私のプロフィールや主張、著書、連絡先などは、ここをクリック
持続可能な緑と福祉の国「日本」をつくる会のブログ(仮称)は、ここをクリック
87年4月に、国連の「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」が「持続可能な開発(Sustainable Development)」の概念を国際的に広める先駆けとなった報告書「われら共有の未来」(通称ブルントラント報告)を公表してから、今年(2007年)で20年が経ちます。スウェーデンは、この国際的な概念を国の政策にまで高めた数少ない国の一つで、その実現に具体的な一歩を踏み出した世界初の国といえるでしょう。
20世紀の「福祉国家」(旧スウェーデン・モデル)で強調された「自由」、「平等」、「機会均等」、「平和」、「安全」、「安心感」、「連帯感・協同」および「公正」など8つの主導価値は、21世紀の「緑の福祉国家」(新スウェーデン・モデル)においても引き継がれるべき重要な価値観です。
20世紀の「福祉国家」と21世紀の「緑の福祉国家」
しかし、20世紀の福祉国家は「人間を大切にする社会」でしたが、かならずしも「環境を大切にする社会」ではありませんでした。このことは、昨日紹介した国際自然保護連合(IUCN)の「国家の持続可能性ランキング」の評価にもあらわれています。スウェーデンは世界180カ国の1位にランクされていますが、現時点では「持続可能性あり」とは判断されていません。
21世紀の持続可能な社会は「人間と環境の両方を大切にする社会」です。スウェーデン政府の90年代の政策や公式文書の英文版にはEcologically Sustainable Society(エコロジカルに持続可能な社会)という表現が好んで用いられています。国連などの報告書で使われるのはSustainable Society(持続可能な社会)という言葉ですから、“エコロジカルに持続可能な”という表現には、スウェーデン独自の主張が込められているように感じます。
なお、この市民講座では混乱を避けるために、「エコロジカルに持続可能な社会」を意図的に「緑の福祉国家」と表現しています。90年代のEcologically Sustainable Society(エコロジカルに持続可能な社会)に代わって、2005年夏頃から、政府の持続可能な開発省(2007年1月1日に「環境省」と改名)のホームページのトップに「green welfare state(緑の福祉国家)」という表現を見かけるようになったからです。
「緑の福祉国家」の三つの側面
スウェーデンが考える「緑の福祉国家」には、
①社会的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
②経済的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
③環境的側面(環境を大切にする社会であるための必要条件)
の三つの側面があります。スウェーデンは福祉国家を実現したことによって、これら三つの側面のうち、「人間を大切にする社会であるための必要条件」つまり「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。
社会的側面では、21世紀前半社会を意識して、90年代に99年の「年金制度改革」(従来の「給付建て賦課方式」から「拠出建て賦課方式」への転換)をはじめとするさまざま社会制度の変革が行なわれました。
経済的側面では、図のように、70年以降、「エネルギー成長(エネルギー消費)」を抑えて経済成長(GDPの成長)を達成してきました。
環境的側面とは、「生態学的に持続可能かどうか」ですが、この点では、スウェーデンもまだ十分ではありません。20世紀後半に表面化した環境問題が、福祉国家の持続性を阻むからです。
そこで、21世紀前半のビジョンである「緑の福祉国家の実現」には、環境的側面に政治的力点が置かれることになります。