とりあえず。松の葉に急ぎます。おせんが店に入ると、女将さんが飛び出してきて、抱きかかえるようにして、おびえているように言います。
「まあ、おせんさん。よくお聞き。ふくろう先生、いや、あなたの政之輔先生が死なはった、いや違う、殺されはったのどす。お奉行所で」
女将さんの声が、突然、おせんの頭を強く打ちのめします。何を言っているのかさえも分りません。
「そんあんことって嘘でっしゃろ。何言っていやはるの。女将さん。冗談でっしゃろ」
声にならない声が頭を駆け巡ります。
「もう一度会ってから長崎へ立つ、帰ったら連理の枝に必ずなろうと」と、たった十日前に政之輔が力強く言ったその声がまだ耳にはっきりと残っています。
「そんなこと、うそにきまってはります。うそでっしゃろ」
必死に、女将にすがりつくように言います。
女将は、何にも言わないで、目に涙をいっぱい浮かべながら、おせんの頬を両の手でしっかりと包み込むように、顔をゆっくりといやいやをするように、左右に振るのです。そして、両の腕の中におせんを、ただ、なにも言わないで、力いっぱい抱きかかえます。
「どうして」
おせんは震えるように、何かから一目散に逃れるように唇から漏れ出てきます。
それでも、なお、たった今聞いたばかりの、それまで一度たりとも思っても見なかった「政之輔先生が死にはった」と言う女将の言葉が、「冗談よ。うそでおした」と言う何時もの言葉に変わってくれるように、じっと女将の目を見つめていました。
おせんの手を取るようにして
「こちらに来て」と、奥にある女将の部屋に引っ張り込むように、歩くのもままならないように動揺しているおせんを連れて行きます。
「そこに座って、・・・・・・。何がなんだかさっぱり分りしまへんのやけど」
と、話し出します。
昼前、袋医療処から小僧さん風の使い人がきて、
「うちの大先生が、松の葉の女将さんにちょと聞きたいことがおますよって、すぐに来るように呼んできなはれと言っていますさかい、来てくれまへんか」
と、伝える。
何事かと思い、ともかく飛ぶようにして、その小僧さんと一緒に袋医療処に急ぎます。そこで、政之輔の叔父である袋直弥老医師から、次のような話を聞きました。
「まあ、おせんさん。よくお聞き。ふくろう先生、いや、あなたの政之輔先生が死なはった、いや違う、殺されはったのどす。お奉行所で」
女将さんの声が、突然、おせんの頭を強く打ちのめします。何を言っているのかさえも分りません。
「そんあんことって嘘でっしゃろ。何言っていやはるの。女将さん。冗談でっしゃろ」
声にならない声が頭を駆け巡ります。
「もう一度会ってから長崎へ立つ、帰ったら連理の枝に必ずなろうと」と、たった十日前に政之輔が力強く言ったその声がまだ耳にはっきりと残っています。
「そんなこと、うそにきまってはります。うそでっしゃろ」
必死に、女将にすがりつくように言います。
女将は、何にも言わないで、目に涙をいっぱい浮かべながら、おせんの頬を両の手でしっかりと包み込むように、顔をゆっくりといやいやをするように、左右に振るのです。そして、両の腕の中におせんを、ただ、なにも言わないで、力いっぱい抱きかかえます。
「どうして」
おせんは震えるように、何かから一目散に逃れるように唇から漏れ出てきます。
それでも、なお、たった今聞いたばかりの、それまで一度たりとも思っても見なかった「政之輔先生が死にはった」と言う女将の言葉が、「冗談よ。うそでおした」と言う何時もの言葉に変わってくれるように、じっと女将の目を見つめていました。
おせんの手を取るようにして
「こちらに来て」と、奥にある女将の部屋に引っ張り込むように、歩くのもままならないように動揺しているおせんを連れて行きます。
「そこに座って、・・・・・・。何がなんだかさっぱり分りしまへんのやけど」
と、話し出します。
昼前、袋医療処から小僧さん風の使い人がきて、
「うちの大先生が、松の葉の女将さんにちょと聞きたいことがおますよって、すぐに来るように呼んできなはれと言っていますさかい、来てくれまへんか」
と、伝える。
何事かと思い、ともかく飛ぶようにして、その小僧さんと一緒に袋医療処に急ぎます。そこで、政之輔の叔父である袋直弥老医師から、次のような話を聞きました。
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