陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

身勝手な米国、金融危機では自己責任を放棄するのか

2008-07-23 06:27:14 | 米国関係
 サブプライム問題が重く圧し掛かる米国金融界、7月18日にシティ・バンクの欠損は5兆円に達すると報告され、予想より少なかったと言う訳で、ダウ平均株価は上昇する場面があったが、益々同国の信用収縮問題は拡大しそうである。5兆円と言えば、日本の年間防衛予算に匹敵する巨額で、シティ・バンクの規模の大きさが分かる。

 1990年代、日本金融界は土地バブル後遺症に悩まされ、時価会計と自己責任が米国から煩いほどに言われた。含み資産を否定するBIS規制の導入も強制的に行われて、銀行の貸し渋りが表面化、中小企業は塗炭の苦しみを味わった。拓銀や長銀はその過程で破綻し、精算・消滅を強いられたことは今なお記憶に新しい。

 だが、只今米国に蔓延しつつある信用不安では、自己責任性が曖昧になっているとの指摘がある。他国へは民主主義だ、金融自由化だ、自己責任だと米国は金科玉条を押し付け、自国の問題になるとルール無視で都合良く振舞う、これではフエアである事を自ら放棄する態度であり、基軸通貨国の名前が泣くであろう。

米金融危機:自己責任原則の放棄で米国は弱体化、ドルは凋落
7月18日16時45分配信 ロイター 森 佳子記者

 [東京 18日 ロイター] 信用バブル崩壊後の不良債権問題の深刻化で追い詰められた米国は、「自己責任原則」や「時価会計ルール」など米国社会の真髄を貫くルールを自ら放棄しはじめた。

 これは急場しのぎとしては有効かもしれないが、世界の信頼を損なうことで、米国の弱体化は加速し、基軸通貨ドルの凋落の歩みを早め、将来に取り返しの付かない禍根を残すことになるとの見方が世界の投資家の間で聞かれる。

<自己責任原則の放棄>

 金融界に限らず、米国社会の根幹をなすルールは「自己責任原則」であり、これを法律に例えれば米国の憲法のようなものだ。

 しかし、3月に資金繰りに窮した米証券ベアー・スターンズに緊急融資枠を設定して救済をはかったことを皮切りに、このところ米国が様々な場面で自己責任原則を放棄するケースが目立ってきた。

 「インベストメント・バンクが先導した信用バブルが弾け、金融界が苦境に陥ったことで切羽詰った米国は、とうとう自己責任原則という『踏み絵』を踏んでしまった」とファースト・インターステート・リミテッド香港社長、中山茂氏は指摘する。

 自己責任原則は時価会計ルールと並んで、他国が米国スタンダードを受け入れる際に「フェアな基本理念」として認識され、米国スタンダードは世界的な広がりをみせた。

 「これを放棄することは、米国の自己否定を意味し一番の強みを捨てたことになる。今後、米国の信用は、国際的にも国内的に失墜し、弱体化が加速するだろう」と中山氏は予想する。

 ベアー救済劇の翌日には、米連邦準備理事会(FRB)が米証券会社に対する連銀窓口貸出(Primary Dealer Credit Facility=PDCF)の開始を発表したが、証券会社は本来FRBの監督外にある業態で、流動性供給はFRBの使命を逸脱した異例の措置だ。

 だが、バーナンキFRB議長は、当初は半年間の期限付きだったPDCFを年末を越えて延長する用意があるとまで表明した。

 今月14日、米政府は経営難が懸念されている2つの政府系住宅金融機関(GSE)、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)<FNM.N>と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)<FRE.N>の救済に着手、現在は1公社につき22億5000万ドルの融資枠の上限を引き上げ、両公社の資本増強のために株式を購入する方針を表明。さらに連銀窓口貸出枠で資金供与する提案もした。

 米国が自己責任原則を放棄してまで、必死にウォール街を救済するのは、マイナス成長やリセッションを回避したいからだ。

 だが、著名投資家のジム・ロジャーズ氏は「リセッションはシステムに存在する過剰を取り除くという意味で『善』である」と言う。

 「米国が過剰(マネー)にまみれたウォール街を救済して、リセッション回避をはかることは愚かしく、米国は、実際にリセッションを体験するより、はるかに高価な代償を支払うことになるだろう」とし、「無分別な資金供給によって、FRBは自らの衰退を招くだけでなく、激しいインフレを招き、基軸通貨としてのドルの終焉を早めるだろう」とロジャーズ氏は警告する。マネーモーニングとのインタビューで答えた。同氏は米政府のGSE支援について「完全なる自己破滅的行為」と評している。

 都合に合わせてルールを変更するということは、米国が政治の世界で何度もやってきたことだ。これが経済の世界でも通用するのか、目下、金融市場に試されている。

 ドルに対するバスケット通貨(ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローナ、スイスフラン)の加重平均値であるドルインデックスは、2001年7月の120.90から4割超下落して3月には過去最低の70.689となった。現在は72台を推移している。

 ロジャーズ氏は、米国債はここ1―2年の間に現在のトリプルAから格下げされるだろうと予言する。

<時価会計原則の裏技>

 米国は金融機関の決算について、時価会計ルールを早々と放棄し、違法ではないものの異なる会計処理を活用し、国を挙げて金融機関の粉飾決算の片棒を担いでいるとの批判が、米国以外の国々で上がっている。

 「かつて米国は、日本に対して時価会計ルールの厳格適用を声高に要求し、日本の金融機関を潰しておいて、自分が困ったときには、勝手にルールをネジ曲げるのは許しがたい」(本邦金融機関)。「時価会計のポイントは、ガラス張りで全体が見渡せることだ。少しでもルールを曲解すれば、全てが台無しになる。米国がフェアなアカウンティングとして世界に売り込んだものを、自らの都合で柔軟運用するとは、呆れて物が言えない」(アジア系金融機関)と絶句する。

 米財務会計基準審議会(FASB)は昨年、金融商品の会計処理における公正価値の算出基準としてFAS157号を導入し、米大手金融機関でも採用している。FAS157号の下では、時価会計が適用されるのは、レベル1と呼ばれる資産のみだが、米金融機関保有の金融資産のうち、レベル1に区分されるものは3割にも満たない。他方、時価算定が困難な資産であるレベル3資産は増え続けている。

 米国が政府を挙げて支援しているGSEの会計も柔軟運用の一例だ。

 「ファニーメイについてはバランスシートで資産の評価が甘いと言える。レベル3資産については十分な引き当て・償却を行っておらず、同公社が保証する債券の引当金(負債サイド)も全く十分とは言えない」と東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏は指摘する。

 斎藤氏によれば、ファニーメイは資産がわずか2%目減りしただけで、株主資本を超える損失が発生するほど資本が脆弱な状態で、損失処理ができるほどの資本増強が早急に必要だという。プール前セントルイス地区連銀総裁は「両公社が破たん状態にあると認識するべきだ」と述べている。

 斎藤氏によれば米金融機関が活用する会計の裏技には少なくとも3種あるという。

 第1に、損失が出ている保有証券を「満期まで保有するつもりで、売却可能で流動性が高い」というカテゴリーに分類することで、「簿価」評価し、評価額の変化が永続的と判断されるまでは「その他包括的利益」に繰り入れる。これによって評価損は表面化しない。

 第2に、レベル3資産(流動性も指標もなく各社が独自の推定によって評価する資産)をヘッジするためのデリバティブ資産についてのみ未実現収益を計上し、損益計算書のトレーディング収益に入れる。実際、米投資銀行はレベル3資産から巨額の未実現収益を計上している。

 第3に、大きな損失を出した場合は、金融当局に時価評価を一時凍結してもらう。バーナンキ議長は「時価会計は、時に投げ売りを誘って市場を不安定にする側面がある」との認識を示し、「必要であれば一時凍結することもありうる」ことを示唆している。(ロイター日本語ニュース 森佳子 編集 橋本浩)

最終更新:7月18日16時45分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080718-00000135-reu-bus_all


 故レーガン大統領は、ソ連との冷戦に決着をつけるべく、「レーガノミックス」と言われる金融拡大策を導入し、スターウォーズ戦略に投資した。結果的にソ連はそれに追従出来ず、共産政権は退陣して国家解体の道を辿った。だが、その後も米国の金融資産は見掛け上増加を続け、双子の赤字は巨額のまま常態化する。クリントン政権は、ITバブルを生み出して一時的に赤字を減らしたが、金融資産額と実体経済=GDPとの乖離は益々増大した。

 小ブッシュ政権のアフガン占領、そしてイラク戦争は世界から借金をしながら闘われた。戦略的読み違いもあって両方共「日本占領」のように戦後治安維持は上手く行かず、毎年12兆円を注ぎ込まねばならぬ泥沼に陥った。世界からの借金は、デリバティブやレバレッジ(てこの原理)を利用して原資の10倍まで膨らませて運用、これを金融工学などと米金融筋は自賛していたが、それが何時までも続かないのは自明である。

 現在、米国GDP=1300兆円であり、一方、運用金融資産は1京3000兆円に達する(GDPの約10倍)。運用金融資産がサブプライム問題で部分破綻したのだから、時価会計を適用し、自己責任で金融機関はこれを処理しなければならぬはずだ。しかし、それをまともにやれば、米国経済には巨大な信用収縮が起き、ドルの暴落を伴って世界大恐慌を招くであろう。

 小ブッシュ政権とバーナンキFRB議長はこの事態をどう処理するのであろうか。米国の経済破綻が目前とあれば、イラン攻撃などまずやれるはずが無いと私は思う。
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