環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

東日本大震災:福島原発 通電へ(朝日新聞 朝刊)

2011-03-20 18:32:51 | 自然災害
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今日は日曜日なので、夕刊はなし。



                              第6章の目次

『いま、環境・エネルギー問題を考える 現実主義の国 スウェーデンをとおして』 

はじめに

 わが国のジャーナリズムはスウェーデンを「実験国」と表現するのを好みますが、この表現は読者を誤解に導くおそれがあると思います。「スウェーデンは非常に現実的な国で、様々な社会事象を総合的に考え、それらの整合性をはかりながら着実に行動に移す試みを長年にわたって進めてきた人口わずか850万の小国である」というのがスウェーデンに対する私の現在の理解です。スウェーデンは理想主義の国ではなく、「現実主義(プラグマティズム)の国」です。

 100年前、スウェーデンはヨーロッパで最も貧しい国の一つでした。1932年(昭和7年)に政権の座についた社民党がその理想とする「平等社会の実現」に向けて、「安心感」、「機会均等」、「連帯感」などの価値観を社会建設の基本概念とする福祉国家(今、はやりの言葉で言えば、生活大国といってもよいでしょう)の建設に着手し、さまざまな試みを行なってきた結果、スウェーデンはこの50年間でヨーロッパの最貧国から最も裕福な福祉国家の一つとなりました。

 100年前といえば、わが国ではちょうど明治の中頃(明治二十年代)にあたりますが、その頃、わが国は富国強兵・殖産興業を旗印に掲げて、西洋に追いつくことを目標に工業に力を入れ、近代化をめざしていました。第二次大戦後は戦後の復興とその後の発展のために、富国強兵・殖産興業に代わって、経済成長を政策目標として掲げ、広い国民の支持を背景に努力して来た結果、現在では、「経済大国」と呼ばれるまでになりました。

 21世紀を目前に控えて、世界は、現在、激しく流動し、大きな転換期を迎えています。両国を取り巻く国際情勢は激変し、さまざまな問題が顕在化し、私たちの目に見えるようになってきました。環境問題はその最大のものです。なぜかといいますと環境問題は経済分野の一部門としての問題ではなく、私たちの生命維持基盤そのものの問題だからです。このような環境問題に対する認識の下に、現実を重視するスウェーデンはこれまでに築き上げてきた福祉社会を維持し、さらに発展させるための経済基盤の充実をはかるために、現行の社会システムの改革や微調整を数年前から開始しました。一方、わが国は、今後、「経済大国」から「生活大国」への転換の道を歩もうとしています。

 福祉、社会保障および富の公平な分配がスウェーデンの社会構造の要です。「人生のさまざまな段階で人々が必要とするとき必要な援助を社会の集合的努力で提供すること」がスウェーデンの理念であるとすれば、その主導価値は「自由、平等、機会均等、平和、安全、安心感、連帯感そして公正」です。スウェーデンでは、「福祉か、成長か」という二者択一論ではなくて、経済成長に歩調を合わせて社会保障のシステムを広げ、物質的繁栄を増大することを可能にしてきました。

 「発展」あるいは「成長」が製品を製造し、サービスを提供する能力の増大を意味するのであれば、人の健康や環境を犠牲にした製品の製造やサービスの提供の増大はスウェーデンの「福祉社会」の発展には望ましくありません。環境問題のキー・ワードである「持続可能な開発」とは「未来の世代に対して、少なくとも現在、私たちが享受していると同程度の豊かさを確保するような開発」と定義されています。「持続可能な開発」のためのすぐれた基礎を、今、築いておかなければなりません。 

 1991年9月の総選挙の結果、社民党政権に代わって登場した財界・産業界が支持する保守党を中心とした連立政権のビルト新首相(保守党)は、10月4日の国会開会にあたって、政府の施政方針演説を行いました。施政方針の4つの基本柱は次のとおりです。

    (1)欧州共同体(EC)への加盟推進
    (2)景気後退の克服と経済の再建
    (3)選択の自由による福祉の向上
    (4)現在よりもクリーンな環境をめざした「持続可能な開発』」の枠組みの構築 

 この4つの基本柱からも容易に想像できますように、社民党政権を引き継いだ新政権も社民党政権と同様に「福祉の向上」や「環境問題」に力を入れていることがわかります。福祉の向上のために、福祉の基盤である経済の再建と環境問題を重要視しています。環境問題、福祉の問題は主義主張の問題ではなく、国民すべてにかかわる問題で、突き詰めれば、存在基盤の問題、人権の問題だとの意識が働いているからです。

 新聞、雑誌、テレビなどのマスコミを通じて、スウェーデンのさまざまな社会事象がことあるごとにわが国に断片的に紹介されます。1988年夏以降は、特に、脱原発を含むエネルギー政策に関する話題が多く目につくようになりました。残念なことに、これらの記事の中には、私の理解からすると多くの誤りと誤解、曲解があります。

 私はいわゆる環境問題の専門家でもなければ、エネルギーの専門家でもありませんし、ましてや、スウェーデンの専門家ではありません。私は1973年からスウェーデン大使館科学部で環境問題を担当し、1986年から環境問題とエネルギー問題を担当してきました。この本の骨格を形づくるものは大使館科学部での実務を通じて得た知識と体験と私自身の環境・エネルギー問題に対する視点です。

 原発問題を考えるときには原発だけでなく、エネルギー全体を考えなければなりませんし、エネルギー問題を考えれば環境問題を考える必要がありますし、環境問題を議論するには産業界を含めた社会全体を意識することになりますし、否応なく、政治、行政、司法など社会システムそのものを考慮に入れる必要があります。これが私の環境・エネルギー問題を考えるときの基本的な考え方です。私はこの様な考えに基づいてこの本を書きました。

 この本が人口わずか850万という小国スウェーデンに関心を持たれた一般の方々の理解の出発点となれば幸いですし、また、環境問題、エネルギー問題の分野を専門とする方々には、スウェーデンの環境政策やエネルギー政策を議論する際の共通のたたき台となれば幸いです。

 この本を読む際には、次の5つの点を心に留めておいてください。
   ①「わが国とスウェーデンは異なった価値観に立った工業国である」と考えるべきであること。
   ②私はスウェーデンの専門家ではなく、スウェーデンに関する情報の提供者の一人に過ぎないこと。
   ③ここに書いたスウェーデンの社会システム、環境問題、エネルギー問題はあくまで私個人の観察であり、理解であること。
   ④ここに書いたことの大部分は1991年の前半までのことであること。
   ⑤ほとんどすべてのことは「相対的」であり、「絶対的」ではないということ。

 同じ資料を見ても、その解釈は見る人の知識と立場、あるいは見方によって異なることがあるものです。スウェーデンに関する英語の資料の数は限られておりますので、私が“誤りが多い”と判断する記事を書いたジャーナリストや専門家の方々が参考にした資料と、私が参考にした資料とでは共通するものが多いだろうと思います。ですから、同じテーマに対して、大きく考えが異なるようであれば、大いに議論しましょう。議論を通じて、私自身の理解の誤りを正すことができますし、さらに理解を深めることができると思うからです。

 スウェーデンに関する私たちの理解を深めるために、そして、今、私たちが直面している世界共通の環境問題やエネルギー問題に対する私たちの理解を深めるために、この本を基に大いに議論しましょう。スウェーデンの福祉、医療、政治、歴史、外交、社会、教育、自然などの個々のテーマについては、そのテーマごとに専門家の方々がそれぞれの立場で立派な本を書いておられますので、興味があればそれらを参考にしてください。

 1972年6月に第1回国連人間環境会議がスウェーデンの首都ストックホルムで開かれてから、そろそろ20年が経過しようとしています。私は、スウェーデンの故パルメ首相がこの国連人間環境会議の開催中にある小グループの会合で述べたといわれる次の言葉に、スウェーデンの環境問題に対する考え方が実にみごとに凝縮されていると思います。    

科学者の役割は事態があまり深刻にならないうちに事実を指摘することにある。科学者はわかりやすい形で政治家に問題を提起して欲しい。    

政治家の役割はそうした科学的な判断に基づいて政策を実行することにある。その最も具体的な表現は政府の予算だ。政策の意図が政府の予算編成に反映されることが必要だ。

 1992年6月には、第2回国連人間環境会議に相当する国連環境開発会議がブラジルで開催されます。折りしも、地球環境問題が私たちの日常の会話にものぼるようになりました。現在、地球環境問題として認識されている諸問題の多くは人間の活動に起因するものですから、「人間の活動は基本的には環境に有害な活動である」と認識した上で、「その環境に有害な活動」をその時々の最良の、しかも経済性を伴う技術で最小限に抑え込むよう求める1969年制定のスウェーデンの「環境保護法」はわが国流にいえば「環境アセスメント法」ともいえるもので、国内の環境問題への対応ばかりでなく、地球環境問題に対しても十分適用可能であろうと思います。


1991年6月 環境週間によせて                   
                                    小沢徳太郎



 

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