陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

京都の老舗バーで想い出した<ゴンドラの唄>

2009-12-05 05:18:27 | 読書・映画・音楽

 所用で京都に来て、懐かしい人々と会い懇談をする。京大会館のレストラン<このえ>で8人が会食、昔話に耽(ふけ)った。その後、皆と別れ、若い人達の行き交う河原町通りへ出て3条から4条まで歩いた。以前よく利用した六角通り近くの<サンホテル京都>は、名前を変えて<ホテルユニゾ京都>になっている。時の流れを感じさせる。

 新京極は、新しい店が出来たり、畳んだりで変化が大きく、けばけばしくなっている。でも刃物屋の<源久秀>(みなもとのひさひで)は相変わらすで、オーナーの久世芳弘氏と最近の道具の話をし、空港の安全チエックに引っかかるかなと思いながら、チタン製ピンセットを購入。ここは、浅草の河童橋には無い小道具が沢山揃っている。

 蛸薬師通りを利用し、隣の寺町通りへ抜ける。こちらは変化の程度が多少緩やかで、少し北上すると、銭湯の<桜湯>、すき焼きの<三嶋亭>も健在であった。9年ぶりだろうか、<京都サンボア>(1918=大正7年創業)に入り、水割りを頼む。年期の入った飴色のカウンター内は、胡麻塩頭のマスター一人だけになっていたが、シングル・モルトウィスキーの壜が棚に所狭しと並び、様々な栓抜きがびっしりと天井を埋める。音楽も無ければ、女性客も来ないストイックな店だ。

 昔はピーナッツの皮を剥いて、床に捨てる習慣だったが、今は止めているとの事。佇まい、そして雰囲気は昔のままでも、少しずつ変化はあるらしい。「開店100年を祝えると良いね」と言うと、無口なマスターは「あと9年ですわ」とこともなげの返事。

 英国国旗をデザインしたコースターに置かれた分厚いタンブラー、その中で輝く透明な氷を廻しながら眺めていた。ふと黒澤明の映画《生きる》(1952)を思い出した。主演の志村喬が、余命少なきことを思いつつ、テーブル席でぼそぼそと唄う<ゴンドラの唄>、それが耳奥に鮮やかに蘇る。


 ここでは、まず小林旭さんの伸びやかな歌声に耳を傾けてみよう。

ゴンドラの唄 小林旭



 この歌を多くの女性歌手も歌っているのだが、やはり ちあきなおみ さんのしっとりした唄い方がとても印象に残る。以前は、YouTube で彼女の歌唱を聞くことが出来たが、現在は削除されてしまった。より淡白に歌いこなしているのは、森昌子 さんだ。

森昌子 ゴンドラの唄 1986  Masako Mori


<ゴンドラの唄>  (1915年=大正4年)

作詞:吉井 勇 
作曲:中山 晋平 

いのち短し 恋せよ乙女
朱き唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを

いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて 彼の舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰れも 来ぬものを

(間奏)

いのち短し 恋せよ乙女
波にただよう 舟のよに
君が柔わ手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを

いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心の炎 消えぬ間に
今日は再び 来ぬものを
 


 前述のように、沢山の歌手がこの曲をカヴァーしている(森繁久弥、加藤登紀子、ペギー葉山など)。それに、評論家の櫻井よしこさんも、 YouTube で歌声をご披露しているのには驚いた。女性が歌う場合は、3番目の歌詞を省略することが多い。

 高名な作曲家・中山晋平は、歌い出し部分が、「ドードドレミ ソミドソ-」 となるハ長調、6/8拍子(♪=60)の歌い易い曲にした。ただ、三連目と四連目が部分的に高音となるから、素人は歌うのに少々苦労するようだが・・・。当時、彼の作曲した「カチューシャの唄」ほどに流行しなかったけれども、作曲後100年を経過してもなお歌い継がれているのは凄いと思う。この曲は、芸術座公演の芝居<その前夜>の挿入歌で、松井須磨子が歌っていたと言う。原作(1860)は、ツルゲーネによる。

 作詞の吉井勇は、大正・昭和時代に活躍した詩人である。父親は日清戦争に参加し、貴族院議員(伯爵)になった謹厳実直な人であるが、吉井は中々の放蕩児である。北原白秋や木下杢太郎と親交があった。

 京都の祇園・白川沿いには、吉井の詠んだ

 かにかくに 祇園はこひし寝(ぬ)るときも 枕のしたを水のながるる

と言う艶めかしい歌碑が建っている。


 水割り2杯、代金2300円を払い、去り難い思いで店を出た。ひょっとしたら、これが最後の<京都サンボア>利用になるのかも知れない。

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