goo

図書館という宇宙@ウィーン国立図書館




ウィーンのホーフブルグ宮殿内にある国立図書館の中心「プランクザール」(18世紀の図書館)は世界で最も美しい図書館の一つに数えられる。

ずっと欲しかった(そして去年ついに買った)、美しい図書館だけを集めた美しい写真集にももちろん掲載されている。


細部にまで気を配り、美麗に飾り立てられているのは当然と言えば当然。
ハプスブルグが、その皇帝権の理念を基礎づけ、正統性と合理性を証明して見せるためなのだから。




ここはハプスブルグが掌握する「世界に対する知」の殿堂であり、ハプスブルグが「支配すべき全世界」の象徴なのである。

館内が4つのセクションに分かたれているのにも理由がある。
「四」は世界を構成する要素、土・水・風(空気)・火の四つの元素の数だ。




ヨーロッパ中世の王侯は、「武力で支配する権力者」という存在から、「支配の正統性を持つ権威ある者」へと自己イメージを転換させていくのに、図書蒐集を役立てた。
「叡智による支配」の第一歩が図書蒐集であり、学芸保護、美術保護と続くからである。

古写本や古代遺物の蒐集は、世界を項目別に分類、体系化、再構成し、百科全書的になり、やがて世界をカタログ化した小宇宙を形成するようになるが、これが博物館の元となる。

王侯らがこういった蒐集をし、分類、再構成しているということは、小宇宙を統御する能力を象徴的に表し、さらに広い世界としての大宇宙にも君臨する能力がある、という意味を持っていた。




まあ想像できないでもない、その気持ち。
ハプスブルグの掌握するこの「全世界」を、なんとかカメラの二次元上に収め、自分のもの、自分の記念、自分の思い出にしようとする観光客の行為も興味深い。


この図書館を訪れた後、美術史美術館にアルチンボルドの『四季』を見に行った。


アルチンボルド『夏』1563年。
「アルチンボルト」はカタカナではタグづけできない(笑)。



アルチンボルドの作品はパレイドイアであり、ゲテモノというか、キワモノ、ウケ狙い、おもしろみ、遊び心...そういうものが前面にある一方、本質としてはモデルになっている当時のハプスブルグ当主マクシミリアン2世が支配する、支配すべき世界の寓意的な暗号像になっている。全然、無邪気じゃない。

彼は四季の支配者であり、季節ごとの自然の支配者、収穫物の支配者であると自己賞賛しつつ、世界支配の正当性を証明している...メガロマニアックだ。

彼が支配しようと欲するのは現実の政治世界ではなく、観念の中での「大宇宙」つまり神が支配する自然世界の完全掌握なのだ。


アルチンボルド『水・冬』1566年



(多くは松宮秀治先生の『ミュージアムの思想』に拠っている。こちらは絶版で、友達に貸し出し中のため、手元に図書館でとったメモしかなく、正しい引用ができていない)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 広告効果、ウ... 祝祭劇場とし... »