9.11同時多発テロ事件発生日を迎えた。小ブッシュ政権開始の2001年初秋に起きたこの事件、同政権にとっては象徴的な存在である。そして、6年半を経過した現在の同政権の抱く対北朝鮮方針は、政権発足当時とは180度違いを見せて来た。大統領就任後1年経過した2002年1月、小ブッシュ大統領はイラク、イラン、北朝鮮を<悪の枢軸>と表現し、北朝鮮については人権無視をしながら核兵器開発に勤しむ金正日総書記を強烈に非難した。だから米朝二国間協議など端から否定していたし、中共に主導権を持たせて「六カ国協議」を新たに開始して、北朝鮮の核武装を止めさせようと画策した。

 このような経緯の中、日本は米国が拉致問題にも理解があると認識し、アフガン侵攻、そしてイラク戦争にも協力したのだ。だが、昨年10月末、金正日総書記からの秘密書簡を小ブッシュ大統領が受けるに至って、米国の対北朝鮮方針は目に見えない形で大きく変えられた。私達には、最初それが分からなかった。

 その前年、2005年4月に横田早紀江さんが小ブッシュ大統領に面会した際、彼は横田さんに深い同情を示した。それは、米国の基本姿勢が拉致問題解決に協力するとの真剣なメッセージと私達は受け止めた。ところが、この面会の少し前、胡錦濤総書記が訪米して小ブッシュ大統領と会談し、北朝鮮融和策に触れていたことが最近明らかになった。

2007/09/07-14:24
米朝平和条約構想、中国主席に伝達=06年4月にブッシュ大統領

 【ワシントン7日時事】2006年4月に中国の胡錦濤国家主席が訪米した際、ブッシュ大統領が米国と北朝鮮の平和条約締結構想を胡主席に伝えていたことが、7日までに分かった。米ワシントン・ポスト紙の外交専門記者グレン・ケスラー氏がライス米国務長官の外交政策について書いた新著「コンフィダント(腹心)」の中で複数の米当局者の話を基に明らかにした。
http://www.jiji.com/jc/zc?key=%a5%d6%a5%c3%a5%b7%a5%e5%c2%e7%c5%fd%ce%ce%a1%a1%b8%d5%b6%d3%de%b9&k=200709/2007090700605


 これが事実とすれば、日本にとって由々しい問題だ。小ブッシュ大統領は、拉致問題に対する日本の強い意思に表向きは理解する振りをしながら、秘密裏に北朝鮮との融和交渉を進めていたことになる。

 小ブッシュ大統領自身には、外交基本理念が欠けていると私は見ている。前期4年間の大半は外交方針をネオコン任せで大量破壊兵器撲滅を理由としたイラク戦争に踏み切り、後期はコンドリーザ・ライス補佐官を国務長官を任用し、中東外交を任せ放しの状態だ。ライス氏は、対日姿勢においては中々強(したた)かな側面があり、彼女の断片的な言辞から判断すれば、拉致問題に関しては六カ国協議の対象外と考えている節がある。

 2005年1月に国務長官に就任して以来、彼女はそれまでの対北朝鮮政策を変えるように決心していたのではないかと想像する。イラク戦争が泥沼化している段階で、中東問題と朝鮮半島問題を同時に扱うことは現実的ではないとの判断が彼女の心底にあったのだろう。六カ国協議担当者をクリストファー・ヒル国務次官補に変え、就任した年の9月には第4回六ヶ国協議の内容を具体化した。つまり、北朝鮮に対し核兵器放棄を了解させる形で共同声明を発表した。ところが例のBDA問題で交渉は頓挫する。

 この流れの中で、2006年4月の胡錦濤総書記訪米に際し、上記の記事にある「米朝平和条約基本構想」を小ブッシュ政権としては秘密裏に話し合っていたとしても不思議ではない。中共には都合の悪い話だから、胡総書記はそれを無視した。この年は、BDA問題膠着にいらつく北朝鮮が7月にミサイル乱射、10月には怪しげな核実験実施、その直後に小ブッシュ大統領宛の金正日書簡伝達があった。これが米国政府の方針を大きく変える契機になった。そしてイラク厭戦気分の高まりは、中間選挙での米国民主党の勝利を生み出す。このプロセスの中で、世論を利用して小ブッシュ政権からのネオコン追放が顕著になって行く。

 頃は良しと言う事であったのだろうか、小ブッシュ大統領諒解の下に今年1月に米朝秘密会談(ベルリン)が行われた。出来れば、年内に米朝平和条約締結まで進めたいとの話が行われたかも知れぬ。<嘘吐き>ヒル次官補の相手である金桂寛外務次官は、米国の方針転換に喜色満面であった。後は、茶番のように事は進んだが、国防省と財務省の一部がライスーヒル組のスキームにBDA問題で抵抗し、3ヶ月程交渉進展は遅れた。私達は、その一部を眺めていたことになる。

 最早、小ブッシュ政権は拉致問題に重きを置いていないことが明らかである。残念ながら、安倍首相の拉致問題解決への熱意は、ライス構想(米朝平和条約の早期締結)によって弾き飛ばされつつある。北朝鮮のテロ支援国家指定は間もなく解除されるだろうし、経済制裁もなし崩しになるだろう。

 国会は、2006年6月23日に拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律を成立させた(共産党及び社民党は反対)。

 この法律は、国連総会において北朝鮮を名指しした人権決議が採択されたことを踏まえ、北朝鮮の人権侵害問題に関する国民の認識を深めるとともに、国際社会と連携しつつその実態を解明し、抑止を図ることを目的としている。その主な内容は、次の通り。

(1) 拉致問題の解決を国の責務として明記し、地方公共団体は国と連携を図りつつ国民世論の啓発に努めること。
(2) 12月10日から16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間(仮称)」とし、国及び地方公共団体は、この趣旨に則った事業を実施すること。
(3) 政府は、拉致問題等への取組みについて、毎年国会に報告し公表すること。
(4) 政府は、国際的な連携の強化、NPO等民間団体との密接な連携確保に努めること。
(5) 政府は、拉致問題等の改善が図られていないと認めるときは、国際的動向等を総合的に勘案し、「改正外為法」「特定船舶入港禁止法」の適用その他必要な措置を講ずること。

 この法律の存在を米国政府が知らないはずは無いし、今年4月の日米首脳会談でも、日本国民の意思は安倍首相から小ブッシュ大統領に伝えられている。それを無視しての米朝早期融和は国際信義に悖(もと)ると言わざるを得ない。

 このままでは、日米離間は進むと想像される。テロ特措法の延長は、国際協調に沿うものである一方、米国を強く支援する側面を持つ。それが無効となれば、米国は北朝鮮との融和策を更に日本を無視する形で推進することになろう。

 安倍首相は、テロ特措法で民主党と対決する考えであったのだろうが、健康上の理由でこれを断念、次期政権に民主党との交渉を任せることとなった。福田康夫氏が後継首相となる公算大であるが、拉致問題とテロ特措法の処置をどのようにするのか、じっくりと拝見させてもらおう。
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