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眠れる森の美女2023 オープニング・ナイト



ROHからお借りしました Photo: Andrej Uspenski 2023


わたしがもし「この世で最も美しい人は誰だと思うか」と聞かれたら、即答で「マリアネラ・ヌニュス(Marianela Nunez)」と答えるだろう...


はい、前回は、わたしがもし「この世で最も美しい人は誰だと思うか」と聞かれたら、即答で「マルタ・アルゲリッチ」と答えるだろう...と書きました!

そう書きながら、頭の中にはもう一人、この卓出したバレエダンサーの姿も閃いたのだった。

ご両者ともにアルゼンチン出身である。意味はない。あの抜群の音楽性を国民性かと言いそうになるが、そこは自制。


「完璧」なものに遭遇した時に人間が感じるあの「気持ちがいい」と言うしかないようなあの爽快感よ。
ギリシャの神殿や、雪の結晶や、赤ちゃんの手...
歓喜に満たされ、同時になぜか悲しみさえ誘う...悲しみは「儚さ」に対して感じる悲しみなのだろう。



ロンドンはみなさんのご想像に反して冬もそれほど寒くないのです。年末の日本のほうがずっと寒かったくらい
しかし昨夜は公演終了後、1度まで下がっていた。帰宅したらマイナス3度!!
全てが死んだようになる冬...の次には春の輝く曙(オーロラ)が


それはさておき、ロイヤル・バレエ2023年最初のオープニング・ナイトは『眠れる森の美女』The Sleeping Beautyで。

Marianela Nunezのオーロラ姫は、技術は完璧、音楽性も未聞、16歳の誕生日に喜びに発光し、弾ける無邪気さそのものであり、王子の幻想のシーンでは宙に浮かぶような儚さを、結婚のシーンでは正統性を示す王冠のように堂々と、しかも限りなく優雅であった。

Vadim Muntagirovは、難役『マイヤーリンク』のルドルフを経て、円熟の域に入ったのではないかとすら思った。凛々しく品のある美しさ、「舞台に立っているだけで煌めく王子様」を脱皮して、さらに美しくなったのではないかと思う。


夫が買ってきてくれたピンクの薔薇。オーロラ姫のようだ


16歳の誕生日にオーロラ姫はカラボスの復讐により、死ぬ...いやリラの精に助けられ永遠の眠りにつく。ある日、彼女を愛する王子が現れるまでは...という誰でも知っているであろうあのストーリー。

批評家の中には、ずいぶん前からこのプロットの「古臭さ」が嫌われ続けているものの、わたしはこういうお話は現代社会にすりよった新解釈を加えたり、モダンな背景に変えたりするよりも、永遠に凍りついた教会のステンドグラスや美術館の展示物にように、そのままで後世まで続けるのが吉だと思う。

衣装などに新デザイン施すのには賛成するにしても、である(例えばオーロラ姫が誕生時のスタイルがバロックで、彼女が目覚める100年後のスタイルがロココ、というのがいい)。

人間はなぜこういった「古臭い」「型にはまった」「同じような」話をなぜ語り続けるのか。と考えることにこそ、こういう古典作品の意味があると思う。
すべてを削ぎ落としてもなお残る人間の精神は何か、と。


わたしは、眠れる森の美女の話は端的に、自然のサイクルを意味しているのだと考える。
全てが死ぬ冬のあとの春の訪れを確実なものにするため、祈る人間の可憐さ。

春の誕生は再生の喜びに満たされる。
しかしその陰には、すべてが死んだようになる冷たく厳しい冬がある。

オーロラ姫の誕生は「春の曙」そのものである(名前も「オーロラ」だし)。
しかし彼女の輝かしい成長の影には忍び寄る「死」、つまり冬の陰がつきまとう。
輝ける姫は一旦死ぬ(冬の訪れ)それは世界の終わりではなく、いつかはまた春が巡ってくるのである。春を運ぶ西風の神、ゼピュロスの接吻によって。

ここで思い出されるのがボッティチェリの『プリマベーラ』画面の右側、ブルーグレーの肌をしたゼピュロスに捉えられたニンフのクローリスが、絢爛な春の女神フローラに変身する、あの場面である。


ちょうど一年前、ウフィッツィで撮影した『プリマベーラ』。最も好きな絵の一枚


リラの精は狂言回しで重要な役柄であるから、今回のようにプリンシパルの金子さんをもってきたのは大正解だと思った。

「金子さん、きれー!!!!」と絶叫しそうになりましたよ。
The Lilac Fairy、妖精の女王、美しく強く優しいリラの精、そのもの。




緞幕の紋章、故エリザベス女王のまま。チャールズ3世(<エリザベス女王と違い、バレエファンだそうで、よくお見かけする)に変わるのはいつなのかな...



写真では遠そうに見えるが、オーケストラ・スタルN列目から。N、Mあたりがわたしは好き。
これより前の座席は人の頭で視界が遮られることが多い
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