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第一突堤の夢




先月の日本滞在中、日が暮れてから水族館を訪れてみた。

神戸の新港、第一突堤に、アトアという水族館を含む施設ができたのである。神戸港ウォーターフロントの大規模再開発の一環だそうだ。

神戸は80年代に最盛期を迎え、バブル崩壊後は何をしてもぱっとしないままだ。
当時の栄華(まさに栄華だった)を知っているわたしは、その時代をいつも19世紀末の居留地の時代と結びつけてしまう。そしてある種のなんともいえない気持ちになる。




すっかり暗くなった空のなか、水族館のチケット売り場にはぼうっと光が灯っていた。
匂いも新しい建物の中に入ると、客はわたしたちだけだった。

水族館の、水槽を照らす独特の光の使い方。
海洋生物のゆったりした動き。
水の匂い。
ひっそりとして、水の音がたまに聞こえる、あのなんともいえない悲しみ。

「水族館 リラックス効果」で検索すると、学術論文もたくさん見つかる。
水族館の展示を眺めていると血圧と心拍数が低下し、自律神経が整うそうだが、あのひどく懐かしく、ひどく寂しい気持ち、あれは何なのだろう。わたしは自律神経が整うと悲しくなるタイプのか(笑)。




それとは別のある日、帰神が遅くなったので、わたしと夫はアトアに付属する、23時まで営業しているという小洒落たフード・コートに食事に行った。

神戸は昔から「朝は遅い」街だが、コロナ禍のせいだろうか、夜も早くなっていて、21時を過ぎたら夕食難民になってしまうのだ...

ラストオーダーよりも1時間は前だったにもかかわらず、連休明けの平日だったせいか、フードコートは眠っているようだった。
中心に設けられたバアの天井にある、みずいろの水槽の中の魚だけが動いている。

夫と2人でもかなりの寂寞感があったのに(まあロマンティックではあったが)、もし、自分1人だけの客だったら、わたしは神戸全体を覆うような「自分は遅れてきた、手遅れ」感に耐えられたであろうか。

「邯鄲の夢」は、栄枯盛衰は夢にすぎない、と教える。


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