環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

東日本大震災:放射能 漏出防止に数ヶ月(朝日新聞 朝刊)、  地域別に出荷制限へ(朝日新聞 夕刊)

2011-04-04 09:03:31 | 自然災害
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                              第6章の目次


2015年の環境に適合するエネルギー体系

 スウェーデンでは、過去20年間、総エネルギーの供給量および需要量がほとんど伸びていないという実績がありますが、それでは、2010年に予定どおり原発が廃棄されたとして、その後のエネルギー体系はどのようなものになるのでしょうか?

 その一つのシナリオとして、1990年秋に設定されたチェック・ポイントのために政府の指示により、エネルギー庁と環境保護庁が共同で作成した「環境に適合するエネルギー体系のシナリオ:スウェーデン 2015」と題する報告書があります。ここで、このシナリオを簡単に紹介しておきましょう。

 このシナリオの大前提は、いずれの場合でも、「原子力は全廃、水力は、今後、新規拡張しない」というものです。「基本代替システム」とは環境への配慮にはやや欠けるが、とにかく原発をなくすことを主眼においたシナリオです。これに対して「環境シナリオ」というのがあります。これは原発をなくすと同時に環境に十分配慮したシナリオです。この2とおりの基本的なシナリオに対して、それぞれ経済成長率が高い場合(基本代替システムのGDPの成長率:2.4%、環境シナリオのGDPの成長率:2.3%)と低い場合(いずれの場合もGDPの成長率:1.1%)の2とおりのシナリオがありますので、シナリオは全部で4とおりということになります。


電力需給の収支 

 表13を見てください。1987年の実績に対して、2015年の電力需給の収支をそれぞれのシナリオで外観してみましょう。原子力は2010年までに全廃するということになっていますので、いずれのシナリオでもゼロです。水力はこれ以上新規拡張しないことになっていますので、いずれのシナリオでも66TWhという数字が与えられています。

 
 1987年の水力が71TWhなのに、4とおりのシナリオでは66TWhになっています。この理由は、たまたま、1987年は平年に比べて雨や雪の降水量が多かったということす。平年の降水量は66TWhという実績に基づくものです。

 化石燃料についてみると、「基本代替システム」、すなわち、環境への配慮をやや欠いても脱原発を優先するというシナリオでは、石炭火力は経済成長率が高いシナリオでは60TWhという数字が与えられています。天然ガスを用いた複合発電についても、それぞれ数字が与えられています。ところが、「環境シナリオ」では石炭火力と天然ガス複合発電はゼロとなっています。

 その代わり、何が増えているのかといいますと、一つは風力発電等です。1987年の風力の実績はありませんが、「環境シナリオ」の経済成長率が高い場合のシナリオでは、2015年に23TWhという数字が与えられています。もう一つは「産業背圧発電」、「背圧コ・ジェネレーション」と呼ばれる技術が相当量導入されていることです。これらの技術は既存の技術ですから、今後、意識的に改良を加え、利用していけばこの程度の電力量は賄えるという計算に基づくものです。

 ここで注目すべきことは新たな電源として期待されているものは燃焼を伴わないものあるいは燃焼を伴うものでも環境への負荷が比較的少ないものであることです。産業背圧発電や背圧コ・ジェネレーションと呼ばれる技術は電力多消費産業である紙・パルプ産業、化学工業、鉄鋼業などの産業で用いられている既存の技術で、わが国でも電気事業用ではなく、産業用として上記の電力多消費産業では古くから用いられている技術です。

 このことは、先にも述べましたように、将来のエネルギー・システムは従来の集中型エネルギー供給システムからローカル・エネルギー主体の分散型エネルギー供給システム、すなわち、消費地に密着した分散型エネルギー供給システムへの転換を計ろうとするものであることが理解できるでしょう。

 ここで、もう一つ注目して欲しいことは1987年の総発電電力量(141TWh)が2015年の「環境シナリオ」の経済成長率の高いシナリオでも140TWh、低いシナリオにいたっては104TWhとなっており、今後25年間の供給すべき総発電電力量が増えないように読み取れることです。 


総エネルギー需給の収支 

 これら4とおりのシナリオでは、電力需給の収支だけでなく、総エネルギー需給の収支についても同様の試算があります(表14)。1987年の実績では総エネルギーの供給量は456TWhとなっていますが、「環境シナリオ」の経済成長率が低いシナリオでは442TWhという数字が与えられています。


 ですから、このシナリオをとれば、総エネルギー供給量は、今後、25年間増えないことになります。つまり、このことは過去にさかのぼって1970年から約45年間ほとんど総エネルギー供給量が増えないことを示唆しています。特に環境保護の観点から考えると、総エネルギーの供給量が増えないようなエネルギー体系は環境への負荷を増大しないために望ましいエネルギー体系といえます。

 また、これらのシナリオをもとにして二酸化炭素の排出量も試算されていますし、その他にも、それぞれのシナリオにしたがって、2015年の電力料金、地域暖房料金、燃料価格、工業生産指数など興味深い試算が行われています。以上がスウェーデンのエネルギー庁と環境保護庁が共同で政府に提案した「環境に適合するエネルギー体系のシナリオ:スウェーデン2015」の概要の要約です。








東日本大震災:亀裂から海へ汚染水(朝日新聞 朝刊)、  (朝日新聞 夕刊)

2011-04-03 09:33:19 | 自然災害
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                              第6章の目次


3 エネルギー需給の現状と将来

 私たちは通常、北欧諸国のエネルギー事情はどの国も大差がないというようなイメージを漠然と持っているのではないでしょうか? デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランドの北欧5か国のエネルギー事情は表12のように相当違います。


 北欧5か国の中で、エネルギーの点で最も恵まれているのはノルウェーで、水力、天然ガス、石油があります。逆に、デンマークはエネルギー資源に乏しく、相当量の風力を除けば何もないといっていい状況です。スウェーデンは化石燃料に乏しく、水力と原子力が中心です。

 このように一口に北欧諸国とはいっても、エネルギー事情が違いますから、エネルギーに対する考え方も異なり、エネルギー政策も違ってきます。北欧5か国の中で原子力エネルギーを利用しているのはスウェーデンとフィンランドの2か国だけです。

 スウェーデンは2010年を最終目標年度とする原発の段階的廃棄を含むエネルギー体系の修正を模索しています。この節では先ず、スウェーデンのエネルギー需給の現状を概観し、そのあと、将来のエネルギー体系のシナリオを紹介しましょう。


過去20年間変化のない総エネルギーの需給量

 スウェーデンの総エネルギーの需給量で注目したいのは1970年から1989年までのおよそ20年間、供給量がほとんど変化していないという事実です(図25)。この点は、将来のスウェーデンのエネルギー政策を考える上で記憶にとどめておいてほしいところです。


 図26は1970年から1987年までの総発電電力量の実績と1997年までの予測です。すでに述べたように、スウェーデンの現在の電力構成は水力が50%強、原子力が45%、火力が残り数%となっています。総エネルギー量を表す単位はわが国では化石燃料の占める割合が多いので、通常、重油換算で表示していますので、キロ・リットル(Kl)という単位が用いられますが、スウェーデンのエネルギー関連の統計資料は電気換算で表示されていますので、テラ・ワット時(TWh)が用いられています。


 需要サイドから見ても、この20年間、総エネルギーの需要量は増えていません。ただ、電力の需要については注目する必要があります。電気エネルギーの中で、民生用の電力を見ると、電気による暖房の割合が大きいことがわかります(図27)。


この暖房用の熱源を他の熱源に代えようとする試みがあります。そうすることによって、発電すべき総発電電力量をある程度減らすことが可能だと考えられるからです。









東日本大震災:首相が被災地再生構想(朝日新聞 朝刊)、  電力制限令 今夏発動へ(朝日新聞 夕刊)

2011-04-02 07:04:55 | 自然災害
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                              第6章の目次


素人の素朴な疑問

その1 

1990年12月23日に発表されたわが国の総理府の「原子力に関する世論調査』」によれば、調査対象の90%が原発に不安を感じるが64.5%は原発の必要性を感じているそうです。一方、スウェーデンの世論調査では、自国の原発に不安を感じるのは常に調査対象の30~40%程度で、1980年の国民投票でも投票者の60%弱が12基までとの上限があるものの原発容認に票を投じていました。

 2010年における原発を発電容量で「現在の2倍以上(110万Kw級原子炉で40基分相当)」にするという目標を1960年6月に設定したわが国と、2010年には原発を「ゼロにする」という目標を10年前に掲げてさまざまな試みを行ってきたスウェーデンとの間に原発に対する考え方の大きな相違があるのはなぜなのでしょうか?

その2 

 わが国の原子力関係者の一部には、スウェーデンはそのエネルギー政策で“苦悩あるいは迷走”しているという表現を好む向きがあります。私にいわせれば、順調に稼働し、しかも自国の原発技術に対して政府や国民がかなりの信頼を寄せている原発を廃棄し、しかも自然破壊の原因となる水力発電のこれ以上の拡張を禁止し、さらに、環境の酸性化の原因とされる化石燃料の使用に厳しい規制を要求する国民各層の意見を反映して策定された国のエネルギー政策を、そのような判断基準を持たない国の視点で現象面だけを見れば、「苦悩しているように見える」のは当然でしょう。

   ①もし原発が環境に対してクリーンであるならば、20年以上も硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)に起因するとされる『環境の酸性化に悩
    み、 

    しかも

   ②二酸化炭素(CO2)の排出にも最も厳しい姿勢を示しているスウェーデンが順調に稼働し、信頼されている原発を“苦悩あるいは迷走”しながら
    も廃棄しようとするのはなぜなのでしょうか?

その3  

 200年を超えるという情報公開制度の歴史を持つスウェーデンで、国際的に見ても
 
   ①最大限の安全対策、
   ②最大限の廃棄物対策、
   ③徹底した原発労働者の放射線被ばく防護対策、
   ④原発の安定した順調な稼働実績、
   ⑤徹底した原発施設の一般公開
   ⑥原発情報の積極的な公開と提供

などに加えて、十分なPR活動を続けてきたにもかかわらず、1989年4月に東京で開かれた日本原子力産業会議の第22回年次大会で、スウェーデン原子力産業会議の会長に「スウェーデンでは原発のPAが得られなかった」と言わせしめたのはなぜなのでしょうか?

その4

 わが国の高校社会科の教科書における原発の扱いにも問題があります。この件を報じた1990年7月1日付けの朝日新聞の記事から抜粋した表11をご覧ください。私は「原稿本」の表記が正しく、文部省の指示にしたがって修正した「見本本」は誤りであり、この修正は改悪であると思います。疑問に思う方はわが国の原子力委員会が編集している『原子力白書(平成元年版)』の13~14ページのスウェーデンの項を参照してください。原子力白書はかなり正確にスウェーデンの状況を記述しています。



 仮に、この記事の「見本本」の表記が正しいとすれば、スウェーデンのエネルギー政策の行方に一喜一憂(?)することもなければ何組もの調査団をわざわざスウェーデンまで送り、類似の関心事項を繰り返し調査するような無駄は必要ないと思いますがいかがでしょうか? 

その5 

 皮肉なことに、スウェーデンの原子力技術の水準の高さを最もよく知っているのはわが国では、原子力の専門家の方々です。原子力エネルギーが環境に対してクリーンかどうかは、1991年8月12日の朝日新聞の記事「原子力への課税提案へ」という記事や業界誌の週刊『エネルギーと環境』の1991年7月11日号の「原発もCO2 課税の対象に、波紋投げる」という記事をみれば、明らかでしょう。

 原子力エネルギーが環境にクリーンというなら、スウェーデン以外の先進工業国、たとえば、米国、英国、ドイツ、フランスなどが原子力エネルギーの利用にこれまで以上に積極的にならないのはなぜなのでしょうか? 

 前述の『エネルギーと環境』誌の1992年2月20日号は「IPCC報告、CO2への原子力貢献に否定的」という見出しを掲げ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の全体会合が2月にジュネーブで開催され、一昨年8月にまとめられた「第1次評価報告」の補足報告書がこの会合で了承されたことを報じています。この補足報告書では、CO2削減の最も効果的なオプションは生産から最終利用に至る各分野でのエネルギーの節約と効率化だとし、原子力の貢献には否定的だそうです。ちなみに、この補足報告書を策定したIPCCの「エネルギーと産業」を検討する分科会の共同議長国はわが国と中国です。
 

 化石燃料に乏しく、輸入石油への依存度が高いという点で、かつてはわが国と似た立場にあった工業国スウェーデンに対するこれらの素人の素朴な疑問に答えることこそ、わが国の原子力関係者に求められていることではないでしょうか?








東日本大震災:復興へ新税創設案(朝日新聞 朝刊)、  農漁業復興 国が全額負担(朝日新聞 夕刊)

2011-04-01 13:40:35 | 自然災害
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                              第6章の目次

 放射性廃棄物 

 スウェーデンの放射性廃棄物の処分は放射性廃棄物管理のガイドラインに沿って行われます。表10に一般的なガイドラインを示します。この他に技術的なガイドラインがあります。


 放射性廃棄物の処分については、原子力発電事業者が共同出資して1972年に設立したスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が1977年の「安全に関する条件法」に従って、放射性廃棄物の処分施設の建設を始めました。1985年には、高レベル廃棄物の中間貯蔵施設(CLAB)がオスカーシャム原発の敷地内で稼働を始め、1988年春には低・中レベル廃棄物の最終処分施設(SFR)がフォーシュマルク原発に隣接する海底で稼働を始めました。高レベル廃棄物(主として使用済み核燃料)は約30~40年間、CLABに中間保存した後、最終処分場(SFL)に移されることになっています。

 SFLは2000年頃、基本設計が行われ、2020年頃、稼働できるように建設される予定です。現在、稼働中の原子炉12基を2010年で全廃するという前提に立ち、放射性廃棄物の総排出量が試算され、その量に見合う設備の建設を進める計画が立てられています。


放射線被曝 

 原発で働く労働者の被曝についても出来る限り低く抑えています。図24は1989年4月に東京で開催された日本原子力産業会議の第22回年次大会に招かれたスウェーデンの原子力産業会議(SAFO)の会長で原子力メーカーABBアトム社の社長でもあるフォーゲルストレム氏が発表した資料からとったものです。国別の放射線被ばく量となります。







2011年3月のブログ掲載記事

2011-03-31 22:54:32 | 自然災害
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1.2011年3月のブログ掲載記事(2011-03-31)

2.東日本大震災:東電会長 廃炉認める(朝日新聞 朝刊)、 放射能封じ 長期戦(朝日新聞 夕刊)(2011-03-31)

3.東日本大震災:建屋 特殊布で覆う案(朝日新聞 朝刊)、 注水の調節 神経戦(朝日新聞 夕刊)(2011-03-30)

4.東日本大震災:汚染水、建屋外に(朝日新聞 朝刊)、 汚染水 移動作戦(朝日新聞 夕刊)(2011-03-29
 
5.東日本大震災:汚染水1〇〇〇ミリシーベルト超(朝日新聞 朝刊)、 圧力容器損傷に言及(朝日新聞 夕刊)(2011-03-28)

6.東日本大震災:汚染水の排出難航 福島第一(朝日新聞 朝刊)(2011-03-27)

7.東日本大震災:原子炉から漏出か(朝日新聞 朝刊)、 東電、作業員に汚染伝えず(朝日新聞 夕刊)(2011-03-26)

8.東日本大震災:福島第一、レベル6相当(朝日新聞 朝刊)、 被曝汚水濃度1万倍(朝日新聞 夕刊)(2011-03-25)

9.東日本大震災:取り残された2万人(朝日新聞 朝刊)、 うちの水は(朝日新聞 夕刊)(2011-03-24)

10. 東日本大震災:全号機で通電確認(朝日新聞 朝刊)、 首相、摂取制限を指示(朝日新聞 夕刊)(2011-03-23)

11.東日本大震災:首相、出荷停止を指示(朝日新聞 朝刊)、 電源復旧作業を再開(朝日新聞 夕刊)(2011-03-22)

12. 東日本大震災:80歳と16歳孫、救出、 福島第一 2号機通電(朝日新聞 朝刊)(2011-03-21)

13.東日本大震災:福島原発 通電へ(朝日新聞 朝刊)(2011-03-20)

14.東日本大震災:死者「阪神」超す(朝日新聞 朝刊)、 事故原発冷却の命脈(朝日新聞 夕刊)(2011-03-19)

15.東日本大震災:陸自が30トン放水(朝日新聞 朝刊)、 円高阻止へ 日米欧介入(朝日新聞 夕刊)(2011-03-18)

16.東日本大震災:原発 警視庁出動へ(朝日新聞 朝刊)、 3号機 注水作戦開始(朝日新聞 夕刊)(2011-03-17)

17.東日本大震災:福島第一 制御困難(朝日新聞 朝刊)、 3号機 格納容器損壊か(朝日新聞 夕刊)(2011-03-16)

18.東日本大震災:2号機も炉心溶融(朝日新聞 朝刊)、 圧力抑制室 損壊か(朝日新聞 夕刊) (2011-03-15)

19.東日本大震災:「死者は万単位」(朝日新聞 朝刊)、 計画停電大混乱(朝日新聞 夕刊)(2011-03-14)

20.東日本大震災:福島原発で爆発(朝日新聞 朝刊)、 3号機も冷却不全(朝日新聞 東日本大震災 特別号外)(2011-03-13)

21.東日本大震災:東日本大震災(朝日新聞朝刊)、 東北沿岸 壊滅的(朝日新聞夕刊)(2011-03-12)..

22.東北地方で大地震発生(2011-03-11)

東日本大震災:東電会長 廃炉認める(朝日新聞 朝刊)、  放射能封じ 長期戦(朝日新聞 夕刊)

2011-03-31 10:26:33 | 自然災害
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                              第6章の目次


原発の設備利用率  

 スウェーデンの原子炉メーカーABBアトム社製の沸騰水型原子炉(BWR)は11基(スウェーデンに9基、フィンランドに2基)あり、1988年の総発電電力量は63.4TWhで、その設備利用率(Capacity Factor)は82.4%でした。設備利用率(%)というのは総発電電力量×100/(認可出力×暦時間数)であらわされます。

 1979年および1980年に運転開始したフィンランドのOlkiluoto 原子力発電所のTVO1号機、2号機の設備利用率はそれぞれ92.9%、99.1%でした。


 原子炉の安全性

 1979年のスリーマイル島原発事故を教訓に原子炉の安全性をいっそう高めるために、デンマークに近いバルセベック原発の2基の原子炉に「フィルトラ・システム」を新たに設置しました。この装置は1985年より稼働し始め、1989年には同種の装置が残りの10基の原子炉に設置され、現在では、12基すべての原子炉で稼働しています。

 このシステムはわが国でも一部で検討されましたが、まだ設置には至っていません。 わが国流に言えば、いっそうの安全性を高めるために「原子炉の多重防護(具体的には五重の防護)」に、さらにもう一重の、つまり6重の防護が施されたことになります。







東日本大震災:建屋 特殊布で覆う案(朝日新聞 朝刊)、 注水の調節 神経戦(朝日新聞 夕刊)

2011-03-30 09:48:42 | 自然災害
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                              第6章の目次


現在の原発プログラム

 図23から、脱原発を含めたスウェーデンの原子力プログラムの全体像の概要を読み取ることができます。安全対策、廃棄物対策が着実に進められていることがわかるでしよう。


 表9は、現在、稼働中の原子炉です。



 『スウェーデン原子力産業会議(SAFO)ニュース』の1989年5月号によりますと、原子力関係の行政機関である原子力監督機関(SKI)および放射線防護研究所(SSI)は、オスカーシャム原発3号機およびフォーシュマルク原発3号機の定格出力をそれぞれ1055MWから1200MWに、リングハルス原発1号機の定格出力を750MWから820MWに増強するために提出されていた申請を承認しました。これに基づいて、政府は1989年3月にそれぞれに運転許可を与えました。これにより、原子力による年間発電量は1.5TWh増加可能になりました。 

 スウェーデンは国産原子炉技術を有する原発先進国です。すでに、1964年には地域暖房用の原子炉がオーゲスタで稼働を始めていましたし、1972年には発電用原子炉の1号機がオスカーシャム原発で運転開始しました。現在は1985年に運転開始した2基を最後に合計12基の原子炉を2010年までに全廃することにしています。

 スウェーデン原子力訓練センター(KSU,Swedish Nuclear Training Center)は1972年に稼働したオスカーシャム原発1号機から1985年9月稼働のフォーシュマルク原発3号機まで、現在、稼働中の原子炉合計12基の運転状況を調査し、1989年に公表しました。その概要は次のとおりです。

①沸騰水型原子炉(BWR)および加圧水型原子炉(PWR)の平均稼働率(Availability あるいは Operating Factor)は1985年まで徐々に改善され、それ以降、一定となった。稼働率(%)は稼動時間数×100/暦時間数Wで表される。
    
②スクラム(原子炉の自動緊急停止)数は1981年まで継続的に減少してきた。それ以降のスクラム数はBWR、PWR合わせて年平均五回以下に落ち着いている。
    
③全期間を通じて、スウェーデンの沸騰水型原子炉(BWR)の総被曝線量(Collective Radiation Exposure)はおよそ1人・シーベルトであった。加圧水型原子炉(PWR)の場合は、初期の頃、最大で3.5人・シーベルトであったが、1984年以降は2人・シーベルト以下となっている。 






東日本大震災:汚染水、建屋外に(朝日新聞 朝刊)、  汚染水 移動作戦(朝日新聞 夕刊)

2011-03-29 07:54:46 | 自然災害
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                              第6章の目次


脱原発までの経緯

スウェーデンの反原発運動はすでに1960年代に始まっていました。この国の原発プログラムを批判したノーベル賞受賞物理学者(ハネス・アルフベン博士)と野党であった中央党の国会議員(ビルギッタ・ハンブレウス女史)が初期の反原発運動の中心でした。

 1970年代初めの頃は、他国と同様に、スウェーデンでも原子力はバラ色の時代であり、1990年までに現在の2倍の24基の原子炉を運転する計画がありました。当時、スウェーデンが悩まされていた硫黄酸化物(SOx)による大気汚染防止対策の観点からも、原発の建設は好ましいものと考えられていました。

 1972年(昭和47年)秋の国会で、ビルギッタ・ハンブレウス女史が原発から出る放射性廃棄物の処分について政府の見解をただした時、答弁に立った当時の産業大臣は「今のところ、国際的に認められた放射性廃棄物の最終処分方法はない」と答えました。同議員は「それならば」と原子炉新設の停止を求める提案を国会に提出しました。

 この提案は国会で否決されましたが、そのとき以来、原発は常に政治の重要な議題の一つになったのです。40ページの表1のように、国会の議席を分ける5大政党(社会主義陣営の社民党・共産党、非社会主義陣営の中央党・保守党・自由党)のうち、共産党と中央党が反原発の立場をとりました。その結果、原発問題はスウェーデンの政治を動かす社会主義陣営と非社会主義陣営の双方の陣営内に深い政治的亀裂を生じることになりました。



 1976年の総選挙で1932年に政権について以来、44年間政権を担当し、現在の福祉社会を築き上げてきた社民党が政権の座を降り、代わって、中央党・保守党・自由党の連立内閣が誕生しました。首相に就任した中央党の党首フェルディン氏は「原発廃棄」を公約していましたので、この連立内閣は新たに完成した原子炉を運転するかどうかをめぐって意見が対立し、1978年10月には内閣総辞職に発展しました。

 その後、自由党の単独内閣が生まれ、社民党と妥協して原子炉を12基まで認めるエネルギー政策案を国会に提出することにしていました。

 1979年3月、米国でスリーマイル島原発事故が起こりました。同年秋の総選挙を前に、社民党は「原発推進の立場」を変え、これまで消極的であった「原子力に関する国民投票」の実施を支持する姿勢を打ち出しました。政党間の交渉を経て1979年12月、国民投票を1980年3月23日に行うことが決まりました。国民投票の準備期間中は公平な投票が行われるように、原発の新たな活動を禁止し、新しく原子炉へ燃料を装荷することができなくなりました。

 1979年の総選挙で、再び、非社会主義陣営が勝ち、引き続き政権を担当することになりました。国民投票の当日まで様々なレベルで原発賛否の大キャンペーンが繰り広げられました。1980年3月23日、表6に示した3つの選択肢の中から一つを選ぶという方式で、「原子力に関する国民投票」が行われました。投票結果は表7に示した通りですが、第1案(原発容認)が18.9%、第2案(条件付き原発容認)が39.1%、第3案(原発反対)が38.7%でした。





 1980年6月、国会は、国民投票で過半数を占めた建設中の原子炉を含む12基すべてを使用するという結果を踏まえて、 「2010までに
12基の原子炉すべてを廃棄する」
という決議を行いました。

 1986年4月、ソ連でチェルノヴィリ原発事故が発生しました。

 1988年6月、国会は2基の原子炉を1995年および1996年に1基ずつ早期廃棄することを盛り込んだ政府のエネルギー政策ガイドライン(エネルギー・システムを修正するための政府の行動計画)を承認しました(表8)。


 以上のことから容易に理解できますように、スウェーデンのエネルギー政策における原発の扱いはそれを技術的な観点から否定したというよりも、むしろ、それを越えた政治的な判断でした。

 ここで注目すべきことは科学者が原発の抱える問題点を早い時期に指摘し、それを政治家が取り上げ、政治の場で議論し、政府が国民の意見を吸い上げながら、それを国の政策に反映してきたことです。 

次の項で述べますように、スリーマイル島原発事故の教訓は原子炉の安全性をいっそう高めるためにすべての原子炉に「フィルトラ・システム」という新しい放射能封じ込め装置を設置することにつながりましたし、1977年成立の「安全に関する条件法(Safety Stipulation Act) )と呼ばれる法律により原発の運転に伴って必ず排出される放射性廃棄物の処分対策も着実に進展してきました。

 しかも、原発で働く作業員の平均放射線被曝量は非常に低く抑えられています。ですから、政府も国民もスウェーデンの原子炉技術と原発の利用にはかなりの信頼をよせており、順調に稼働しているかぎりスウェーデンの原発の安全性は高いと考えています。しかし、現実問題として事故の起きる可能性は否定しきれませんし、原子力に関する国民投票では38.7%が原発反対に票を投じました。




東日本大震災:汚染水1〇〇〇ミリシーベルト超(朝日新聞 朝刊)、圧力容器損傷に言及(朝日新聞 夕刊)

2011-03-28 21:21:36 | 自然災害
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                              第6章の目次


原発

 スウェーデンは工業先進国の中で原子力発電に先駆的に取り組んできた国の一つで、外国からの技術に依存せず独特の沸騰水型軽水炉(BWR)を独自に開発した、純国産の原子炉技術を持つ原発技術先進国です。

 今日のスウェーデン型福祉社会の基礎を築いたといわれているエルランデル首相(当時)が1945年(昭和20年)に「原子力に関する委員会」を設置したのがスウェーデンの原子力開発の幕開けといわれています。

 1947年には、国(57%)と民間および自治体の電力事業者並びに産業界(43%)の出資で原子力研究開発公社、AB アトム・エネルギーが設立されました。増大する電力の需要に答えるために、迷うことなく、文字どおり官民あげてこの新しい十分な可能性を秘めた新技術の開発に全力を傾けたのです。


原発開発のパイオニア

 1950年代から1960年代にかけては、他の原発先進国と同様にスウェーデンの原発技術も研究段階でした。1963年(昭和38年)にはオーゲスタの原子炉が臨界に達し、1964年にはスウェーデン最初の商業用原子炉として運転を開始しました。この原子炉は小型の加圧型重水炉(PHWR)で、ストックホルム近郊の地域暖房用(熱供給能力:68MW、電力供給能力:12MW)に用いられ、1974年(昭和49年)までの10年間運転されましたが、当時の輸入石油の価格が安かったために石油燃焼の熱供給システムと競合できず廃止されました。

 この間に発電用原子炉の設計・建設が進み、1972年(昭和47年)にはスウェーデン最初の発電用商業原子炉(沸騰水型BWR)『オスカーシャム1号機』が運転開始しました。そして、現在では、1985年(昭和60年)に運転開始した2基の原子炉を最後に今後の建設の予定はなく、2010年までには現在稼働中の全原子炉(12基)が廃棄されることになっています。

 オスカーシャム1号機の建設と並行して、別の型の原子炉(加圧型重水炉PHWR)「マルビケン・プラント」の建設が行われ、試験が開始されました。ところが、試験中に「ボイド変形」という現象が観察されたので、この炉は運転開始を断念し、1970年(昭和45年)に廃棄の運命となりました。この「ボイド変形」という現象は1986年4月にソ連で起こったチェルノブイリ原発事故の原因の一つだったといわれています。運転開始を断念した技術者の決断はきわめて勇気のある決断でしたが、結果論としては賢明な選択であったといえるでしょう。



東日本大震災:汚染水の排出難航 福島第一(朝日新聞 朝刊)

2011-03-27 15:21:13 | 自然災害
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今日は日曜日のため、夕刊はなし。



                              第6章の目次


エネルギー体系修正の必要性

 以上のような状況から、現行のエネルギー体系の修正が求められているのです。エネルギー体系修正の方向として、二つの大きな方向が考えられます。一つはスウェーデンの試みで、もう一つの方向はわが国の目標とするところです。

●スウェーデンの試み           
 原子力に依存しない再生可能なエネルギー体系への転換         

●わが国の目標
 原子力に依存するエネルギー体系への転換 

 当然の帰結ですが、原子力に依存する場合には現在の軽水炉用のウランは可採年数による制限がありそうですから、プルトニウムを利用する高速増殖炉(FBR)の開発ということになり、使用済み核燃料の再処理が必要になります。スウェーデンは原子力に依存しないエネルギー体系を模索していますので、現在は、再処理施設の建設計画も、高速増殖炉の開発計画もありません。

 私たちは将来のエネルギー体系の中でプルトニウムを利用するにしろ、しないにしろ、なぜ、わが国を除く工業先進国がプルトニウムの利用に積極的でないのかをしっかり見極めておかなければなりません。日本経済新聞(1991年6月1日号)は「原子力委員会が、ほぼ五年ごとに改定している原子力開発利用長期計画に盛られてきた高速増殖炉(FBR)の実用化時期は後退の一途だ。1967年に作った計画から計算すると2020~2030年を実用化時期とする現行計画は、約50年もの遅れが生じている」と述べ、次のようにこれまでの目標時期の後退を報じています。

 「原子力開発利用長期計画」にみるFBR実用化の目標時期の後退
 
 計画策定時期     実用化時期
  1967年     1985年~1986年
  1972年     1985年~1995年
  1978年     1995年~2005年
  1982年     2010年頃
  1987年     2020年~2030年

 現在の実用化の時期は2020年~2030年と見積もられていますが、この頃には石油、天然ガスには赤信号がともり始めている頃でしょうから、これ以上の遅れは許されないことになります。しかも、原子力は化石燃料と違って化学原料にはなりません。電気を取り出すか、熱を取り出すしかありません。

 現時点では高速増殖炉が電力供給源として考えられていますが、プルトニウム経済の社会がどのような社会なのか私たちはまったくといってよいほど知らされていません。想像されるのは民主主義とは正反対の管理社会となりそうだということです。

 原子力に依存しようとしまいと、いずれの場合をめざすにしても、あるいは第三の道を歩むにしろ、技術による狭い意味の省エネルギーではなくて、国全体のエネルギー消費を増加させないという意味の省エネルギーがエネルギーの安定的な供給のためにも、環境への配慮の点からも、何にもまして重要であることがおわかりいただけるでしょう。

 ここで、将来のエネルギー体系を考える際の一つの参考として米国の環境問題のシンクタンク、ワールドウオッチ研究所の所長で、わが国にも馴染みのあるレスター・ブラウン氏は1990年1月3日付の朝日新聞で、地球に破壊的な影響を与える気候変動を避けるためには  

 ①エネルギー効率を高め、
 ②再生可能なエネルギーを開発し、
 ③原子力という選択肢を捨てる

ことだと思うと結論づけていることを紹介しておきましょう。スウェーデンが国を挙げて模索しているエネルギー体系はこの線に沿ったものです。



東日本大震災:原子炉から漏出か(朝日新聞 朝刊)、東電、作業員に汚染伝えず(朝日新聞 夕刊)

2011-03-26 22:14:23 | 自然災害
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                              第6章の目次


持続可能な開発のためのエネルギー体系 (-昨日からの続き-)

 世界の科学者が懸念している二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスによるとされる地球温暖化の問題はその影響が将来出てくるという点では科学者の間でほとんど合意されているとしても、それが「いつ頃から、どのくらいの規模で」という点になりますと不確実性が伴い、はっきりしていません。

 その点では、私はこのエネルギー問題のほうが確実性が高いと思うのですが、どうして、わが国では、この現実を直視しないのでしょうか? これまで多くの専門家と呼ばれる方々は「人間には英知(叡智)があるから……」といい続けてきましたが、もし、人間に英知があるというのなら、もっとはっきり言えば、わが国のエネルギーの専門家やその周辺に位置し、エネルギー問題や環境問題を論じている科学者、技術者、行政官、経済人、評論家、経済学者、ジャーナリストなどは今こそ、その英知を発揮して、現在のわが国のエネルギー体系の実情を国民に易しく提示して国民の英知を求めるべき時ではないのでしょうか?

 私の理解では、わが国のエネルギー体系の深刻さの度合いはスウェーデンの比ではありません。スウェーデンの福祉政策や民主主義の話をすると必ず出てくる質問に「スウェーデンの人口はわずか850万だが、わが国は1億2千万だから…」というスウェーデンにできて、わが国にはできないときの言い訳としてしばしば引用される人口の大きさの相違はこのようなエネルギーの問題を考えるときこそ「わが国の重要な要因」として考えておかなければならないことなのです。

「わが国の人口規模の大きさおよび産業活動の規模の大きさ」と「エネルギー問題に対する認識の薄さ」がわが国のエネルギー問題への取り組みを難しくしているのです。さらに困ったことには、その深刻さをわが国の経済人も、技術者、学者、評論家、ジャーナリストも一般国民も多くを語る割りには、ほとんど認識していないように見えることです。 

 もう一度くり返しましょう。あえて、“苦悩”という言葉を使うとすれば、スウェーデンはわが国のように現在および近未来のエネルギーの「供給量」で苦悩しているのではなく、自らに厳しい条件を課して、2010年以降のエネルギーの「供給の質と量」を修正するために苦悩しているのです。

 スウェーデンの原子力の動向に一喜一憂するよりも、わが国の現状を十分に国民に知らせ、わが国の国民生活の安定のために国を挙げての協力体制を早急に造り上げることがエネルギーの供給安定のためにも欠かせないことだと思いますがいかがでしょうか? 

 英知を発揮する方向は今までの技術者が考えてきた技術開発によるエネルギー供給の増大による安定供給(この考えがおかしいのではないかということがここでの議論です)ではなくて、まったく逆の「現行の社会システムをエネルギーの供給量および需要量が増えないような、できるものなら、年々、エネルギーの供給量および需要量が減少するような社会システム」に変更していく方向です。この方向は、いうまでもなく、「エネルギー供給の安定化」への方向でもあるのです。

 この方向に沿うようなエネルギーの研究開発に予算を積極的につける必要があります。当然のことですが、このエネルギー問題の解決への方向は地球温暖化の問題の解決の方向と同一方向にあります。つまり、エネルギーの総供給量および総消費量を減ずる方向です。わが国の方向はこれまでエネルギーの総供給量を常に増大する方向で、世界共通の問題解決の方向とは逆向きの方向に向いているのではないでしょうか?

 全エネルギーの海外依存度が80%以上(図22)で、しかも、そのエネルギー消費量が米国、ソ連、中国に次いで世界第四位のエネルギー消費大国であるわが国では、エネルギー増大の方向でエネルギー供給の安定化を図るよりも、減少の方向で安定化を図るほうが容易であることは疑いの余地もありません。






東日本大震災:福島第一、レベル6相当(朝日新聞 朝刊)、被曝汚水濃度1万倍(朝日新聞 夕刊)

2011-03-25 21:35:45 | 自然災害
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                              第6章の目次


持続可能な開発のためのエネルギー体系

 1987年の「環境と開発に関する世界委員会」の最終報告書(ブルントラント報告)で、広くわが国で知られるようになった「持続可能な開発(Sustainable Development)」のためには、先ず、エネルギー体系自体が持続可能なものでなければならないのは自明の理です。図21を見て下さい。この図は世界のエネルギー資源の確認可採埋蔵量を示す図で、わが国の通産省が発表した総合エネルギー統計を基に、(財)原子力文化振興財団が広報用に作成した資料の一つです。



 ここに示された数値は資料の発表年度によって少しずつ違ってはいますが、ここに示された数値によれば、それぞれの燃料の可採年数(確認可採埋蔵量を年間生産量で割ったもの)は石油が50年、天然ガスが50年、石炭が330年、現在の軽水炉型の原子炉で利用されるウランが60年(高速増殖炉によるウランの効率的な利用をまったく行わない場合)となっており、これがプルトニウムを利用すればウランは3600年になるとしています。

 ですから、仮に世界の国々が現行のエネルギー体系のままで、将来、エネルギーを消費し続けるとして、しかもこの可採埋蔵量をすべて燃料として使用できるものとすれば、ここに示した可採年数が飛躍的に(少なくとも100とか200年程度)大きくならない限り、石炭を除けば石油も、天然ガスも、あるいはウランさえも、今後50~60年足らずでなくなってしまうかも知れないという計算になります。

 簡単に言えば、現在のようなエネルギー体系のままでは、わずか一世代つまり私達の子供の代ですでにエネルギーに赤信号がともるかもしれないというわけです。しかし、石油、天然ガス、石炭はエネルギーとして使用するだけでなく、化学原料としても利用するわけですし、エネルギー体系を修正しない限り、人口の増加にともなってエネルギーの消費量は増加するでしょうから、実際の赤信号のともる時期はもう少し早くなると考えるべきではないでしょうか? 

 あなたが、今、仮に20歳であったとしたら、あなたが60歳か70歳になった頃、そして、もし、あなたに生まれたばかりの子供があったとしたら、その子供が社会の中心になる40~50歳ぐらいになった頃には、この問題に直面することになるかも知れません。

 現在のエネルギー体系のままで、世界がエネルギー資源を消費し続けると、一体どのくらいで地球上のエネルギー資源がなくなってしまうのか心配になりますが、この疑問に正しく答えられる人はおそらくいないでしょう。「神のみぞ知る」と答えるのが無難であり、また、正しい答えでもあるでしょう。しかし、私たちの地球が有限であること、私たちの生命の維持に欠かせないエネルギーを地球のエネルギー資源に依存していることをはっきり認識すれば、この疑問に対する回答を探そうと考えるのは当然でしょう。

 エネルギーの専門機関の一つであるわが国の石油連盟の広報用資料「石油のQアンドA」(1991年3月)には「石油があとどれくらいあるかという目安のひとつとして、可採年数(R/P ある年の年末の原油確認埋蔵量をその年の原油生産量で割った数値が使われます」と書いてありますし、日本エネルギー経済研究所や日本ガス協会などのエネルギー専門の方々、また、別の機関に属するエネルギーの専門家も、とりあえずの手掛かりとして、この「可採年数(R/P)」を参考にしているようです。

 ただし、この可採年数から、地球上のエネルギー資源があとどのくらいあるかという点になりますと、その推定は人によりさまざまですが、エネルギー関連の雑誌、書籍、エネルギー関連の方々の座談会記事に散見される推定では、「石炭を除く化石燃料とウランは21世紀の前半ぐらいまでは十分だろうが、21世紀の後半になると供給面でかなり制約が出てくる」ということに落ち着きそうです。つまり、この推定はあと50年~60年後には制約が出てくると考えられるといっているのです。
                        
                           -明日に続く-





東日本大震災:取り残された2万人(朝日新聞 朝刊)、うちの水は(朝日新聞 夕刊)

2011-03-24 21:37:34 | 自然災害
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                              第6章の目次


スウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の関心

 スウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の関心あるいは一般の理解は脱原発に集中しているといっても過言ではないでしょう。この傾向はわが国だけでなく、欧米のジャーナリズムも大同小異です。ですから、わが国のジャーナリズムや欧米のジャーナリズムの提供する断片的な情報ばかり見ていますと、スウェーデンのエネルギー政策は、即、脱原発政策となってしまうのです。スウェーデンのエネルギー政策を真面目に分析しようとするならば、国内や欧米のジャーナリズムが伝える断片的な情報だけでなく、スウェーデンから入手した資料をもとにスウェーデン社会の背景を考慮に入れてスウェーデンのエネルギー政策に関する議論を展開する必要があります。

 スウェーデンのエネルギー政策は単に「脱原発政策」ではありません。このことは後述する1988年の「エネルギー政策ガイドライン」、1990年の「2015年の環境に適合するエネルギー体系のシナリオ」、1991年の「エネルギー政策」を見れば明らかです。仮に、スウェーデンのエネルギー政策が『脱原発政策』であるなら、現在、数%に過ぎない火力発電をわが国並みに(わが国の火力発電の総発電電力量に占める割合はおよそ60%です)高めればよいはずです。この場合に、スウェーデンが必要とする石炭や天然ガスなどの化石燃料をスウェーデンに輸出したい国はかなりあるでしょうし、必要な公害防止技術を輸出したい国もあるはずです。つまり、スウェーデンのエネルギー政策が「脱原発政策」であって、「とにかく原発を廃棄したい」というだけのことであれば、その代替策としては世界のほとんどの工業先進国が利用しているにもかかわらず、スウェーデンでは利用されていない火力発電の建設を進めればよいのです。

    ①なぜ、スウェーデンはわが国や他の工業先進国がこれまで進めて来たエネルギー供給システムやこれから進めて行こうとするエネルギー供
      給システムにあまり積極的でないのでしょうか? 
    ②その理由はスウェーデンが他の工業先進国に比べて、科学技術力が劣るからなのでしょうか?
    ③それとも、スウェーデンは他国から石炭などのエネルギー源や、“わが国が世界に誇る”高価な公害防止機器を輸入できるだけの経済力がな
      い経済小国だからなのでしょうか?
    ④あるいは、逆に、スウェーデンは現実を直視していない理想主義に走り過ぎた国だからなのでしょうか?

 もし事実がその通りであるなら、私にもスウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の論調が理解できます。けれども、私はこのいずれもが正しい理解だとは思いません。もっとはっきり言えば、いずれもが間違っていると思います。スウェーデンの科学技術力や経済力については、わが国のまとも専門家はそれを正しく理解しているはずですし、スウェーデンの原発技術にいたっては、わが国の原子力専門家をはじめ世界の原子力の専門家がその技術レベルの高さを最もよく知っているはずです。それでは、なぜ、スウェーデンは、わが国のジャーナリズムや原子力関係者の一部の言葉を借りれば、エネルギー政策で“迷走”したり、“苦悩”したりしているのでしょうか?

 それはスウェーデンが「現実を重視する国」であって、エネルギー問題の現実を直視し、それを基に将来のエネルギー体系のありかたを長期的に真剣に考えているからなのです。残念ながら、わが国は「目の前の現実」の対応に追われ、現実を直視してこれからの数世代が必要とするエネルギー体系のことまで考える余裕がないように思えてなりません。あえて、“苦悩”という言葉を使うとすれば、スウェーデンは、わが国のように、現在および近未来のエネルギーの「供給量」で苦悩しているのではなく、自らに厳しい条件を課して2010年以降のエネルギーの「供給の質と量」を修正するために苦悩していると言えるでしょう。

 スウェーデンのエネルギー政策で注目すべき重要な点は原発に依存する現在のエネルギー体系を、可能ならば「原発に依存しない、環境にやさしい、持続可能なエネルギー体系」に変えて行くというエネルギー体系の修正です。スウェーデン政府はエネルギー政策が環境問題と密接なかかわりがあることを十分認識してきました。その上で、原発を段階的に廃棄していこうとするわけですから、スウェーデンのエネルギー政策の当面の大きな柱は「電気の合理的利用、省電力および省エネルギー」です。めざすところはこれまでの「集中型エネルギー供給システム」からローカル・エネルギー主体の「分散型エネルギー・システム」への転換です。この政策を実行に移す社会的な前提としては、産業構造、交通体系および家庭など社会全体の電気の利用方法を見直す必要があります。そして、必要ならば、法の改正等の社会システムの変更を伴うので、政府機関を挙げての協力と産業界および国民各層の協力が必要となります。これらの十分な協力があって初めてスウェーデンの意図する脱原発が可能となるのです。

 私はこれまでに、わが国のエネルギー関係者やジャーナリストをはじめ、エネルギーに関心を持つ一般の方々まで様々な人々からスウェーデンのエネルギー政策について質問を受けました。私がおもしろいと思ったのはそれらの質問の大部分が

   ●スウェーデンは本当に脱原発ができるのか?
   ●その場合の代替エネルギーは何か?

の2点にみごとなまでに集中していることでした。

 これらの問いに対する私の答えは前述したとおりです。わが国のジャーナリズムやエネルギーの専門家はわが国の狭い視点のみで、スウェーデンのエネルギー政策を分析し、論じているため、「スウェーデンのエネルギー政策が福祉政策と連動している」という最も重要な視点が完全に欠落していますし、「エネルギー政策が環境政策をはじめとする国の他の重要な諸政策とも連動している」という視点もほとんどありません。このことはわが国の縦割り行政のために、わが国のエネルギー政策が福祉政策とは連動しておらず、国の他の政策とも連動してるとはいい難い状態にあることを意味しています。

 スウェーデンのエネルギー政策について、私がここで、もう一度強調しておきたいことは「スウェーデンが長年かかって築き上げてきた福祉社会を維持し、発展させるために、エネルギーが必要であり、その福祉社会に適したエネルギー体系が必要である」ということです。1985年のエネルギー政策ガイドラインには「スウェーデンのエネルギー政策は福祉社会に貢献しなければならない」とはっきり書いてありますし、さらに

    ●経済、産業の持続的な発展に貢献しなければならない、
    ●失業を増やしてはならない、
    ●社会的、経済的な機会を均等に与えなければならない

と明記されています。当然のことながら、環境への配慮も明記されています。






東日本大震災:全号機で通電確認(朝日新聞 朝刊)、首相、摂取制限を指示(朝日新聞 夕刊)

2011-03-23 23:23:38 | 自然災害
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                              第6章の目次


共通する二つの誤解

 ここでは、多くの記事に共通する誤解を2つ挙げるにとどめます。第一は「スウェーデンの原発廃棄が国民投票によって決まった」とする点です。この点には2つの誤りが含まれています。その一つは国民投票の結果は12基までとの上限はあるものの、過半数(58.0%:第1案+第2案)が原発の存続に投票していること(204ページ表7参照)。もう一つはスウェーデンの国民投票は、スイスの国民投票とは違い、投票の結果が自動的に国会や政府を拘束するものではないことです。

 つまり、この誤解は「スウェーデンの国民投票とはどのようなものなのか」を理解していないという単純な理由によるものです。それでは、何がスウェーデンの原発廃棄を決めたのでしょうか? それは国民投票の3か月後、つまり1980年6月の「国会決議」で、この国会決議によって2010年までにスウェーデンの原子炉12基すべてを段階的に廃棄することが正式に決まったのです。

 第二はスウェーデンのエネルギー政策に関する英文資料にしばしば登場する「Energy Bill」とか、「Government Bill on Energy Policy」という言葉の中の「Bill」という単語の意味です。この場合の「Bill」をわが国のジャーナリズムやエネルギー関係者はほとんど例外なく「法案」と訳し、読者を混乱させています。「法案」が国会に提出され、国会を通過したので「法律」ができた、つまり、「エネルギー法」とか、わが国の最大の関心である原発のみに注目して「脱原発法」ができたという理解が多いのですが、実際はそうではありません。しかし、このように報じた一般紙もあります。

 この場合の「Bill」は「法案」ではなくて、法律とは何ら関係のない「政策案」と訳すべきものです。スウェーデンでは、国の重要な政策の決定に国会の承認が必要なので、政府は定められた時期に政府の政策案(Government Bill)を国会に上程し、その承認を得るという手順を踏みます。これら共通の誤りはスウェーデンの政策決定システムがわが国のそれと異なることを理解せずに、わが国の政策決定システムを頭においてスウェーデンを解釈していることから生じた単純な誤りなのです。わが国のジャーナリストや専門家と称される方々が書くスウェーデンのエネルギー政策に関する論文や記事の中には、スウェーデンの社会システムを考慮に入れないために生じた誤解や曲解の例が多々見受けられます。



東日本大震災:首相、出荷停止を指示(朝日新聞 朝刊)、電源復旧作業を再開(朝日新聞 夕刊)

2011-03-22 18:56:39 | 自然災害
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                              第6章の目次


誤解・曲解等の生ずる主な理由

 スウェーデン政府が国会に上程していたエネルギー政策案が1988年6月に国会で承認され、国のエネルギー政策ガイドラインが決まって以来、わが国の新聞、雑誌、テレビなどのマスコミでスウェーデンのエネルギー政策が取り上げられる機会が増えてきました。

 1988年6月から1989年10月までのおよそ1年半の間に、私の目に触れたものだけでもおよそ70点を越える記事や番組がありました。巻末にこれらの記事や番組のリストを掲げておきました。これらはいずれも一般紙、市販の雑誌、単行本、テレビ、企業の広報資料などが取り上げたものですから、エネルギー問題に関心を持つ方ならば一般の方でも容易に入手可能なものばかりです。この中には業界の専門誌、報告書の類いは含まれていません。データ・ベースの力を借りて調べれば、さらに多くの記事が見つかると思います。

 これらのマスコミに登場する記事の書き手の多くはジャーナリスト、フリーライター、技術評論家、エネルギー分野の専門家、経済評論家として積極的に発言している方々、原子力分野の専門家や技術者・研究者、関係省庁の担当者、企業や関連団体の原子力担当の技術者や原子力広報の担当者などで、一般の方々から見ればその道の専門家ということになるのでしょうが、残念なことに、彼等が書くスウェーデンのエネルギー政策(多くの場合、原子力の動向に関するものに限られていますが)に関する断片的な解説記事には、私の理解からするとさまざまな誤解、曲解、希望的観測、思惑、なかには意図的に一般の読者をある方向へ誘導させようとする試みではないかと思うようなものまであります。 

 その一例として、1989年2月14日付け毎日新聞の「提言」欄に掲載された国際原子力機関(IAEA)の前広報部長吉田康彦さんの投稿記事「原発推進は世界の大勢」があります。この記事のスウェーデンの記述に明らかな誤りと読者の誤解を誘いそうな箇所がありましたので、私は同年3月13日付け毎日新聞の同欄に反論を書きました。吉田さんの投稿記事と私の反論を図19に載せておきましたので、比較しながらお読みください。
 
吉田さんはスウェーデンに関する部分で、「1991年に再度国民投票を実施する予定である」と述べています。私は「吉田さんの1991年国民投票再開催説」が誤りであることを指摘しておきました。問題の1991年はすでに過去となりましたが、スウェーデンでこの年に国民投票が開催された事実もなければ、はっきりした予定も組まれておりませんでした。吉田さんの記述は明らかに誤っていたのです。吉田さんの問題の記事の中でスウェーデンに関する記述は17行ありますが、この記述は読者の誤解を誘うようなことばかりです。スウェーデンの原子力問題という共通のテーマに対して、私の理解と吉田さんの理解にはかなりの相違があることがおわかりいただけると思います。 

 また、吉田さんの投稿記事の中に「最近の世論調査では46%が2010年以降も原発継続を希望しており……」とありますが、この数字にもコメントしておく必要があります。後述する「原発に関する国民投票」の結果にも示されていますように、58%は「原発容認」に票を投じているのです。国民投票には「2010年まで」という原発の使用制限は付けられておりませんでしたので、58%の原発容認に投票した人々は2010年を超えて原発の寿命が来るまで使用するという考えに立っているはずです。ですから、この46%という数字は原発容認の58%と比較しても小さい数字であると言えます。さらに、図20-1・2に示しました「大事故を起こさずに原発を運転できる可能性」、「原発運転の是非」を見ても、チェルノブイリ原発事故の直後に一時的に不安は増すものの、常に、60~70%の人々は原発を“是”としているのです。




 したがって、「46%が2010年以降も原発継続を希望しており……」などという表現は初めてこの数字を見せられた読者には一見もっともらしく思われるかも知れませんが、ほとんど意味のない数字だといわざるをえません。

 意図的な誘導は別ですが、誤解・曲解などの生ずる理由は簡単です。わが国の関心事である「スウェーデンの脱原発」に焦点を合わせて、エネルギー政策の「原発の部分」だけを抜き出して報じたり、あるいは、わが国とスウェーデンでは社会システムや価値観にさまざまな相違があるという事実にもかかわらず、それらを考慮せずにスウェーデンから入手した情報を、全体像を見ずにその関心のある一部分のみを「ある種の先入観あるいは期待感」と「わが国の視点」あるいは「書き手自身の狭い視点」で分析しているからです。

 そして、多くの場合、それらの記事の執筆者がその道の専門家であるために、その解説記事がそのまま他の人の記事に引用されていくからだと思います。外国の代表的なジャーナリズムの解説記事も同様で、しばしば誤りが認められます。その理由はわが国と大同小異です。ですから、スウェーデンのエネルギー政策を分析する際にはエネルギー全体を広くとらえると共に、エネルギー政策が国の他の重要な政策と連動していることを理解し、その上で、「わが国とスウェーデンは異なった価値観の上に立つ工業国である」という認識を持つことが必要なのです。