環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

18年前に創設された「ナチュラル・ステップ」

2007-02-08 11:59:26 | 社会/合意形成/アクター
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このカテゴリー「スウェーデンあの日・あの頃」で紹介するナチュラル・ステップは、あえて今から18年前の資料に基づいて、書いています。スウェーデンの環境問題に対する先進性の一端を知ることができると思うからです。ですから、例えば、現在のナチュラル・ステップの主張である「4つのシステム条件」の表現は少々異なっています。このことは、ナチュラルステップがこの18年間に進化してきた証です。

現在のナチュラル・ステップは大きく進化・発展し、米国や日本にもその支部ができています。ですから、ナチュラル・ステップに関する最新の情報を必要とする方は私の知人、高見幸子さんが代表を務める「ナチュラル・ステップ ジャパン」に直接アクセスしてみてください。

スウェーデンの環境保護団体「ナチュラル・ステップ」はスウェーデンのがん研究者で、医者のカール・ヘンリック・ロベールが1989年に設立した団体です。この団体は若い団体であるにもかかわらず、環境問題の複雑さを無視することなく、その複雑さを正面からとらえ、積極的かつ建設的な活動方式により、設立以来、国際的な注目を集めています。

ナチュラル・ステップ英国が、現在、英国で組織されつつあり、スイス、ノルウェー、ポーランドにもこの活動が広がっています。

この団体は政治や宗教とは関係なく、ストックホルムにある本部の常勤スタッフはわずか6名ですが、スウェーデン国王を公式の後援者とし、大企業、銀行、保険会社、国鉄、教会、労働組合および主な大型小売店などがこの団体の支援メンバーとなっています。

ナチュラル・ステップはこれまでの「直線的な資源浪費型/有害物質拡散型の産業経済システム」を「循環型/省資源型産業経済システム」に移行していくことをめざして活発に活動しています。活動に当たっては、生態学的な原則に基づいた次の4つのチェック・リスト(現在では、4つのシステム条件と呼ばれている)を用いています。活動のキー・ワードは「エコサイクル」です。
   
(1)有限な鉱物資源の利用を減ずる方向にあるか?
(2)分解しにくい合成品や有害物質を減ずる方向にあるか?
(3)自然の多様性およびエコサイクルの容量を確保あるいは増大させる方向にあるか?   
(4)エネルギーおよびその他の資源の消費を減ずる方向にあるか?
 
この団体の活動の焦点は「企業」および「自治体(市町村)」における環境教育に向けられています。およそ50人の著名な科学者の合意を経て作成した環境教育用の教材は、カセット付きの「DET NATURLIGA STEGET」(The Natural Step)と題する39ページのブックレットです。430万部を作成し、1989年春にスウェーデンの「全家庭」および「学校」に無料で配布しました。



配布の目的はマス・メディアの環境に対する混乱させるような過剰な情報を論理的で首尾一貫した状態に徐々に変えて行こうとする試みでした。

このブックレットはストックホルムのカロリンスカ病院のがん研究者が企画し、団体の支援メンバーである労働組合(LOおよびTCO)や銀行(PKBANKEN)、保険会社(FOLKSAM)、国鉄(SJ)、生活協同組合(KF)、教会(SVENSKA KYRKAN)、がん基金、金属協会、ライオンズ・クラブがスポンサーとなって民間の会社が作成したものです。

地球温暖化のほか、環境の酸性化、砂漠化、熱帯雨林の伐採、原発、自動車の排ガスなど幅広く易しく環境問題を系統的に説いています。ブックレットは次のように述べています。
   
私たちは自然の法則をさらに良く知るために私達の態度を改めなければなりません。私たちが生産と消費を通して乏しい資源をゴミに変え続けるかぎり、環境汚染問題はさらに深刻化し、私たちは貧しくなっていくでしょう。環境破壊を止めるためには次のような行動が必要です。
       
★明確な科学的証拠がなくても環境保護に有利に働くような法律を制定できるようにします。          
★環境保護は経費がかかるという神話を打ち消します。私たちがそれを無視し続け、被害が出てから対策を取ることは、結局、莫大な経費がかかることになります。
★自然に有害な合成化学物質の使用をやめます。
★道路交通を規制し、耕作地の無秩序な開拓をやめます。
★一市民のできることとして、自然由来の製品の使用につとめ、エネルギーを節約し、環境保護団体を支援します。       

私は、昨日のブログで紹介した「オゾン層保護」のためのブックレットの作成・配布の方法、今日のブログで紹介している「ナチュラル・ステップ」の考え方・資料の作成・資料の配付の方法、それに基づく合意形成の手法がいかにも、スウェーデン的なアプローチだと思います。

18年前の早い時期に、「環境問題」という地球規模の大問題に対して、社会を構成している様々な組織(労働組合、銀行、保険会社、国鉄、生協、協会、がん基金、金属協会およびライオンズ・クラブ)が協力して、国民に「わかりやすい最善の科学的情報」を提供し、同時に、スウェーデン国民の合意形成の議論のためにつくられた「最新の科学的知識」を、国際社会に提供する試みは「小さな国の大きな試み」だと思います。