奇想庵@goo

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感想:『卒業 雪月花殺人ゲーム』

2009年09月24日 21時03分38秒 | 本と雑誌
卒業 (講談社文庫)卒業 (講談社文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:1989-05-08


加賀恭一郎シリーズ第1弾。
仲の良い数名の集団が事件をきっかけに、互いの秘密が明らかになっていくというのはミステリではよくある手法だ。本作もその構図の上に成り立っているので新鮮味は薄い。キャラクターも全般的に典型である。トリックも切れ味に欠け、特にメインとなる茶道の雪月花之式を使った事件は面白みがなかった。

内容はそれほど評価しないが、それでも東野圭吾の文体は癖になる。透明感があり、視点との距離感がちょっと遠めで、一歩引いた印象を受ける。キャラクターの想いは伝わりにくいが、淡々とした描写自体に読み手を惹きつけるものがある。ミステリに適した文体であり、デビュー作の『放課後』から感じ続けているものだ。文体と内容がマッチすれば相当面白いものとなる。既にガリレオシリーズでそれは証明済みだ。
東野圭吾の数少ないシリーズもののひとつなだけに、今後に大いに期待したい。


感想:『彩雲国物語 藍より出でて青』

2009年09月24日 20時41分58秒 | 彩雲国物語
彩雲国物語 藍より出でて青 (角川ビーンズ文庫)彩雲国物語 藍より出でて青 (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2006-03-31


シリーズ10冊目。短編集は2冊目となる。

「王都上陸!龍蓮台風」は国試が済み発表を待つ間の、秀麗、影月、龍蓮の様子を描いている。これまであまりメインでは扱われなかった龍蓮の人物像を明確に描いた作品でもある。「龍蓮」の名を継いだ彼が初めて友と呼べる者たちと出会い、天才の孤独から少しずつ抜け出していく様が巧みに表されている。本筋ではないが、劉輝との会話もなかなか興味深かった。

「初恋成就大奔走!」は克洵と春姫の二人がメイン。でも、天然ボケの春姫のキャラクターに圧倒されて克洵は影が薄い。裏のストーリーとしては縹璃桜の暗躍が描かれている。それを軸にすれば長編として成り立つほどの内容だが、いろいろと伏線だけ仕掛けてあっさりとまとめている。

「心の友へ藍を込めて~龍蓮的州都の歩き方~」は、茶州編のエピローグ的内容。茶州編の主だったキャラが総登場し、まさに大団円といった印象だ。櫂瑜がおいしいところを持っていった感があるが、著者はホント魅力的な年寄りが好きだね。

「夢は現に降りつもり」はわずか7ページの短編。劉輝の募る想いを描く。劉輝の健気さには涙を誘われるほど。完全に、ヒーロー=秀麗、ヒロイン=劉輝の構図が出来上がっている。ヒーローにはちゃんとヒロインの想いを掬い取って欲しいと思うが、さてどうなることやら。

本編を補完する短編集ということで、シリアスさよりも笑いやハートウォーミングな展開がメイン。楽しく読むことが出来る一方で、今後の展開の苛酷な先行きを予感させて胸が痛くなるような思いも残す。それはストーリーテラーとしての確かな腕を示すものだが、最後の最後にはちゃんと笑って読み終えられるようにと願ってしまうのは私だけではない筈だ。


アニメ感想:クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者 第1話「参集!クイーンズブレイド」

2009年09月24日 20時10分21秒 | 2009秋アニメ
2期の開幕。正直、1期はストーリーがグダグダ、演出も陳腐さが目立つ内容で、キャラクターの魅力を生かし切れているとは言い難かった。最後まで見続けたのも惰性によるところが大きい。
2期になったからと言ってそれが改善されるとは思えず、期待はしていない。それでも各キャラクターの顔見せ的なこの第1話はそれなりの出来ではあった。お馬鹿キャラの双璧、光明の天使ナナエルと千変の刺客メローナが展開に起伏をもたらしていたし、他にもボケキャラとして森の番人ノワや鋼鉄姫ユーミルがアクセントとなっていた。それによりシリアスな面が引き立った。

とはいえ、1期同様の陳腐な展開の不安がなくなったわけではない。流浪の戦士レイナとその姉である雷雲の将クローデットとの1期のベタベタな展開はあまりに酷いものだった。2期では逢魔の女王アルドラがストーリーの軸になりそうだが、その出来次第で2期の評価が決まりそうだ。余計なストーリーは排除し、徹底的に見せる演出をしてくれればかなり面白い作品となりそうなのだが、作り手の自己満足によってそれは望み薄のようだ。

TVアニメ「クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者」オープニングテーマ「墜ちない空」TVアニメ「クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者」オープニングテーマ「墜ちない空」
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2009-10-23



感想:『生徒会の二心 碧陽学園生徒会議事録2』

2009年09月23日 19時54分44秒 | 本と雑誌
生徒会の二心 碧陽学園生徒会議事録2 (富士見ファンタジア文庫 166-8 )生徒会の二心 碧陽学園生徒会議事録2 (富士見ファンタジア文庫 166-8 )
価格:¥ 609(税込)
発売日:2008-04-19


生徒会でべらべらと駄弁っているだけという、ゆる~い学園ものライトノベル。空気系をラノベで実現したと言える作品だ。本来ストーリー性が小説の面白さを最も引き出すものであるが、ここまで徹底すればストーリー性皆無でも十分成立している。ただその分中毒性は無く、面白くても一回読めば充分といった感じではある。

10月からTVアニメ化されるが、本当に駄弁っているだけなこの作品をどう映像化するのかはちょっと興味がある。この2巻では、主人公は一歩も生徒会室から出ていない。あとがきによるとその制約にこだわらないということだが、ともかく動きという点に関しては全く皆無と言えるほどだ。アニメは動いてこそという面があるので、動かないことをどう補うのか。会話劇のような『化物語』は映像センスでカバーしている。動かないことを逆手に取ったような演出があれば見てみたいが、ただだらだらと会話しているだけではアニメとしては面白くなさそう。ゲーム・コミック・ラノベなどの話題に対してもどこまでネタとして使えるのかも気になる。


コミックダッシュ!

2009年09月22日 17時37分12秒 | アニメ・コミック・ゲーム
コミックダッシュ!

ホームページのサブタイトルに「漫画(マンガ)、コミックの蔵書管理と新刊発売日のチェックをサポートする総合サイト」とあるように、Amazonのデータを元にコミックの蔵書管理や所有しているシリーズの新刊情報確認をメインとするサイトである。

蔵書管理で特徴的な点は、シリーズという枠組みを利用している点だ。利用者が自由に新規シリーズを構築できるため、場合によっては同一タイトルに複数のシリーズという状況になったりしているが、コミックスの形態を考えるとシリーズ単位での管理は非常に優れている。
作品への評価もシリーズ単位で行うことができ、コメントも書き込める。一方で、個別の一冊に対する「感想ノート」という機能も用意してある。蔵書の登録も簡単。近いジャンルの作品が紹介されたりするのも悪くない感じだ。
Myページでは蔵書登録したシリーズに関して近日発売の作品のリストが表示される。登録したアドレスへメールで知らせる機能もある。最近は追っているシリーズもほとんどないが、かなり便利であることは間違いない。

ここ数年コミックをほとんど読まなくなってしまったため、「読書メーター」ほどの利用はしないだろうが、それだけに発売情報に疎くなった現在かえって価値が高まっているかもしれない。また、いくつか読みたいシリーズもあるので、その参考にも役立ちそうだ。


アニメ感想:『ファイト一発!充電ちゃん!!』

2009年09月21日 19時20分52秒 | 2009夏アニメ
基本はエロなんだけれど、話自体は普通のアニメ以上にまとも。そのギャップが奇妙な作品だった。青年の閃登がぷらぐら女の子たちを無造作にバットで殴りつけることに生理的なショックはあったが、アレスタじゃないが次第に慣れた。さすがに幼女のロナ相手に振るうことはなかったが……。
エロに関しては途中からは劇中アニメ「魔法少女スィーティミリィ」に任せた感じで、お約束的な見せ方・シーンに終始した。下着や裸が出ればエロというわけでもないので、その点では後半はかなり失速したとも言えるだろう。
ストーリーとしても、最初のインパクトに比べると徐々に普通になってしまった感じがしてしまう。演出面で最後まで頑張ってはいたが、後半はひねりの無さが目立つこととなった。それなりにまとまっていたのは間違いないが。

OPが印象に強く残った作品でもある。OP曲『CHARGE!』が印象的だし、キャラクターの羅列型ではあるがOPも作品によく合っていた。2009年のTVアニメでは『夏のあらし!』と並んでつい見入ってしまうオープニングだった。

CHARGE!/お願いSweetheartCHARGE!/お願いSweetheart
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2009-11-18



アニメ感想:『ハヤテのごとく!!』

2009年09月21日 18時59分48秒 | 2009春アニメ
1期はギャグ・パロディベースで作られていたが、スタッフが変更された2期はラブコメベースとなった。原作は未読だがより原作に近いテイストのようだ。
1期は『らき☆すた』と時期がかぶったりで、インパクトには欠ける印象があった。4クールという長丁場で、かなり弾けた回もあり、出来が悪かったというわけではないが。それに比べると2クールとなったこの2期はストーリー的にはうまくまとまった内容ではある。前半はメインヒロインに桂ヒナギクを擁し、1期では出番の少ない(毎回どこかには出ていたが)西沢歩もヒロイン格となって、綾崎ハヤテとの三人の関係が軸となっていた。後半は三千院ナギがメインとなったため、ヒナギクとハヤテが絡むシーンが減り、話の焦点がややぼけてしまった感がある(ナギの話自体はそれなりにまとまってはいたが)。

ラブコメというジャンルについて言えば、特に少年誌でのそれは一種のはしかみたいなものかとも思う。制約が強く、展開は様式化されている。キャラクターの個性などで差別化する以外新しさを提示しにくい。それだけにラブコメから卒業すると、新鮮さを感じられないためもう楽しむことができなくなる。
本作ではギャグやパロディの要素とキャラクターのバリエーションによってある程度緩和されているが、それでもラブコメという展開自体は入り込みにくい要素となっている。その意味では1期の方が好みとも言える。ただ桂ヒナギクがフューチャーされたことで2期の方が好きということになるけれど。

展開的に3期の可能性を強く匂わせている。どういう展開になってもエンターテイメントとしての質を保ってくれれば楽しめる作品となるだろう。キャラクターの多彩さや演出的仕掛けは安心して見ていられるレベルにあるのだから。

ハヤテのごとく!! 2nd season 02 [初回限定版] [Blu-ray]ハヤテのごとく!! 2nd season 02 [初回限定版] [Blu-ray]
価格:¥ 7,140(税込)
発売日:2009-09-18
ハヤテのごとく!! 2nd season 03 [初回限定版] [Blu-ray]ハヤテのごとく!! 2nd season 03 [初回限定版] [Blu-ray]
価格:¥ 7,140(税込)
発売日:2009-10-23



感想:『精霊の守り人』を読んで、改めてTVアニメ版をつまらなく感じた理由を語る

2009年09月20日 22時25分05秒 | 2007春アニメ
精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1996-07


TVアニメ化された時の感想は「感想:なぜ『精霊の守り人』はつまらなかったのか」に記した。それから二年ほど経ちようやく原作を読んだ。
TVアニメのイメージは未だ強く残っている。本書を読む上で、当然そのイメージは強く作用している。ストーリーの根幹はTVアニメと共通であり、エピソードもそこで取り上げられている。TVアニメに対する評価――質は高いが突出したものがなく期待外れでつまらない――に変わりはない。

本書に対する素直な感想は、面白かった、である。和風ファンタジーの世界観、個性的なキャラクター、世界観と強く結び付いたストーリー、主人公の一人チャグムの内面描写も的確だし、もう一人の主人公バルサについては内面描写を抑えつつそれでいて共感できるように描かれている。もちろんTVアニメの美麗な描写に補われている点は否めないが、それがなくとも楽しめないとは思えない作品である。

読み終えて改めて何故TVアニメがつまらなく感じたのか考えてみる。1冊の物語を全26話のTVアニメとするにはオリジナルのエピソードが必要となる。比較的地味な展開を見せ場の多い派手なものとする必要もある。特にラストの見せ場はかなり手が加えられている。それらが失敗だったとは思わない。アニメならではの演出が必要とされるのは当然だ。だが、残念ながらそれによって失われたものもある。
「感想:なぜ『精霊の守り人』はつまらなかったのか」にこう書いた。
キャラクターや設定に強いインパクトがないので、本来演出などでケレン味を出すなどが欲しかったが、淡々とした演出でそれは叶わなかった。こうした演出にはもっと派手な物語が適していたとも言える。地味な設定を地味に演出しても成り立つものもある。心理の細やかな動きを丁寧に描くならそれは成立するが、この作品にはそれはあまり感じられない。そこに日常がほとんどなかったからだ。用心棒バルサは完璧に近い存在だし、守られる少年チャグムは第二皇子である。ファンタジーらしい設定だが、それは日常とは隔絶した世界だ。

26話と間延びした中で描かれたキャラクターの内面は、その都度の心の動きとして描かれていなかった。原作の密度の中で描かれた内面描写を移し変えただけでは心理の細やかな動きなんて望むべくもない。唯一の例外は、バルサとタンダ二人の関係を見てチャグムが自分がいない方がいいと思って出て行こうとしたエピソードくらいだ。
無駄を省いて5、6話程度、多くとも1クール13話でアニメ化していれば違った評価を与えたと思う。少なくとも「つまらない」という評価はなかっただろう。26話として成立させるには、もっと踏み込んだものが欲しかった。わくわくさせるような、面白いと思えるような何かが。
原作でさらっと触れた程度の第一皇子の病死を膨らませたところで、元が作劇上の必要から生まれたエピソードなので作品の深みとならない。バルサやチャグムに直接大きな影響を与えるエピソードを積み重ねていかないと、作品の密度はどんどんと薄まってしまう。残されたものはただ美しいだけの世界。私にとってはただつまらないだけの世界だった。


感想:『容疑者Xの献身』

2009年09月19日 19時36分14秒 | 本と雑誌
容疑者Xの献身容疑者Xの献身
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2005-08-25


シリーズ3冊目にして初の長編。連作短編だった過去2作と比べると、切れ味や軽さといったそれまでのこの作品の魅力は消散している。トリック自体もそれほど印象的というわけではない。しかし、長編ならではなのが、探偵役の湯川に対する石神の存在だ。
湯川に対して天才というイメージは残念ながらこれまで持ってなかった。石神に対しても天才というイメージを持つには至らなかった。それでも十分に印象深いキャラクターとして成立している。石神の内面に共感はできないが理解はできる。むしろそれに対峙した湯川の個性が物足りなく感じられた。

既に刊行されているシリーズ残り2冊はハードカバーということもあり、図書館の予約は1000前後でちょっと手を出せない。文庫化されるのを気長に待つしかなさそうだ。


感想:『空中ブランコ』

2009年09月19日 19時23分05秒 | 奥田英朗
空中ブランコ空中ブランコ
価格:¥ 1,300(税込)
発売日:2004-04-24


奥田英朗の精神科医・伊良部シリーズ2冊目。前作同様連作短編集。

前作『イン・ザ・プール』所収5編のうち最初の4編が比較的普通の人々を主人公としていたのに対して、本作では職業的な問題が前面に出ている。作劇的な理由だろうが、各作品の個性が際立つようになった。

表題作「空中ブランコ」はサーカス団員が主人公。話の本筋は非常にベタであり、読者もすぐに気付くようなオチが用意されているわけだが、それに絡む伊良部が非常に面白い。伊良部の個性と存在感が如実に描かれている。伊良部になろうとしてもなれない。そう育てられない限りは。そんな印象を受けた。

「ハリネズミ」の主人公はヤクザ。そのヤクザを全く恐れない伊良部と看護婦のマユミがとても、らしい。アイディア自体は目新しいものではないが、話の転がし方が上手い。

「義父のヅラ」の主人公は伊良部と大学の同窓の精神科医。伊良部の過去は……当然ながら想像通り。イタズラの面白さはもちろんだが、やはり主人公の義父にして学部長のヅラを巡る展開は楽しい。伊良部はなんの躊躇いも無く「王様は裸だ」と叫べるキャラクター。それに巻き込まれる側は大変迷惑だが、遠くで見ている分にはこれほど楽しいことはない。

「ホットコーナー」の主人公はプロ野球選手。ピッチャーのノーコンならぬ、三塁手の一塁送球ができなくなった男を描く。スローイング・イップスについて述べる下りで、「アメリカに渡った田内」にはニヤリとさせられた。原因がはっきりしすぎている点にはやや不満が残るが、落とし所は悪くない。

「女流作家」はタイトル通り女流作家が主人公。作家のホームグラウンドを扱っているわけだから、他の作品にはない現実感が漂う。その分、伊良部は脇に回り、主人公が怒鳴って発散するためだけに登場するようなもの。おいしいところは、主人公の親友が持っていった。マユミとの最後のやり取りが上手すぎるけれどいいオチだった。

前作との違いは主人公の変化だけではなく、各作品の落とし方にも現れている。『イン・ザ・プール』でも救いのあるいいオチではあったが、それがより徹底された感がある。特に「女流作家」は読後感がいい。もう少しひねったオチがあってもいいとは思うが、これがこの作家の個性とも言えるだろう。各短編の幅の広さを含めて印象深い一冊だった。