環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

私の環境論6 「人間第一主義」はいけないのだろうか?

2007-01-16 19:07:25 | 市民連続講座:環境問題

 
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環境問題に対する知識が増えるにしたがって、私たちが直面している環境問題が人間活動に起因することが明らかになってきました。そこからの深い反省なのか、「共生」という心地よい響きの言葉の浸透とともに、「人間中心主義あるいは人間優先主義を否定し、他の生物の生存や権利を大幅に認める」という趣旨の考えが出てきました。

私は「人間中心主義」や「人間優先主義」を否定することには抵抗があります。人間第一主義でよいのではないでしょうか。人間を忘れた、あるいは人間を否定した環境問題の議論はあり得ないというのが私の主張です。

私も多くの人と同じように、現在の環境問題の原因は、明らかに近代の科学技術文明に基礎を置く近代合理主義の広がりであると思っていますが、近代合理主義そのものが誤っていたというのではなく、合理主義が社会に広く共有されたほどには、「生態学的な知識」がゆきわたらなかったことが問題なのだと思います。
 

現在は生態学的な知識が少しずつ増えてはいますが、日本ではその知識がほとんど生かされてこなかったのではないでしょうか。1950年代に入ると、スウェーデンで環境問題の重要性が認識されはじめ、日本では公害が顕在化してきました。過去40年間に公害・環境分野で活躍してきた専門家の役割を両国で比較してみると、つぎのようになるというのが私の観察です。


スウェーデン    日本
①科学者      医者
②技術者(工学者) 技術者(工学者)
③医者       科学者

ここで象徴的なのは、両国で活躍してきた専門家の順序が逆になっていることです。このことはスウェーデンが環境保護のために努力してきたのに対し、日本は公害および公害病の対応のために努力し、多額の投資をしてきたということです。


日本で公害の現象に最初に気づき、問題を提起したのが治療の現場で働く医者でした。医者が公害の原因を突きとめ、技術者(工学者)が工学的な公害防止対策を行なってきたというわけです。これに対して、スウェーデンでは科学者が環境の変化に警告を発し、技術者(工学者)が工学的な防止対策をとってきたのです。
 

最初に医者が問題提起するということは環境汚染がもう人間に達しており、「治療」の状態にあることを意味します。スウェーデンでは、人間にまで環境汚染が達する前に「予防対策」をとるということなのです。

私は、 1月5日のブログで、スウェーデンを「予防志向の国」日本を「治療志向の国」であると書きましたが、このことは環境問題に対するこれまでの対応の仕方を見れば明らかでしょう。

緑の福祉国家6 21世紀へ移る準備をした「90年代」③

2007-01-16 12:12:54 | 市民連続講座:緑の福祉国家


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★閣僚環境委員会の設置(97年1月)
記者会見で首相は、「各世代が希望に満ちた大プロジェクトを持つべきだ。それぞれの世代にビジョンが必要だ。私たちの前の世代のビジョンは、貧しかったスウェーデンを『福祉国家』にすることだった。いまの私たちのビジョンは、スウェーデンを『緑の福祉国家』に変えることだ。この仕事は若い閣僚が目標を立て、プロジェクト推進の原動力になるのが自然だ」と述べ、若い閣僚に政府の主導権を委ね、「閣僚環境委員会」を設置しました。  

閣僚環境委員会は、委員長に環境大臣、委員は教育大臣、労働副大臣、農業大臣、財務副大臣の5人からなります。

委員会のメンバーの性別や年齢の若さにも驚かされますが、委員会を構成する閣僚が環境、教育、労働、農業、財務の閣僚であることに注目したいと思います。環境問題に対する首相の認識と位置づけが、委員会構成にもはっきりとあらわれているといえるでしょう。

この委員会の任務は、「持続可能なスウェーデン」を実現しようとする政府のすべての政策の土台となる、包括的な政策プログラムを97年末までにつくり、98年からそれをスタートさせることでした。97年秋から98年春にかけて、エネルギー、交通、地域交通、地域開発、雇用、消費、住宅、農業、建設・設計などの各分野で、持続可能な開発の達成に必要な政策プログラムがつぎつぎに打ち出されました。

★「環境の質に関する15の政策目標」(98年4月) 
このビジョンを実現するために、政府は88年と91年の環境政策で定めた「環境の質に関する170の政策目標」を約1年かけて精査し、「環境の質に関する15の政策目標案」にまとめ、国会に上程しました。98年4月28日の国会で、この政策目標案は承認され、政府の正式な政策目標となりました。これが、今後の「緑の福祉国家」の環境的側面の行動指針となります。

「環境の質に関する15の政策目標(EQOs Environmental Quality Objectives)」は次のとおりです。

政府は98年の「環境の質に関する15の政策目標」の多くに中間目標を定め、国会に上程しました。国会は2001年11月にこれを承認しました。2003年8月、政府の指示に従って環境保護庁は16番目の政策目標として「生物多様性」を政府に提案しました。2005年11月、国会はこれを承認しました

したがって、上の図の「環境の質に関する15の政策目標」に2005年11月から「生物多様性」が加わり、2007年1月1日現在で「環境の質に関する16の政策目標」が策定されたことになります。それぞれの政策目標に対して、「環境の質」、「達成時期」、「担当行政機関」が具体的に決められています。最終目標年次は2020~25年です。

★「緑の福祉国家」の国家像を示した施政方針演説(99年9月)

それでは、「緑の福祉国家」とは具体的にどのような国家像なのでしょうか。99年9月14日の首相の施政方針演説から、その概要を知ることができます。

ペーション首相は「スウェーデンは生態学的にバランスのとれた国家でなければならない。スウェーデンの環境政策は、これまでにない最もラジカルな再構築を経験した。それが99年1月施行の環境法典の成立であった」と語り、つぎのような国家像を示しました。

①福祉国家としてのリーディングな地位を強化する国家。
②ノウハウおよび専門技術についてリーディングな国家。
③IT(情報技術)のリーディングな国家。
④多様性に富んだ国家。
⑤国民の労働と事業に基づいた成長と繁栄の国家。この三年間で、スウェーデン国内に10万の新会社が設立された。これらの企業は新しい雇用を生み出し、繁栄を推し進め、競争と創造性を刺激している。この展開は、税制の戦略的変革によってさらに強化されるであろう。
⑥「開発」および「平等」に基づいたヨーロッパを保障するために、活発に貢献する国家。
⑦国民が他人のなかに自己の存在を見出すことができる力を秘めた国家。