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平家物語、入門

2022-12-02 11:34:19 | 読書


「平家物語」
私はこの本の、よく言われる(滅びの美学)に、とても惹かれるのです。
我が世の春を、これ以上ないほど謳歌していた平家一門が、
一旦は蹴落とし世間から忘れ去られた存在になったと思われていた源氏一門に、
逆に蹴落とされるどころか、一族郎党、女子供、血の一滴までも根絶やしにされる悲劇。
僅か20年程度の全盛期から、京の都を捨て敗走、西へ西へと落ち行き、
総氏・平清盛が亡くなってから、たった4年で遂に壇ノ浦に滅びゆく憐れさ。
それ以後、生き残った平家血縁を根こそぎ、生かしてはおくものかと、
地の果てまでも追い詰める源氏執念の平家落人狩り。
見つかったが最後、一人残らず皆殺しとなる恐ろしさ。
生きた心地もなく日本全国の奥地へ奥地へと、死に物狂いで逃げ廻る平家の生き残りたち。
(盛者必衰)この言葉を語るに、これほどの物語はあまりないでしょう。
日本全国、数十か所に存在すると言われる(平家落人の里)
大勢の人達が隠れ住んだ所もある一方、
中にはごく僅かの人数で、ひっそりと生きていた人達もいて、
彼等が死に絶えた事により、果たして平家落人部落だったのかの真偽もわからずに、
廃村になってしまった村落も在るのです。



この壮絶な憐れさを人々は、琵琶法師によって後世に伝えました。
文字の読めない多くの平民たちは、彼ら琵琶法師たちの語りから、
源平合戦を知り、平家残党の憐れさを知り、
そのあまりのドラマチックさに涙したのでした。

琵琶演奏 「祇園精舎」 ~伝統音楽デジタルライブラリー


私もそういった琵琶法師の語りを聴きたく、
田原順子さんのミニコンサートに行った事があります。
いつかまた聴きに行きたいと思っています。

さて、この平家物語、いったいどのくらいの本が在るのでしょう。
古典の原文で読んだという人はほぼ居ないと思います。
よくあるのは、上下を半分に仕切って、
上が現代文、下が古典原文といった形式ではないでしょうか。
あまりにも様々な作家が、この本を書いてますので、
どれを読んだらいいか、よく分からないというのが本音だと思います。
そんな中で私が推薦するのがこれです。



著者は、ドキュメント作家として知られる吉村昭氏。
私はドキュメンタリーが大好きなので、この作家の本を何冊も読んでいます。
〇 「羆嵐」   北海道で巨大な羆に7人が喰い殺された。
〇 「高熱隧道」 丹那トンネルの難工事。
〇 「海の史劇」 ロシア、バルチック艦隊との日本海海戦。
〇 「関東大震災」 あの大震災の様子。
〇 「三陸海岸大津波」 明治時代に起きた岩手県の大津波災害。
他にも挙げればきりがありません。

吉村氏は、何を書くにもしても事実を忠実に書く事を心がけているので、
一人っきりで各地、現場を訪れて生き証人から話を訊く様にしています。
とは言っても「平家物語」に生き証人が居る筈もなく、
しかし、私は吉村氏のそういった作風に期待して、
この長い物語(のダイジェスト版)を読んだのです。

平家物語には、話の本質とは無関係の宗教的な部分が多く、
そういった話はカットして書いたそうです。
ただ、本来の作者が書いた物を盗作している様な、後ろめたさを感じるように思えて、
今回限りで現代語訳は二度としないと言っています。
吉村昭という作家のそういった愚直さが、私は好きです。



それと正反対なのが、吉川英治氏。
宮本武蔵という、吉村昭氏とある種共通した愚直な剣豪の物語に、
「お通さん」などという架空の人物をでっち上げ、ありもしない話を作り上げてしまう。
こういった作風は、私は好きになれません。
お願いだから、史実をゆがめて後世の人達を惑わすのはやめて頂きたい、と思うのです。
一旦、吉川英治風な「宮本武蔵」という人物像が伝わってしまうと、
以後、人々はそれが真実だと思い込んでしまうのです。
そういった話を書きたいのであれば、全くの作り話を書けばいいと思うのです。
どうか真実の話で(ウソ話)をこしらえるのは、やめにしてほしかった。

真実というのは、ひとつしかありません。
今更どうにも出来ない真実は、それを忠実に後世に語り伝えて行くべきだと思っています。
平家物語の真実を知る人は誰もいません。
ですが、少しでも(真実はこうだった)と思わせてくれる文体で、私は読みたい。
そういった人に私が薦めるのは、この本です。
更にもっと深く読みたいと思っている人達も、
この本をきっかけにして、本物の世界に辿り着くのも、いいでしょうね。



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