環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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緑の福祉国家15 「気候変動」への対応 ④ 

2007-01-26 19:09:39 | 市民連続講座:緑の福祉国家


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4.気候変動防止政策の概要
97年12月の京都議定書の締結以降、様々な議論がなされ、行動計画がつくられました。次の図は2000年当時の日本とスウェーデンの気候変動防止(地球温暖化防止)政策の要点をまとめたものです。両国の間に大きな落差があることがご理解いただけるでしょう。


スウェーデンには、国内のCO2を削減するために原発はもちろん、CO2吸収源としての森林(植物がCO2を吸収して酸素をつくりだす光合成の効果)への期待はありません。排出量取引(与えられたCO2排出枠より実際の排出量の多い国が、排出枠より排出量の少ない国から、排出権を買い取る、といった、国同士の取引。COP3で採択された)への期待もほとんどありません。

「CO2の削減は化石燃料の消費を削減する以外に有効な方法はない」という確固たる考えが、「国のコンセンサス」になっているからです。

●二酸化炭素税(CO2税)
スウェーデンでは、91年1月1日からCO2税が導入され、その後、税率に修正が加えられました。環境保護庁の報告書によれば、87年と94年のCO2排出量を比較すると民生・産業部門全体で約19%の減少がみられ、特に地域暖房において「化石燃料」から「バイオマス燃料」への転換が大きく進みました。CO2税の効果によるものは約60%と評価され、残りの40%はエネルギー利用の効率化と地域暖房の集約化によってもたらされた言われています。

一方、世界第4位のCO2排出国である日本は、「IPCCの評価報告に示された温室効果ガスの大幅削減の必要性や原子力に対する評価」、さらには「実用規模のCO2排出削減技術がないこと」を理解しているはずですが、CO2税の導入には消極的です。
 
●原発に対する期待
原発に対する期待はスウェーデンと日本では正反対です。スウェーデンでは電力の50%を原子力でまかない、人口1人あたりの原子力依存度が世界一であるスウェーデンは。1980年3月の国民投票の結果を踏まえて、同年6月の国会決議で「当時稼働中および建設中であった原発計12基を2010年までに全廃する」ことを決めました。

バルセベック原発1号機は、「97年2月4日の政府の決定」では、98年6月末までに廃棄のために運転を停止し、同原発2号機も2001年7月1日以前に停止される予定でしたが、この2基の原発を所有する電力会社が最高行政裁判所に提訴した不服申し立てに対して、同裁判所の最終的な決定が出されていないので、政府の決定の実施が延期されていました。

その後、紆余曲折がありましたが、バルセベック原発の1号機は99年11月30日に、同2号機は2005年5月30日にそれぞれ廃棄のために停止されました。

一方、日本は、温暖化防止対策として、2006年11月現在、稼働中の55基に加えて、さらなる原発の増設を考えています。

●省エネルギー
省エネは最も有効な温暖化防止対策です。スウェーデンの省エネ判断基準は「最終エネルギー消費量の抑制」ですが、日本の省エネ判断基準は「エネルギー消費原単位の向上」です。

省エネ判断基準の相違により、スウェーデンの最終エネルギー消費量は1970年の457TWhから95年の390TWhまで、漸次減少しているのに対し、日本では同期間中、2112兆kcalから3588兆kcalまで、漸次増加しています。このことは、スウェーデンが70年から95年にかけてCO2を漸次削減してきたのに対し、日本は着実にCO2を増加させてきたのです。

●再生可能エネルギー
一次エネルギーに占めるスウェーデンの「水力を含めた再生可能エネルギーの割合」は現在、およそ30%であるのに対し、日本はおよそ5%程度です。

●アイドリング・ストップ
第1回国連環境会議を取材した72年6月5日付けの日本経済新聞は、スウェーデンで当時(今から34年前)すでに、「交差点でのアイドリング・ストップ(禁止)」の規制が導入されていたことを報じています。

日本では、96年6月から当時の環境庁が「アイドリング・ストップ運動」を始めました。
97年3月25日付けの朝日新聞によれば、神奈川県公害防止条例の見直しを進めていた神奈川県環境審議会は全国で初めて駐車中のアイドリング停止を求める条文を盛り込んだ同条例改正案を知事に答申したそうです。

●森林
日本と違って、スウェーデンでは森林の吸収に大きな期待をしていません。スウェーデンおよび日本の森林の被覆面積は60%を超えています。スウェーデンでは70年代後半から、単一林に比べて生産性が低く、コスト高であるにもかかわらず、林業関係者、民間、政府の合意のもとに、多様性のある森林づくりが実践されてきました。
 

私の環境論16 環境問題への対応、輸入概念でよいのか!

2007-01-26 17:05:23 | 市民連続講座:環境問題

  
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これまでに述べてきた、「21世紀も人間は動物である」、「環境問題の根本的な原因は経済活動にある」、「経済成長はエネルギー・資源の消費を抑えて達成されなければならない」、「日本経済が制約される地理的・社会的条件がある」など、これらの点は、私が考える「環境問題について、私たちが共通に持つべき認識」です。けれども、残念ながら、この認識は日本ではまだ十分には共有されていません。

次の図は「環境問題の原因・現象・結果」を示したもので、私の環境問題に対する基本認識を十分裏づけてくれるものです。この図は「平成13年版環境白書」に掲載されているもので、図の原題は「問題群としての地球環境問題」となっています。しかし、日本の政府はこのような真っ当な認識を示しつつも、実際に政府が行っている「環境問題に対する対応策」や「法体系」はそのような認識には裏付けられてはいません。  



前にもふれたように、日本の環境問題に対する取り組みは、「環境問題の原因」(経済成長を求める経済活動の拡大)への直接の取り組みではなく「表面化した現象面」(地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、森林伐採、砂漠化、海洋汚染、廃棄物など)への個別の取り組みとなっています。これらの環境問題は並行して発生し、しかも同時進行しているにもかかわらず、です。

さらに、90年代初頭から環境問題に対して新たに、次のような対応や概念が導入されています。

これらはいずれも国際社会でつくられた「輸入概念」で、日本は概念づくりにまったくといってよいほど参加していません。「持続可能な開発」という概念に至っては、日本はその概念の「きっかけ」をつくるときに大きな役割を果たしたのに、肝心の概念形成にはほとんどかかわっていません。しかも、これらの輸入概念は日本に導入されるとき、これまでの日本の法体系との整合性を持たせるために、もとの概念の変質(通常は劣化)を余儀なくされます。 

上の図の赤で示した概念
(持続可能な開発/社会、経済的手段、環境税、EPR、REACH、RoHS指令など)はスウェーデン発、あるいはスウェーデンが他国に先駆けて実施した概念です。 

私たちが理解しなければならないことは、これらの輸入概念は、20世紀の「持続不可能な社会」を21世紀の「持続可能な社会」に転換させるための重要なツール(道具)だということです。
 
世界第2位の経済規模を誇る日本が、環境問題に対する独自の対応策を国際社会に発信することができなくて、どうして日本が「環境立国」として世界に貢献できるといえるのでしょうか?


スウェーデン企業の環境意識 ボルボ

2007-01-26 10:40:23 | 環境問題総論/経済的手法
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今日の「日本 あの日・あの頃」は、スウェーデンの自動車メーカー・ボルボの日本社会における一連のパフォーマンスの一端を取り上げます。

1989年に、ボルボは次のような「環境政策声明」を発表しました。

90年2月28日、当時の通産省(現在の経産省)の地球産業文化研究所が、東京で「地球環境の改善と経済成長の同時達成をめざして」と題するパネル討論会を催しました。


ここに、「予防志向の国」と「治療志向の国」の考え方の違いがはっきりとあらわれています。また、企業経営者と科学者の協力の必要性も明らかにされています。なお、このシンポジウムの模様は、1990年3月に、「テレビ・シンポジウム 技術は地球を救えるか」と題してNHK教育テレビで放映されました。 

そしてボルボは、2ヶ月後の90年5月17日付の日本経済新聞に、「私たちの製品は、公害と、騒音、廃棄物を生み出しています」というキャッチ・コピーで「全面広告」を打ったのです。この広告は第1回日経環境広告賞を受賞し、日本の環境広告に大きな一石を投じました。

左の一面広告の小さな判読不明の個所を拡大したのが右の図です。その1行目に、「現状で最もすぐれた、三元触媒を使った自動車用排気ガス浄化システムを世界で初めて市販車に採用したのはボルボでした」と書かれています。ここでいう「自動車用排気ガス浄化システム」とは、現在の日本のガソリン乗用車に標準装備されている排気ガス浄化システムのことです。

2005年10月、ボルボ・カーズ・ジャパンは、第54回日経広告賞で2度目の最優秀賞を受賞しました。審査委員長は「安全性など商品の機能面だけでなく人生観や生活提案という側面までを訴求し、ブランド広告として高い次元でまとまっている」と評価したと、日本経済新聞は報じています。

ボルボの環境広告も環境広告の審査基準も共に、時代の流れを背景に大きく進化していることが伺われます。

ボルボの環境広告は日本の自動車メーカーに衝撃を与え、日本の自動車メーカーの広告内容を一変させたのです。