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感想:『サンデーとマガジン 創刊と死闘の15年』

2009年09月01日 01時50分38秒 | アニメ・コミック・ゲーム
サンデーとマガジン (光文社新書)サンデーとマガジン (光文社新書)
価格:¥ 945(税込)
発売日:2009-04-17


高度成長期に創刊された「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」の二誌を通して、マンガ史や当時の世相、そして何より編集者たちの熱い仕事振りを描いている。
日本がいまやマンガ大国となっているのも、もちろん手塚治虫を始めとする優れた漫画家がいるからではあるが、それと同時に漫画家たちが発表する場が存在していたからということも忘れてはならない。そして、子供向けの幼稚なものと見なされていたマンガがその対象を徐々に上に引き上げた牽引力となったものがこの二誌に他ならない。

ライバルの二誌だが、小学館と講談社という出版社の差異や、雑誌としての方向性の違いなど分かりやすく紹介されている。また、マンガに対する世間の厳しい見方も、隔世の感があるが、それでも子供たちに読まれるためにあれやこれやと工夫する様が書かれている。
興味深いのは今の少年向け週刊マンガ誌との違いだろう。科学記事を始めとして、ただマンガだけの雑誌ではなく、総合的な要素があった。趣味的な市場開拓という面は、「コロコロコミック」などに引き継がれていった。TVとのタイアップも今とは比べ物にならない影響力があったと思われる。マンガでできることが次々と開拓され、漫画家や編集者たちの熱意がそのまま読み手に伝わるような時代。今から見れば非常にうらやましい時代に見えてしまう。

「週刊少年ジャンプ」の台頭により、これら二誌の時代は潰える。サンデーにもマガジンにも時代を代表する作品は生まれるが、やがてマンガ雑誌は多様化し、ジャンプが600万部という空前絶後の部数を誇った後はそこまでパワーを持った作品も雑誌も現れなくなってしまった。
今は洗練されスマートな作品ばかりになったが、昔は荒々しくとんでもない作品が少なくなかった。今でもマンガ界の辺境ではそういう実験的な作品も描かれてはいると思うが、当時はメジャー誌にこんなものが載っていいのかという有様だったようだ。やはり何かを失ってしまった。それはマンガだけの話ではないが。

週刊少年マンガ雑誌は、マンガ界の中枢と呼べるだろう。最もメジャーで最も苛酷な世界。一方で、マンガ史の視点で見ると、そうした中心から離れた辺境において時にマンガ界に多大な影響を与える異才が見出されるというのも事実だろう。本書で取り上げられている中では、劇画や貸本マンガからの才能の獲得がある。辺境とは異なるが少女マンガ界との影響の及ぼし合いは、その後延々と続くことになる。
マンガ史において、大友以前・以後とまで称される大友克洋は『漫画アクション』デビュー。成人向け出身の山本直樹や、同人誌出身のCLAMPなど、日本のマンガの強みは辺境の広がりとその厚さであることは間違いない。また、マンガ誌としては、スクウェア・エニックスの「少年ガンガン」系、メディアワークスの「電撃大王」など既存のマンガとは異なる流れを汲むものが生まれ、そこから新たな潮流や才能が生まれてきている。
マンガ史に関する書物もそれなりに存在しているが、中央と辺境の両方を隈なく見通したものにはお目にかかったことがない。特に出版点数が膨大になった80年代以降あたりから現代までをしっかり把握したものとなると難しそうではある。本書で取り上げられたものは、マンガとしては古典に類するもので、もう少し身近なマンガ史を読んでみたいのだけれど、誰か書いてくれないかな(笑)。